「点字通訳者」という職業をご存知ですか?
「点字通訳者」という言葉に、聞き覚えのある方は少ないでしょう。
「点字」は目の不自由な方が使うものだと見当はつくけれど、「点字通訳者」となると、どんな職業なのかほとんど知らないという方が多いのではないかと思います。
ここでは、点字通訳者という職業がどんなものであるか、その仕事内容、どうしたら点字通訳者になれるのか、その勤め先、収入、やりがい、たいへんなこと、そしてこれからの需要など、以下に詳しく解説していきます。
点字通訳者はどんな仕事をしているのか興味のある方、そして将来点字通訳者になりたいと思っている方は、ぜひお読みください。きっと有益な情報が得られるはずです。
点字通訳者はどんな仕事をしているのでしょう?
点字通訳者とは?
目で読む人のために文字になっている文章を「墨字」といい、視覚障害者が指で触って読む文字を「点字」といいます。
点字は、紙面に突起した六つの点を、一定の方式で組み合わせてあり、それを視覚障害者が指で触って読んでいくものです。
この墨字を点字に変換して本などにする人が、点字通訳者です。
また視覚障害者が不自由なく外出し、社会活動に参加できるよう、地図や案内板の文字も点字に変換します。
もちろん、視覚障害者に対する深い理解が必要です。
点字通訳者の仕事内容
墨字を縦3点・横2点の点(凸面)を組み合わせて、「点字」に翻訳していくのが仕事です。
点字タイプライターなどの専用の道具を使い、針のような点筆と呼ばれるもので、紙に点字を書いていきます。
点字は、通常の言葉として使用されるひらがなや漢字とは異なる体系となっています。
点字は、記号や数字、アルファベット以外は、すべてひらがなです。
また単純にひらがななどの文字を、点字に置き換えすればよいというものではありません。
場合により使い分けをしながら表記をしていくという通訳能力が必要になってきます。
意味や発音に注意しながら、スペースを入れるなど読みやすくなる工夫をするのです。
これまでは一文字ずつ手作業でしたが、最近は自動点訳やデータ化ができるようになりました。
点字に通訳するときには、でき上がったものを他の点字通訳者が、細かく校正する仕事もあります。
点字のルールに沿って通訳ができているか、分かりにくい部分がないかなどを細かく確認します。
点字通訳者の収入
点字通訳を専門に働いている人は、少ないのが現状です。
たいていは福祉関係の施設や学校、点字図書館、行政機関などで技能を活かすほかは、ボランティアとして活動する人が多いです。
自治体や福祉施設、養護施設などで働く場合、施設の職員として他の職員と同じ内容の仕事をします。その中で、「点字が分かる職員」として働く人が多いようです。
そのため、収入もその職場で働いている場合の金額になります。
月収は約20~24万円、年収にすると約350万円前後といったところです。
点字通訳者になるためには?
高校卒業後、点字通訳を学べる大学・専門学校に進むのが一般的です。
卒業後、自治体やボランティア団体、障害者施設や福祉施設などへ就職し、習得した技能を活かします。
以下に、関係大学・専門学校を紹介しておきます。
(大学)
・身延大学仏教学科
https://shingakunet.com/gakko/SC000330/gakubugakka/00000000000137067/
(専門学校)
・福岡介護福祉専門学校介護福祉科
https://shingakunet.com/gakko/SC002375/gakubugakka/00000000000157556/
・町田福祉保育専門学校介護福祉学科
https://shingakunet.com/gakko/SC002065/gakubugakka/00000000000153758/
・亀田医療技術専門学校介護福祉学科
https://shingakunet.com/gakko/SC004811/gakubugakka/00000000000224667/
必要な資格
点字通訳者の資格として、点字の基本的なしくみを理解するための「点字技能検定」があります。
社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会、および社会福祉法人日本盲人会連合によって主催されていますが、これは実際に点字資料作成に3年以上従事した人が取得可能な資格です。
初心者の場合は、「ビジネス点字検定」があります。
これは、点字をこれから学ぶ人向けの資格としてすすめられていて、そこで基本を学んだあとにボランティアとして作業に参加をすることができます。
点字通訳者の適正とは?
どんな人が点字通訳者に向いているのですか?
冒頭で述べたように、まず視覚障害者に対して、深く理解できることでしょう。
目が不自由であるということは、どういうことなのか。
視覚障害者が日常生活において、何が不自由なのか、どんな気持ちで毎日を過ごしているのか。そのことについて、深い理解と共感が必要です。
あとは、仕事の内容的なことになります。以下、箇条書きにして説明していきます。
・点字のルールや技術の詳しい知識がある
これは、大前提になります。
・文章の内容を深く理解できる
本を点字にするとき、その内容をよく理解し、作者が何を読者に伝えたいのか、よく把握している必要があります。
そしてそのことを視覚障害者にわかりやすく伝えることができなければなりません。
なぜなら点字は、すべてひらがなに変換しますが、漢字にはさまざまな読み方があります。
その文章において、どの読み方があてはまるのか、またどう読めば視覚障害者の方に本の内容がよく伝わるのか、常に意識する必要があるからです。
・作業がていねいである
点字通訳は、細かい作業になります。
点字を打つこと自体そうですが、平仮名に変換するために区切りや言葉の読み、意味について細かく注意しなければなりません。
ていねいな作業ができる人でないと、勤まらない仕事です。
・コミュニケーション能力が豊かである
翻訳したものを他の点字通訳者に校正してもらわなければなりませんが、そのためにはコミュニケーション能力がが重要になってきます。
また、「言葉」に対してさまざまな意味の把握ができることも必要です。
点字にした文章を相手がどのように読むかなど、視覚障害者の立場に立って考えられる能力が大切です。
・文章力がある
点字に翻訳する場合、時には表現方法を少し変えた方がうまく伝わることがあります。
その際、自分の語彙力や表現力が必要になってきます。
どうすれば分かりやすく表現することができるか、普段から読書や文章を書くなどして、自分のスキルを磨いておくことが大切です。
点字通訳者のやりがい
点字通訳者は、専門的な知識と技術を持っています。これら知識と技術がは、誰でも持てるものではありません。
そして視覚障害者は、点字がないと必要な情報を得ることができません。毎日の生活もままならなくなります。
自分の知識や技術が誰かのために役立っているということは、十分なやりがいになるのではないでしょうか。
また点字通訳者の場合、それは社会的貢献であるとも言えます。
点字通訳者の大変さ
まず現代の人たちに点字の理解が乏しいところでしょう。
点字の重要性や存在を知らないがゆえに、間違っている点字を掲示することもあるようです。
点字を使う人のことを考えると、重大な事故につながることもあります。
また事故の危険性ではありませんが、たとえば博物館や美術館などで、「視覚障害の方へ」と点字の説明文があったとします。
しかし、その中の点字に間違いがあった場合、楽しみに訪れた人はどんな気持ちになるでしょうか。
おそらく点字に対する理解のなさに落胆したり、場合にいよっては憤りを感じるかもしれません。
このようなことから、点字の重要性をもっと多くの人に理解してほしいところです。
そしてもうひとつは前述したように、点字通訳者の知識や技術にプラスアルファとして、自分独自のスキルを自分自身で磨いていかなければならないところでしょう。
点字通訳者は今後もまだ必要とされるのですか?
点字通訳者の仕事はなくなることはありません。
人は外界からの情報を受けるとき、その9割を視覚から得られる情報に頼っていると言われています。
そのため生まれつき目が見えない人や、糖尿病の合併症など後天的な要因により視覚が奪われてしまった人にとっては、外界からの情報をほとんど自力で得ることができなくなってしまいます。
点字通訳者は、そうした人に目が見えている時と同じように必要な情報を得られるように、できるだけ多くの文書を点字にしていく作業に従事していきます。
また各都道府県には、点字図書館が必ず1つ以上はあります。
多いところでは3~4ヶ所あるので、そこに置いている書物などを点訳するために、点字通訳者は必要です。新発売された小説などは、発売から約半年後くらいに点字に翻訳されます。
ですから、視覚に障害を抱える人が必要とする点字翻訳を行う点字通訳者は、今後もなくならない職業と言えるでしょう。
視覚障害を持つ人は高齢者人口とともに増加傾向にあることから、今後もより点字通訳者の活躍の場は広がっていくことが予想されます。
まとめ
いかがでしたか?
点字通訳者について
・その仕事内容
・どうすれば点字通訳者になれるのか?
・どこへ就職できるのか?
・点字通訳者のやりがい、たいへんなところ
・点字通訳者の今後の需要
以上について解説してきました。
点字通訳者はどんな仕事をして、その仕事にはどんな特徴があるのか、お分かりいただけたと思います。
しかし一番大切なのは、仕事の内容を知ることだけでなく、視覚障害者にどう向き合えるのか、その心構えでしょう。
そのためには、何度も述べてきたように、視覚障害者に対する深い理解と共感が必要です。
ひいては、障害を持つ方すべてに対する自分の心のあり方が問題になってきます。
点字通訳者を目指す方は、障害者福祉全般を学ぶ必要があるでしょう。