「せん妄」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
これは、「見当識障害(※)」から始まる場合が多く、徐々に注意力や思考力が低下してさまざまな症状を引き起こすこととなります。
※「見当識障害」:時間や場所が急に分からなくなる障害のこと※
せん妄とは、どういった症状を引き起こすのでしょうか?
もし、家族や周囲の人にこの症状があらわれた場合、どのように対処すればいいでしょうか?
また、「せん妄」と「認知症」には、どのような違いがあるのでしょうか?
今回は、こういった内容について、詳しくご紹介していきたいと思います。
発症するとどうなるの?
概要
これは、「意識精神障害」の一種であり、特にお年を召した方に見られる病気です。
この病気が引き起こされる原因はさまざまですが、主に“身体疾患”や“薬の影響”などが挙げられます。
そして、発症することで引き起こされる要因には、以下のようなものが挙げられます。
◆「注意力の低下」
◆「思考力の低下」
これらの症状は「認知症」と症状がよく似ており、似ているものとして勘違いしてしまう人がいます。
「認知症」とは何が違う?
結論から言うと、「せん妄」と「認知症」とは、似て非なる病気です。
その最大の違いは、「一過性か否か」という点にあります。
まず前者の場合は、発症期間が一時的であることが多いです。
加えて、急に症状が現れることから、発症のタイミングを特定しやすくもあります。
対して「認知症」の場合は、一度発症すると基本的には認知機能が戻らず進行していくのが特徴となります。
そしてもう一つ。
せん妄の症状の中心は、「意識の障害」となります。
それに対し認知症の症状の中心は、「記憶の障害」となります。
このことから、前者は「意識障害」が起こりますが、後者は「意識自体はおおむね正常」と言えるのです。
つまりこの2つは、「意識」「発症時期」「症状」などの点で違いがあるのです。
ちなみに、「せん妄」と「認知症」は同時に掛かることもあります。
一応、症状は治療などで治る可能性もあるのですが、認知症である方がせん妄になると、認知機能が完全に元の状態に戻らないこともあります。
加えてもう一つ。
前者は、“身体に負担が掛かりやすい高齢者が、症状に陥りやすい”というだけであって、本来は「年齢に関係なく生じる病気である」ということも忘れてはいけません。
年齢に関係なく=お子さんや成人であっても発生する可能性は0ではないため、気を付けておく必要はあります。
このように、症状は認知症と似てはいるものの、まったく異なる病気となりますので、症状をしっかりと理解し最善の注意を払っておきましょう。
主な症状について
引き起こされる主な症状としては、以下の5つが挙げられます。
順に開設していきましょう。
主な症状1.注意力・思考力の低下する
まずこれは、注意力の低下によって、会話に集中できなったり・視点が定まらなかったりすることを指します。
加えて、思考力も低下することから、「会話がかみ合わない」「考えがまとまらない」「ボーとしている」といった症状が起こりうる可能性もあります。
主な症状2.認知機能の障害が起こる
症状によっては、「見当識障害」が起こりうる可能性があります。
「見当識」というのは、自分が置かれている状況(年月日・時間・季節・場所・人物など)を正しく認識する能力のことです。
つまり、これに障害が起こると、以下のような事柄を正確に認識できなくなってしまうのです。
◆「帰り道がわからなくなる」
◆「自分が誰なのかがわからなくなる」
◆「周囲の人(家族や知人)が分からなくなる」
◆「最近のできごとを思い出せなくなる」
仮に症状が落ち着いたとしても、発症していた時の記憶を思い出せない場合も多いのが特徴となります。
主な症状3.感情が変動する
簡単に言うと、「感情が不安定になる」のです。
「不安」「イライラ」「興奮」「憂鬱」など、感情の変化が起こります。
加えて、例えば「内向的だった人が、急に攻撃的になる」など、人格にすら変化が起こる可能性もあります。
人によっては、性格が大きく変わることもあるため、「いつもと何か違う」という印象を受けることもあるはずです。
主な症状4.睡眠・覚醒リズムの障害が起こる
◆落ち着かない
◆昼夜逆転する
◆日中に寝ぼけた状態にある
◆夜間に症状が発症する
など、上記のような睡眠障害が起こる可能性があります。
主な症状5.幻覚や錯覚が起こる
上項でもお伝えした通り、これは「意識・精神の障害」の一つとなります。
そのため、意識の混濁によって「錯覚」や「幻覚」が起こる可能性があるのです。
実際にはいない生き物や動物が見えたり、幻覚に怯えたり恐怖を感じたりすることがあるそうです。
「夜間せん妄」ってなに?
これは、夜間に症状が現れることをいいます。
例えば、以下のような行動を起こす場合などが挙げられます。
◆夜に、独り言をブツブツと言う
◆周囲の状況がわからずに、怯える
など
これらが起きる要因は、「夜間は暗くなり、周囲が見えにくくなるから」です。
夜……というより暗がりは、不安感や恐怖感を覚えやすく、またそういった気持ちが大きくなりがちです。
そのため、日中よりも症状が発症しやすいと言われているのです。
ちなみに、上記のような症状は、夜間にだけ起きるものであり、周囲が明るくなる日中には落ち着くことがほとんどです。
症状には3つのタイプが存在する
一言で言い表しても、その症状にはさまざまな種類が存在します。
大別すると、以下の3種類です。
2.「低活動型」
3.「混合型」
こちらも、順に詳細を解説していきましょう。
タイプ1.「過活動型」
特徴は、以下の通りです。
◆興奮したりイライラしたりで落ち着かない
◆幻覚や妄想が出現する
◆辻褄が合わない
◆不眠
要するに、「気分・感情の移り変わりが激しい」ということです。
これは「認知症」の症状とよく似ているため、よく間違えられる傾向になります。
タイプ2.「低活動型」
こちらの場合は、以下のような特徴が挙げられます。
◆反応が乏しくなる
◆無表情になる
◆無気力になる
上記の「過活動型」が認知症と間違われやすいのと同様に、こちらの場合は「うつ病」に間違えられやすいといわれています。
この問題は、「症状が分かりにくい」というのがあります。
そのため、見過ごされたり、他の疾患と間違われたりすることも多く、注意が必要です。
3.「混合型」
“混合”と記載されている通り、これは上記でご紹介した「過活動型と低活動型の、どちらの症状もがあらわれること」を指しています。
つまり、より気分の移り変わりが激しくなる……もっと言うと、「精神状態が不安定になる」といえます。
「原因」はなんなのか?
結論から言うと、この症状の“具体的な発症原因”は、まだ不明なままです。
何かしらの疾患が「脳」に影響した際に起こるということまでは判明しています。
ただ、具体的に、「脳のどの部分が・どんな損傷を受けて発症するのか?」この具体的な部分が明らかになっていないのです。
とはいえ、原因は、以下3つの大きな因子に分類されることは分かっています。
◆加齢
◆脳血管障害
◆認知症 など
【誘発因子】
◆身体的ストレス
◆環境の変化 など
【直接因子】
◆手術
◆薬 など
また、「気質疾患」「肺炎による酸素不足」「内臓(肝臓や腎臓など)の病気」が原因となることもあります。
とはいえ、具体的な原因がまだまだ解明されていないので、もし「何かおかしいな……」と感じたら、すぐに病院に診察に行くのが良いのかもしれません。
まとめ
以上が、「せん妄の症状や原因、認知症との違い」についてのご紹介となります。
せん妄の原因はまだまだ解明されていないことが多く、「認知症」や「うつ病」などと間違われることも多々あります。
しかし、せん妄そのものは、時間経過や治療などで治せる可能性もありますし、ある程度予防をすることも可能です。
そのため、日ごろからの予防を行うことはもちろん、「何か様子がおかしいな……?」と思ったら、早めに病院に診察に行くのが良いかと思います。