リハビリの専門家として病院や介護施設など、様々な場で活躍する作業療法士。
今後の高齢化社会ではますますその需要が見込まれます。
「作業療法士になりたいけれど、何が必要なの?」「学費ってどれぐらいかかるんだろう…」今回はそんな疑問にお答えすべく、作業療法士になるために必要な資格や費用について解説していきます。
作業療法士になる為には何が必要なの?
作業療法とは
作業療法士とは、「作業」に関するリハビリテーションの専門家です。
脳卒中や交通事故などで身体に麻痺を負った人や障がいのある人に対して、日常生活で必要な作業の改善をサポートするのが主な仕事内容です。
着替えやトイレなどの日常生活動作はもちろん、家事、仕事、余暇に至るまで様々な作業動作の改善を目指すことで、「その人らしい生活」が出来るようサポートしていく役割があります。
理学療法士が「歩く・座る」など身体の大きな動作を改善する役割があるのに対して、作業療法士は「食事・歯磨き」など日常に必要な応用動作を改善する役割があります。
また、身体面だけではなく統合失調症や気分障がいなど心のケアが必要な方に対してアプローチする役割があることも作業療法士の特徴の一つです。
このように作業療法士は、病気や怪我を負った人が社会との繋がりを取り戻すためのサポートをする重要な役割があります。
作業療法士になるためには国家試験に合格すること
作業療法士になるためには、作業療法士国家試験に合格する必要があります。
試験は毎年2月下旬から3月上旬頃に実施され、合格発表は3月下旬頃にあります。
受験資格
国家試験を受験するためには、文部科学大臣が指定した学校又は都道府県知事が指定した作業療法士養成施設において、3年以上必要な知識や技能を学ぶ必要があります。
以下は2021年に実施された第56回作業療法士国家資格の受験資格です。
(1)学校教育法(昭和22年法律第26号)第90条第1項の規定により大学に入学することができる者(法第12条第1号の規定により文部科学大臣の指定した学校が大学である場合において、当該大学が学校教育法第90条第2項の規定により当該大学に入学させた者又は法附則第6項の規定により学校教育法第90条第1項の規定により大学に入学することができる者とみなされる者を含む。)であって、文部科学省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものとして、文部科学大臣が指定した学校又は都道府県知事が指定した作業療法士養成施設において、3年以上作業療法士として必要な知識及び技能を修得したもの(令和3年3月15日(月曜日)までに修業し、又は卒業する見込みの者を含む。)
(2)外国の作業療法に関する学校若しくは養成施設を卒業し、又は外国で作業療法士の免許に相当する免許を受けた者であって、厚生労働大臣が(1)に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認定したもの
(3)法施行の際(昭和40年8月28日)現に文部大臣又は厚生大臣が指定した学校又は施設において、作業療法士となるのに必要な知識及び技能を修業中であって、法施行後に当該学校又は施設を卒業した者
引用:厚生労働省HP(https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shikaku_shiken/sagyouryouhoushi/)
試験内容
試験の内容は筆記試験で、一般問題(160問)と実地問題(40問)に分かれています。
合格基準はおおよそ実地問題で35%、総得点で60%になりますが、年により多少の変動があります。
<試験科目>
・一般問題
解剖学、生理学、運動学、病理学概論、臨床心理学、リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む。)、臨床医学大要(人間発達学を含む。)及び作業療法
・実地問題
運動学、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要(人間発達学を含む。)及び作業療法
試験地
作業療法士国家試験の試験地は、主要都市となっています。
2021年に実施された第56回作業療法士国家試験の試験地は、北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、香川県、福岡県及び沖縄県でした。
国家試験の難易度は?
作業療法士国家試験の合格率は、例年70~85%程度となっています。
ほとんどの年で既卒者の合格率は新卒者の半分以下となっており、時間的に余裕のある新卒で資格を取得しておくことが望ましいと言えます。
<過去5年間の合格率>
新卒者
既卒者
第56回(2021年)
88.8%
25.2%
第55回(2020年)
94.2%
66.3%
第54回(2019年)
80.0%
34.6%
第53回(2018年)
85.2%
31.9%
第52回(2017年)
90.5%
30.4%
引用:東京アカデミーHP(https://www.tokyo-ac.jp/qualification/info-exam/info-exam02/)
受験勉強について
作業療法士の国家試験は新卒者の合格率が7~8割と高めではありますが、それでも油断は禁物です。
国家資格であるため、試験に落ちると就職先の内定取り消しなんて事態にもなりかねません。
しっかりと対策をして試験に臨みましょう。
作業療法士の国家試験は毎年2月下旬から3月頃に実施されます。
最終年次の夏頃には現場での臨床実習があるため、それを見越して受験勉強のスケジュールを組んでおく必要があります。
実習は基本的に1~2ヶ月間あるため、その間は受験勉強ができないものとしてスケジュールを組んでおくと良いです。
一般的には試験の1年~1年半前頃から対策をしておけば、余裕を持って試験に臨めるでしょう。
最終年次の秋頃からは模擬試験が実施される学校もあるので、国家試験に向けて活用していくと良いです。
作業療法士になる為に必要な学費は?
受験資格を得られる学校について
作業療法士の国家試験を受けるためには、専門の学校や養成施設を卒業することで受験資格を得る必要があります。
受験資格を得られる学校や養成施設は全国に約200校ほどあり、4年制・3年制や昼間・夜間など、様々なスタイルの学校があります。
受験資格を得られる学校及び養成施設は以下の3種類になります。
①4年制大学
②3年制短期大学
③都道府県知事が指定する養成施設(専門学校など)
学ぶ内容はどの学校でも同じですが、4年制大学や3年制短期大学は作業療法士の受験に関わる科目だけではなく、語学や一般教養などの科目も卒業単位に含まれていることが多いです。
学校の選び方としては、時間をかけて幅広い知識を身に付けたい人は4年制大学、作業療法士として必要な知識だけを短期間で学びたいという人は3年制の専門学校を選ぶのがオススメです。
学費はどれぐらいかかる?
作業理療法士の受験資格を得られるのは①4年制大学②3年制短期大学③都道府県知事が指定する養成施設(専門学校など)ですが、それぞれ学費がどれぐらいかかるのかを比較していきます。
学費(初年度) | 学費(2年目以降) | |
①4年制大学 | (私立)190~230万円 | (私立)160~170万円 |
(国公立)80~90万円 | (国公立)50~60万円 | |
②3年制短期大学 | 120~180万円 | 110~150万円 |
③都道府県知事が指定する 養成施設(専門学校など) | 130~160万円 | 110~140万円 |
どの学校も初年度は入学金として20~50万円程度かかるところが多いです。
作業療法士の受験資格が得られる学校は理系学部になるため、文系学部に比べると全体的に学費も高い傾向にあります。
学費を節約したいという人は、4年制の国公立大学や3年制の専門学校などがオススメです。
学費を抑える方法
作業療法士になりたいけれど、学費の面で不安があるという人のために学費を抑える方法をご紹介します。
①奨学金制度
代表的なものは日本学生支援機構の奨学金ですが、その他にも民間団体や地方公共団体など奨学金制度を利用できる団体があります。
ここでは例として日本学生支援機構の奨学金制度についてご紹介します。
日本学生支援機構の奨学金制度には、第一種奨学金と第二種奨学金の2種類があります。
第一種奨学金 | 第二種奨学金 | |
利息 | 無利息 | 在学中は無利息 (卒業後は0.5~3%) |
貸与額(月額) | (国公立大学) 自宅から通学:¥45,000 自宅外から通学:¥51,000 (私立大学) 自宅から通学:¥54,000 自宅外から通学:¥64,000 | 以下から選択 ¥30,000 ¥50,000 ¥80,000 ¥100,000 ¥120,000 |
②学校の特待生制度
学校によっては入試の成績次第で特待生制度を受けられるところもあります。
選抜されると10~30万円の授業料免除を受けられることもあるので、受験校を選ぶ際は一度調べてみても良いかもしれません。
③教育ローン
国や金融機関など、教育ローンを実施している機関があります。
世帯の収入によって申し込み条件はありますが、奨学金と違って成績による条件がないのが特徴です。
また、奨学金は学生本人に返済義務が生じますが、教育ローンは基本的に保護者に返済義務が生じます。
作業療法士の活躍の場と必要なスキル
作業療法士の活躍の場
国家試験に合格すれば、いよいよ作業療法士として現場で勤務することになります。
作業療法士の活躍の場は近年ますます広がってきています。
主な勤務先をいくつかご紹介します。
<医療>
一般病院/精神科病院/クリニック/訪問看護ステーションなど
<福祉>
児童発達支援センター/障害福祉サービス事業所など
<介護>
介護老人保健施設/通所リハビリテーション/訪問リハビリテーションなど
<労働>
ハローワーク/就業・生活支援センターなど
<保健>
保健所/地域包括支援センター/地方自治体など
<教育>
特別支援学校/教育委員会など
<司法>
刑務所/保護観察所など
作業療法士に必要なスキル
作業療法士は多くの人と関わる仕事なので、リハビリテーションのスキルはもちろん様々なスキルが求められます。
ここでは作業療法士として働く上で必要なスキルについて解説していきます。
①コミュニケーション能力
作業療法士に一番必要なスキルはコミュニケーション能力です。
患者さんだけではなく、作業療法士が働く現場には医療職や福祉職など様々な職種が働いています。
他職種との連携をする上で、相手の意図を汲み取ったり自分の意見を伝える能力は必須だと言えるでしょう。
②観察力・洞察力
作業療法士は理学療法士と違って、日常の小さな動作の改善を担当します。
ですから、その人の小さな変化にもいち早く気づいて対応していくスキルが求められます。
そうして患者さんを観察し、どうすれば動作を改善できるのか試行錯誤していくことが作業療法士の役割です。
③忍耐力
心のケアが必要な患者さんにアプローチすることもある作業療法士にとって、忍耐力は必須のスキルです。
コミュニケーションの難しい患者さんと信頼関係を築くには、根気強くアプローチしていく必要があります。
時間をかけて関係性を築いていく忍耐力が作業療法士には求められます。
まとめ
作業療法士になる為には、
①専門の学校を卒業することで国家試験の受験資格を得る
②作業療法士国家試験に合格する
以上の2点が必要になります。
また、学費については奨学金や特待生制度を利用することである程度抑えることができます。
あとは作業療法士として必須のコミュニケーション力、観察力、忍耐力があれば作業療法士として現場で活躍できる人材になれるのではないでしょうか