テレビや講演会などで、演者の脇に立って手話を使っている人を見たことはありませんか?NHK EテレでもV6の三宅健さんが出演する番組が放映されており、興味を持っているファンの方も多いのではないでしょうか。
一方で、手話によるコミュニケーションが必要な聴覚・言語障害を抱える方は全国に34.2万人いるとされています。
日本に住んでいる人のうち約370人に1人という計算になります。きっとあなたの身近にも手話通訳士として活躍している方がいるはずです。
この記事では、聴覚・言語障害を抱えて困っている方たちを支えてる手話通訳士について、詳しくご紹介していきます。
1.手話通訳士とは
この章では、手話通訳士について以下の2つに分けて詳しく説明していきます。
手話通訳士の仕事内容ってなに?
手話通訳士が活躍する場所
1-1.手話通訳士の仕事内容
手話通訳士とは、何らかの障がいにより耳が聞こえない方(聞こえにくい方)や言葉を発することが難しい方のために言葉のやり取りを仲介する仕事です。
例えば1対1で会話をする場合は、コミュニケーションを図る2人の間に入って手話で通訳することによって会話のやり取りを支援します。
講演会等の大多数に向かって手話通訳を行う際は、演者が話している内容を手話で表現します。講演会などの長時間に渡る場合は、数名が20分程度の間隔でバトンタッチしながら切れ目なく通訳を実施しています。あらかじめ演者が話す内容について打ち合わせを行っておくことによって、スムーズな通訳を実現しているのです。
手話通訳士とは、主に聴力や言語に障がいを抱えている方を対象に、手話を使ってコミュニケーションを図る仕事です。耳が聞こえづらかったり上手く言葉にして表現することが難しい方にとっては、無くてはならない存在なのです。
1-2.手話通訳士が活躍する場所
手話通訳士が活躍できる場所は多岐に渡ります。手話を必要としている障がい者は施設だけでなく、一般市民として地域で生活しているからです。人が生きる上で必要とされる施設全てに雇用の機会があります。
市役所や医療施設といった公共性の高い施設で常勤として勤務している場合もあれば、都道府県認定の手話通訳者として登録して依頼に応じて派遣される方がいらっしゃったりと、など様々です。ろう学校の職員や障がい者関連施設、介護保険制度関連施設で活躍している方もいます。
近年は一般商社やお店、銀行などでも採用試験の際に有利となるケースが増えています。幅広く障がいを持つ方に対応する体制を整えようとする企業が多いので、公共施設や福祉施設以外でも活躍が期待されています。
現在、手話通訳士の資格を持っている方は全国で3,882名です。しかしこの中で手話通訳士を本業として働いている方はほんの一握りです。手話通訳士として活動している方の多くは、都道府県や市町村の依頼に応じて派遣手話通訳士として業務に当たっているのが実情です。
【表:手話通訳士が働く勤務先例】
常勤の場合 | 非常勤の場合 |
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2.手話通訳士の資格について
第一章では、職業としての手話通訳士について説明してきました。この章では、資格としての手話通訳士について徹底解説していきます。押さえておくべき手話通訳士のポイントは、以下の4つです。
手話通訳士は公的資格である
手話通訳士を取得するためには試験に合格する必要がある
手話通訳士の試験は独学でも合格できる
手話通訳士以外にも類似する資格がある
それでは、それぞれのポイント毎に詳しくご紹介して参ります。
2-1.手話通訳士は公的資格である
手話通訳士は、厚生労働省が認定する公的な資格です。「厚生労働省令 第九六号」によって規定されており、「社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター」が認定しています。
手話通訳自体は知識や技能があれば無資格でも実施することが出来ます。ただし、「手話通訳士」という名称は資格を持っていないと名乗ることが認められていません。
例えば高齢者介護の場合、身体介護や家事援助等の業務自体は無資格でも行うことが出来ます。しかし、介護福祉士を名乗るためには国家試験に合格して登録手続きを行わなければなりません。
手話通訳士は厚生労働省が認める公的資格です。介護福祉士のような国家資格ではありませんが、国が法令で定めている影響力のある資格です。資格を認定・管理している「社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター」では、資格所持者の氏名も公開していますので、一度ご覧になってみては如何でしょうか。
2-2.手話通訳士の取得には試験に合格する必要がある
手話通訳士を取得するためには、年一回実施される試験に合格する必要があります。
以下の6つが特に注意するべき手話通訳士の試験のポイントです。
手話通訳士試験の名称は「手話通訳技能認定試験」という。
手話通訳技能認定試験の合格率は、平均して15%である。
手話通訳技能認定試験の受験資格は「20歳以上であれば可」である。
試験内容は「学科試験」「実技試験」である。
受験会場は全国5ヶ所から選ぶことができる。
受験申込期間が短い。
手話通訳士試験の正式名称は「手話通訳技能認定試験」といいます。過去に31回実施されており、過去全体の合格率は15%です。非常に難度の高い資格と言えるでしょう。
【第27~31回 手話通訳技能認定試験 実施実績】
回 受験者数 合格者数 合格率 第27回(平成28年度) 1,076人 23人 2.1% 第28回(平成29年度) 1,058人 119人 11.2% 第29回(平成30年度) 1,037人 85人 8.2% 第30回(令和元年度) 1,105人 108人 9.8% 第31回(令和2年度) 1,100人 121人 11.0% 過去全累計 26,832人 3,866人 15.0% ※引用(一部抜粋):社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター 受験者数・合格者数等データ
気になる受験資格ですが、20歳以上であれば誰でも受験することが出来ます。実務経験や学歴は問いません。
試験内容は「学科試験」と「実技試験」があります。更に「実技試験」は聞き取った内容を手話に通訳する「聞き取り試験」と、手話を言葉に通訳する「読み取り試験」に分かれています。学科試験に合格した者だけが次の実技試験を受験することが出来ます。
令和3年度の場合、受験会場は全国主要都市5ヶ所(宮城・埼玉・東京・大阪・熊本)から選択することができます。居住地によって受験会場が指定されるのではなく、自己選択制です。
例年、一次試験である学科試験が行われるのは5月ですので、受験申込期間には注意が必要です。令和3年度の場合、受付期間は令和3年4月1日~4月15日に設定されており、すでに受付が終了しています。他の介護福祉系国家資格と違い、受験申込期間が短いのには注意しておきましょう。
手話通訳士の試験は20歳以上であれば誰でもチャレンジすることができる一方で、合格率は15%と難関資格となっています。一次試験である「学科試験」・二次試験である「実技試験」に分かれており、令和3年度の場合は受験申込期間が15日間と短期間になっています。手話通訳士の資格を目指している方は早めに公式ページをチェックし、試験に備える必要がありますね。
2-3.手話通訳士の試験は独学でも合格できる
手話通訳士の試験は非常に難関であると言えますが、実務経験や指定された養成機関を卒業する等の受験資格がありません。そのため、努力すれば独学でも合格することが可能です。
例えば、試験を実施する「社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター」では、過去に出題された問題と正答を公開しています。学科試験の問題だけでなく、実技試験についても出題内容や要約文を無料でダウンロードすることが出来ます。
また、同サイトでは手話の学び方として
- 地域の手話講習会で学ぶ
- 地域の手話サークルで学ぶ
- 専門学校・高等教育機関などの養成校で学ぶ
- テレビ番組で学ぶ
- 書籍で学ぶ
以上5つの方法を紹介しています。
合格率が低い資格ではありますが、手話通訳士の試験は例え独学でも合格できる可能性があります。ぜひ、積極的に挑戦してみましょう。
2-4.【要注意】手話通訳士以外にも類似する資格がある
手話通訳に関連する資格は、手話通訳士だけではありません。類似する名称の資格がありますが、厚生労働省が認定する公的資格は手話通訳士だけです。良く混同されがちなので注意が必要です。
以下に、手話通訳士と類似する資格の違いをまとめましたのでご覧ください。
名称 | 概要 | 取得方法 | 認定機関 |
手話通訳士 | 厚生労働省が認定する公的資格である。 | 認定機関が実施する「手話通訳技能認定試験」に合格する。 | 社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター |
手話奉仕員 | 地域の聴覚障がい者団体の行事への参加や、手話サークル活動への参加等、手話活動を行う。仕事というよりは、聴覚障がいを持つ方と地域住民の橋渡しになるボランティアのような意味合い。 | 自治体や社会福祉協議会等が実施する講習会を修了する。 | 都道府県や市町村 |
手話通訳者 | 手話通訳に必要な知識及び技術等を習得し、自治体へ登録。地域において手話通訳活動を行う。 | 自治体が実施する講習会を修了する。 | 都道府県や市町村 |
手話技能検定 | 技能としての手話能力を計る民間の検定。1級~7級の全9段階がある。 | 認定機関が実施する「手話技能検定」に合格する。 | NPO手話技能検定協会 |
3.手話通訳士の給料は時給1,500円程度
筆者が独自に調査した結果、手話通訳士として働いている方の時給は1,000~1,500円程度が相場でした。しかし手話通訳士の数が少ない地方などでは、1,700~2,250円といった高時給で募集を出している機関もありました。
手話通訳士を本業とする方の殆どは、市役所職員や社会福祉協議会等で常勤として働いています。しかし本業としている方の数は少なく、大多数は公的機関に登録して非常勤として副業のように働いている方が殆どです。
自治体からの仕事の依頼でも時給は1,000~1,500円と比較的高いので、本業を別に持ちながら活動する方にとっては「人の役に立てる」「本業以外でお金を稼げる」一石二鳥の職業と言えます。
4.まとめ
いかがでしたか?
手話通訳士とは、厚生労働省が認定する公的資格でした。
聴覚や発語に障がいを抱える方を対象に手話による通訳を実施し、他者とのコミュニケーションを支援することが主な仕事です。活躍のフィールドは幅広く、公的機関や福祉施設だけでなく一般企業や店舗等でも活躍しています。
資格を取得するためには合格率15%といった難関試験を突破する必要がありますが、本業以外でも副業として収入を得ることも見込めます。障がいを抱える人が地域へ踏み出し、社会参加することを支援できる非常にやりがいのある仕事でもあります。
少しでも手話通訳士に興味があるのであれば、積極的にチャレンジすることをおススメします。