虐待に関するニュースをテレビなどで見たことがある人も少なくないかもしれません。
一言で「虐待」と言っても、実は色々な定義があるのをご存知ですか?
この記事は、虐待の定義や予防策を解説していきます。
虐待とは?
虐待の定義
虐待とは、日常的に暴力や暴言などの行為を繰り返し行うことです。
メディアなどでよく見かけるのは子どもへの虐待である「児童虐待」ですが、実は他の分野でも虐待と呼ばれるものは存在します。
高齢者分野では「高齢者虐待」、障害者分野では「障害者虐待」として、法律でその内容が詳しく決められています。
また、虐待は家庭内だけで起こるわけではなく、たとえば高齢者や障害者施設では職員からの虐待も存在します。
虐待は近しい家族間に限らず、施設の人間などの第三者との間でも起こりうることを理解しておくことが大切です。
児童虐待の定義
児童虐待には、大きく分けて4つの定義があるとされています。
①身体的虐待
殴る・蹴るなどの暴力で、児童の身体や生命に危険を及ぼすようなことをすること。
②性的虐待
児童に対して性的なことをしたり、させたりすること。
③ネグレクト
いわゆる育児放棄で、十分な食事を与えないなど保護者としての監護を著しく怠ること。
④心理的虐待
児童に対して暴言や拒絶など、精神的に危害を加えること。
高齢者・障害者虐待の定義
高齢者・障害者虐待の定義は大きく分けて5つあります。
①身体的虐待
高齢者・障害者に、暴力や体罰など身体的に危害を加えること。
②性的虐待
高齢者・障害者に、性的なことを強いること。
③心理的虐待
高齢者・障害者に、暴言や拒絶など精神的に危害を加えること。
④ネグレクト
高齢者・障害者に、食事や排泄などの介助を行わず、生活環境や身体・精神の状態を悪化させること。
⑤経済的虐待
高齢者・障害者本人の同意なしに、金銭や財産などを勝手に使うこと。
虐待の件数は年間どれぐらい?
①児童虐待
厚生労働省によると、2020年に児童虐待の相談対応した件数は193,780件でした。
児童虐待の件数は、年々右肩上がりに増加傾向にあるのが現状です。
②高齢者虐待
厚生労働省によると、2020年高齢者虐待であると市区町村が判断した件数は、養護者の虐待が16,928件、施設での虐待が644件となっています。
施設での虐待は見つけるのが難しく、実際の件数よりも少ない可能性があります。
③障害者虐待
厚生労働省によると、2020年中に障害者虐待であると市区町村が判断した件数は、養護者の虐待が1,655件、施設での虐待が547件となっています。
ここでもやはり、施設での虐待は見つけるのが難しいというのが問題点です。
誰からの虐待が多い?
児童虐待で一番多いのは実母
厚生労働省によると、児童虐待の死亡例で最も多かった加害者は実母という結果でした。
次いで実父、実母の交際相手という結果でした。
やはり児童と一番長い時間一緒にいる実母が加害者となることが多いです。
虐待の種類では、心理的虐待が一番多く、次に身体的虐待、ネグレクト、性的虐待でした。
ニュースなどでよく目にするのは、身体的虐待による死亡事例が多いですが、実は暴言といった精神的な虐待が一番多いです。
高齢者虐待で一番多いのは息子
厚生労働省によると、家族間で起きた高齢者虐待の一番多い加害者は息子でした。
次いで娘、夫、妻、嫁婿、孫でした。
高齢者虐待では一番介護を担っている、息子や娘が加害者となることが一番多いとのことです。
被害者である高齢者の男女比は、女性が76.1%、男性が23.9%でした。
また、最も多いのは身体的虐待、次いでネグレクト、心理的虐待、性的虐待でした。
認知症の場合、言葉が通じないこともあり、思わず手が出てしまったということが多いです。
障害者虐待で一番多いのは実父
厚生労働省によると、障害者虐待で一番多かった加害者は実父でした。
次いで実母、兄弟、夫でした。
障害者虐待では、主たる介助者が実母や実父であることがほとんどで、加害者となることが多いです。
また、最も多いのが身体的虐待、次いで心理的虐待、経済的虐待、ネグレクト、性的虐待でした。
被害者である障害者の障害種別では知的障害が一番多く、次いで精神障害、身体障害、発達障害でした。
知的障害の人の中にはコミュニケーションが困難な人も多く、それがストレスとなり思わず手を上げてしまったということが多いです。
虐待はなぜ起こる?
虐待の加害者との関係性から見ると、やはり被虐待者を監護・介護する立場にある人が加害者となるケースが非常に多いと言われています。
虐待の原因は、監護や介護をする中で溜まったストレスが非常に大きいようです。
ストレスを抱えながらも誰にも頼ることができない状況というのが、虐待を進行させてしまうと言えます。
虐待を進行させないためにも、その家庭が社会から孤立しないこと、必要な支援に結びつくことが重要です。
誰かに相談できる、頼れる状況を作ることが虐待の防止に繋がります。
また、最近では高齢者・障害者施設での虐待も増えてきています。
溜まったストレスが暴力や暴言に繋がってしまうことが多く、職員のストレスケアや意識の向上が大切であると言えます。
虐待を発見したときの対処法
市区町村窓口へ通報を
虐待が疑われる事例を発見した場合、通報先はその対象者が住む市区町村です。
児童虐待と障害者虐待は、児童虐待防止法及び障害者虐待防止法に基づき、虐待を発見したときは市区町村に通告しなければならない(義務)と定められています。
つまり、虐待を発見した人にはそれを通告する義務が生じるというわけです。
高齢者虐待は、児童虐待や障害者虐待と違って通告義務はないのですが、高齢者虐待防止法で虐待を発見したときは、通告する努力をしなければならない(努力義務)と定められています。
どちらにせよ、虐待が疑われる事例を発見した場合、速やかに市区町村に通告することが大切です。
虐待はひどい場合、その人の命に関わることもあります。
通告を受けた市区町村には守秘義務があり、通報者の個人情報は守られます。
まずは疑いレベルでも一人で抱え込まず、相談をすることが大切です。
通報者は誰が多いのか
①児童虐待
厚生労働省によると、児童虐待で一番多かった通報者は警察でした。
次いで近隣・知人、家族となっています。
その他の通報者では親戚や医療機関などもあります。
警察沙汰になり、そのまま市区町村に通報が上がってくることが多いです。
②高齢者虐待
厚生労働省によると、高齢者虐待で一番多かった通報者は介護支援専門員(ケアマネージャー)でした。
次いで警察、家族でした。
ケアマネージャーは日常的に高齢者の自宅を訪問して様子を伺うことが多く、一番虐待に気づきやすい立場にあると言えます。
③障害者虐待
厚生労働省によると、障害者虐待で一番多かった通報者は警察でした。
次いで本人、相談支援専門員、施設職員でした。
障害者虐待では、障害者本人に能力があり通報する場合も多く、本人が通報者に上がっているところが特徴です。
虐待の対策
①専門機関による家庭訪問や検診
児童虐待の場合、市区町村による検診や家庭訪問が行われており、それが虐待の防止や早期発見に繋がるケースも少なくありません。
まずは虐待の恐れのある家庭が孤立することを防ぐことが大切です。
市区町村では検診に来なかった家庭を把握しており、必要に応じて家庭訪問なども行なっています。
また、子育て支援センターなど子どもを育てる親が相談できる場所もあります。
子育てで悩んだ時は、遠慮せずに誰かに頼ることが大切です。
また、高齢者虐待や障害者虐待の場合は相談員などの専門職が定期的に家庭訪問をしているケースが多いです。
ケアマネージャーなどの専門職に頼ることが、虐待を予防する上で大切です。
②相談窓口の設置
虐待防止のために、様々な相談窓口が設置されています。
代表的なものとしては、児童・高齢・障害に関する市区町村の役所窓口です。
虐待の通報も市区町村の役所で受付をしているので、まずは自分の住む市区町村に相談すると良いです。
また、児童虐待では児童相談所虐待対応ダイヤル「189」というものがあり、24時間体制で相談を受付しています。
高齢者虐待では、地域ごとに設置されている地域包括支援センターで虐待の相談を受付しています。
障害者虐待では、地域ごとに設置されている基幹相談支援センターで虐待の相談を受付しています。
③普及啓発活動
虐待に関しては様々な団体が普及啓発活動を行なっています。
児童虐待では、児童虐待防止全国ネットワークというものがあり、シンボルマークであるオレンジリボンを広めることで虐待防止の活動を行なっています。
高齢者虐待や障害者虐待においても、各自治体で啓発のためのリーフレット配布などの活動が行われています。
④施設従事者への研修の実施
近年、高齢者や障害者に対する施設職員による虐待が問題となっています。
防止するためには職員のストレスケアだけではなく、職員の権利擁護に関する意識を向上させる必要があります。
最近では施設内で虐待に関する研修を行なっている施設も多くあります。
虐待の種類や、どこからが虐待となるのか、虐待を見つけた際の対処法などを職員間で共有しておくことで、虐待の防止に繋がります。
たとえば、施設では自分で点滴を抜いてしまう利用者などもおり、止むを得ず身体を拘束する場合もあったりしますが、そのような場合どこからが虐待となってしまうのかを知らないと知らないうちに虐待となってしまう危険性もあります。
虐待について理解を深めておくことが、虐待防止に繋がります。
まとめ
虐待は、児童虐待・高齢者虐待・障害者虐待のそれぞれの分野で詳しく内容が定義されています。
虐待は家族間だけではなく、施設の職員など第三者との間にも起こりうるものです。
虐待の原因としては、監護や介護におけるストレスが大きいと言われています。
まずは養護者が孤立せず、相談できる環境を作ることが虐待の防止に繋がります。