原則として、労働時間というのは「1日8時間、1週40時間」と、労働基準法にて定められています。
※「法定労働時間」という※
また、職種や勤務形態によっては1日の労働時間を上記時間内に収めることが難しい場合もあるため、「変形労働時間制」を採用する場合もあります。
このように、法律で定められた勤務形態以外にも、職場環境や家庭環境の関係で“正社員であっても、法定労働時間を変更できる”制度があります。
その一つが「育児短時間勤務制度」というものです。
今回は、この制度について詳しくご紹介していきたいと思います。
「育児短時間勤務制度」ってなに?
まずは、この制度の概要から、順にご紹介していきたいと思います。
法律で”義務付けられている制度”である
2009年の「育児・介護休業法」の改正によって登場した「育児短時間勤務」という制度。
これは、“育児”や“短時間勤務”と記載されている通り、「”3歳未満”の子どもを養育する従業員が”希望した場合”、勤務時間を短くできるもの」のことを指しています。
これは法律として“義務付け”がされており、従業員側から申請があった場合は、その希望を取り下げることは絶対にできません。
どのくらい勤務時間を短縮できるの?
冒頭で、法定労働時間は「1日8時間、1週40時間」と記載しましたが、もしこの制度を従業員が希望した場合は「原則として、1日の勤務時間を”6時間”とする措置」を行わなくてはいけません。
勤務時間を短くすることで体力面の不安を緩和し、仕事と子育てを両立しやすくすることを目的としています。
育児短時間勤務の”対象者”と”非対象者”について
この「育児短時間勤務」は、育児をしている全ての人が対象……という訳ではなく“条件”があります。
ここでは、対象者と対象外となる人の特徴をそれぞれご紹介していきたいと思います。
育児短時間勤務の”対象者”とは?
対象者となるための条件は、“5つ”存在します。
それが、以下です。
2. 1日の所定労働時間が“6時間以上”であること
3. “日々雇用される労働者”ではないこと
4. 制度の適用されている期間中に“育児休業を取得していない”こと
5. 労使協定により“適用除外”とされる労働者ではないこと
それぞれ、少し補足をしていきます。
1. ”3歳未満のこども”を養育していること
記載されている通り、“3歳まで”の子どもを養育していることが、条件の一つとなります。
ただし、制度上は3歳までとなっていますが、「最長利用期間」は企業によって様々です。
もし「この制度を利用したい!」と考えている人は、事前に最長利用期間について企業側に確認を取っておくことをオススメします。
2. 1日の所定労働時間が”6時間以上”であること
こちらも記載されている通りです。
1日の勤務時間を“原則6時間とする”なので、1日の勤務時間が“6時間未満”の方はそもそも制度を利用することができません。
ちなみに、あくまで“6時間を原則とする”だけであって、“必ずしも6時間にしなければいけない”という訳ではありません。
例えば、週5日・1日8時間労働をしている従業員であれば、その週5日を通して1日の労働時間を6時間になるように調整すればいいのです。
そのため、「日ごとに勤務時間を調整」したり「勤務日数自体を調整する」といった方法で、柔軟に勤務時間を調整することも可能となります。
3. ”日々雇用される労働者”ではないこと
“日々、雇用される労働者”とは、「1日単位で雇用契約が結ばれる労働者」のことを指しています。
つまり、条件さえ満たしていれば、契約社員やパートなど“正社員以外の雇用形態”でも、この制度を利用することが可能となっています。
4. 制度の適用されている期間中に”育児休業を取得していない”こと
“育児休業”というのは、従業員の方が「出産後の一定期間、育児のためにお休みを取る制度」のことを言います。
これは“休業=お休み”となるため、短時間勤務制度とは当然併用することはできません。
ちなみに余談ですが、育児休業も“法的な義務”が存在します。
こちらは、“子どもが1歳になるまで”が期限となります。
5. 労使協定により”適用除外”とされる労働者ではないこと
“労使協定”というのは、「事業主と労働者の間で結ばれる協定」のことを指しています。
「労働基準法」や「育児・介護休業法」などの“法律により定められている規定”も、労使協定に適用を除外する旨が記載されていれば、義務や罰則が免除されるのです。
育児短時間勤務の”対象外”となるのは?
次に、育児短時間勤務制度の“対象外”となる労働者についてです。
こちらは、下記の3つが該当します。
2. 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
3. 短時間勤務制度に向かないと判断される労働者
1.と2.は文字通りの意味なので説明を省くとして、3.について補足をしておきます。
これは、“業務の性質”または“業務の実施体制”と照らし合わせて、“制度を利用することが難しいと認められる業務に従事する従業員”のことを指しています。
また、管理職に就いている人は、そもそも“労働時間に関する規定が適用除外となっている”ため、対象とはなりません。
“対象外”の人は、制度を利用できない……?
「対象外と判断されると、育児短時間勤務は利用できないの?」という点ですが、この答えは「YES」です。
ただし、これはあくまで概念的な話であり、企業側は短時間勤務制度に代わる別の措置を講じる必要があります。
それが、以下の3つです。
②:時差出勤制度
③:保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
①は、「一定期間について、あらかじめ決められた総労働時間の範囲内で、”始業”や”終業”の時間を労働者が自由に決められる制度」のことです。
そして②は、「企業側によって1日の実働時間を決め、その”労働時間を守る範囲”で、労働者側が出退勤時間を選択することができる制度」のことを言います。
この2つは似た制度のようにも見えるかもしれませんが、“制度の仕組み”も“目的”も全く異なります。
①は「自分でその日の働く時間を決める=働きやすさを前提とした制度」であり、②は「始業・終業時間の繰り下げ・繰り上げができる=満員電車やバス渋滞などの通勤ラッシュを避ける目的で作られた制度」となるのです。
最後に③ですが、これはベビーシッターの手配や費用の援助のような“子育てに関連する支援”を行うことを指しています。
確かに、対象から除外されてしまった人は「育児短時間勤務制度」を利用することはできません。
しかし、それに代わる別の仕組みを導入することが推奨されており、仕事と子育てが両立しやすい工夫が制度として施されているのです。
どのくらいの人が利用しているの?
この「育児短時間勤務制度」ですが、現状はどのくらい利用されているのでしょうか?
これについては、厚生労働省が発表している「両立支援制度と利用状況」にて、以下のように記載されています。
◆男性:0.5%
国から義務付けられている制度でありながら、この利用率の低さの原因は一体なんなのでしょうか。
この理由は、“勤務時間が減る”という部分に大きく関係してきます。
◆“仕事に穴を空けてしまう”という周囲への罪悪感
◆勤務時間の減少により“仕事が中々終わらない”状態が発生する
◆“給料が減る”という経済的な不安
制度を利用しない(できない)最たる理由は、“給料が減る”にあります。
制度(法律)によって勤務時間が減っていると言っても、「育児短時間勤務で短くなる時間に対して、給与を支払うかどうかは”企業の任意”となっている」のです。
つまり、短くした時間の給与分は支払わなくても良い(減給としても良い)のです。
企業によっては、この制度自体が“お飾り的な制度”となっているところも少なくないのが現状です。
ただ、利用者にとっても企業にとっても、利用することで得られるメリットは確かに存在します。
この「育児短時間勤務制度を導入する”メリット”・”デメリット”」については、別の記事にて詳しくご紹介していきたいと思います。
似た制度って何がある?それぞれの違いについて
上記で「育児休暇」についても少し触れましたが、育児中の従業員に対する制度はいくつか存在します。
混同しやすいものの、それぞれで内容は異なってきますので、この記事の最後にその点についても触れておきたいと思います。
まずは、以下の表をご覧ください。
似た制度としては挙げられるのはこの3つです。
そして、特に混同されやすいのは、「育児短時間勤務制度」と「短時間正社員制度」かと思います。
この2つは、名称こそ似ているものの、その制度の内容は全く違います。
最たる違いは、以下の2つが挙げられるでしょうか。
◆“法的な義務”が発生するかどうか
「育児短時間勤務制度」は、“育児のみ”しか対象となりませんが、その代わり“法的な義務が発生”します。
対して「短時間正社員制度」は、“法的な義務は発生しない(導入するかどうかは企業の任意である)”代わりに、“育児以外でもその制度を適用できる”ものとなります。
例えば、介護と仕事を両立したい人や、決まった日時だけ働きたい労働者、定年後も働き続けたい高齢者、キャリアアップをめざすパートタイム労働者などなど……様々な人材が対象となります。
制度名こそ似ているものの、制度内容は似て非なるものです。
「育児短時間勤務制度を利用したい」と考えている人は、これらの違いには注意しておきましょう。
まとめ
国が推奨しているものの、「育児短時間勤務制度」は、まだまだ利用している人が少ないのが現状です。
しかし、上手く活用できれば仕事と子育てを両立して行うことができ、本人の肉体的・精神的な負担も和らげることができるはずです。
原則は“3歳未満のお子さんがいる家庭”が対象ではありますが、採用利用期間は企業によって異なります。
気になる方は、企業側に確認を取ってみてください。