「介護」に関する業務は、高齢者の介助だけでなく”心身に障害を抱えている人やその家族の支援を行う上で欠かせない大切な仕事です。
そして、「介護」と一言で言い表しても、実に様々な職業が存在します。
「精神保健福祉士」もその一つです。
医療や介護業界に精通していないと、「名前すら聞いたことがない」という人もいらっしゃるかもしれません。
しかし、現代では身近な存在としてお世話になっている場合もあります。
今回は、この「精神保健福祉士」の仕事について、詳しくご紹介していければと思います。
「精神保健福祉士」とは?
まずは「精神保健福祉士とは何か?」という点から、詳しくご説明していきたいと思います。
“心に障害や病気を負った人の支援を行う”仕事である
仕事の名称に「精神」と付いていることからイメージできる人もいるかもしれませんが、精神保健福祉士とは「精神面に障害のある人が対象であり、生活面での支援を行うことを主な仕事としている者および資格のこと」を指しています。
心に障害や病気を負った人が、自立した生活を送れるようにさまざまな支援を行っています。
いつ頃誕生したの?
これは、1997年の「精神保健福祉法」の施行とともに誕生した資格です。
「精神保健福祉法」とは、精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進に寄与することを目的とする法律のことで、厚生労働省の所管となります。
ただ、「精神保健福祉士」が誕生したのは1997年からですが、1950年代には「精神科ソーシャルワーカー」と呼ばれる専門職がすでに存在していました。
その名が示す通り、この仕事は“精神科領域を担当するソーシャルワーカー”であり、その専門性には長い歴史があるとされています。
尚、現在の精神保健福祉士の仕事内容は多岐に渡りますが、その背景には「障害者自立支援法(2006年)」と「障害者総合支援法(2012年)」の存在があります。
古くは、精神障害者とされる人は「精神病院」などでの入院医療が中心となっていました。
それが、各法律の施行によって入院医療中心の生活から“地域での生活”へと変化していったのです。
「ソーシャルワーカー」ってなに?
少し脱線して、上記項目で記載した「ソーシャルワーカー」について軽く触れておこうと思います。
これは、“病気や障害などによって生活に問題を抱える人の社会福祉支援を行う専門職のこと”を指しています。
(社会福祉支援=医療・介護・福祉においての相談/援助/調整などを行うこと)
ソーシャルワーカーとはあくまで“総称”であり、ここから「精神保健福祉士/社会福祉士/臨床心理士/児童福祉司」など、様々な職種(資格)に枝分かれしていくのです。
そのため、ソーシャルワーカーの勤務先は多岐に渡ります。
◆病院
◆児童相談所
◆高齢者施設
◆行政機関
◆社会福祉協議会 など
ソーシャルワーカーの詳細は、改めて別に記事にて詳しくご紹介していきたいと思います。
「仕事内容」ってどんなことをしているの?
「心に病気を負った人やその家族に対して、安心した日常生活を送るための支援をする」のが精神保健福祉士ですが、具体的にはどんな業務を行っているのでしょうか。
一例にはなりますが、大まかに以下のことを行っています。
◆公的な支援制度の紹介
◆就労先を探せるような機関との連携 など
利用者さんが、安心して地域で自立した生活が送れる・社会復帰できるよう、さまざまな機関と患者さんを結んで支援を行っていくのです。
「精神障害」とはどういったものが該当するの?
「精神障害」とは、“精神疾患の総称”であり、その病状はさまざまに存在します。
一例ですが、以下のようなものが挙げられます。
◆統合失調症
◆双極性障害
◆薬物依存症
◆てんかん
◆高次脳機能障害 など
精神障害の原因となるのは、「内因性/外因性/心因性」の3つに分かれており、障害の度合いも人によって千差万別となります。
特に「うつ病」は社会問題にもなっており、どんな人でも起こりうる可能性が高い非常に身近なものとなっています。
また、中には交通事故などの不慮な事故から精神障害者となってしまうケースも少なくはありません。
「精神障害」とは、決して“他人事ではない”のです。
精神保健福祉士の勤務先や活躍の場はどこ?
主な勤務先について
精神保健福祉士の勤務先は、多岐に渡ります。
大きく分類すると、以下の4種類となります。
◆行政施設:市役所、保健所、精神保健福祉センターなど
◆福祉施設:就労継続支援事業所、地域活動支援センターなど
◆その他:高齢者施設、司法施設、職業訓練施設など
もちろん、具体的な業務内容は、勤務先によって異なります。
ただし、共通して言えるのは医療や行政に関する制度・しくみを活用しながら、一人ひとりの対象者の生活をサポートするということです。
ちなみに、勤務先は医療・行政・福祉と多種多様であり、雇用形態も勤務先によってさまざまに存在します。
当然、給与や福利厚生、一日の勤務スケジュールなどは勤務する事業所によりけりとなります。
この点については、別途「精神保健福祉士のなり方」の記事を公開しますので、そちらで詳しくご紹介していければと思います。
近年では「一般企業」への就職の道もある
前項でお伝えした通り、精神障害には「うつ病」も対象となっており、これは今や誰にでも起こりうる身近な障害として社会問題にまで発展しています。
そのため、精神保健福祉士の中には「一般企業」に就職し、“労働者の心のケアを担う専門家”として活躍している人もいます。
業務量の多さによる疲弊や仕事に対する責任、各ハラスメントによる精神的ダメージなど、心に大きなストレスを抱え精神障害に発展する可能性が高いのが現代社会の特徴です。
特に精神障害は外見には分からない(本人ですら気づいていない)ことも多いため、精神保健福祉士がうまくサポートに回って、心のケアを行っていくことが重要とされています。
何が違う?「福祉士」資格の特徴について
同じ介護の仕事に携わる資格の中には、他にも「~福祉士」という名称のものが存在します。
それが「社会福祉士」と「介護福祉士」です。
「精神保健福祉士」も含め、これら3つは全て“国家資格”となります。
名称が似ており、同じ介護の仕事に携わる資格であることから、仕事内容も同じような印象を受けるかもしれません。
確かに、仕事内容が似ている部分もありますが、名称が違う通りその内容も微妙に異なります。
混同しないように、この項目にてそれぞれの違いをご紹介しておきたいと思います。
「社会福祉士」とは?
この資格は、「心身に障害を抱えるなど、さまざまな事情から”通常の生活を送ることが困難な人を支援する”こと」が主な仕事となります。
「……?精神保健福祉士と同じじゃないの……?」と感じるかもしれませんが、社会福祉士の方が“支援の範囲”が広いのです。
結論を言うと、「社会の中で何らかの支援を必要としている人、およびその家族が対象」となるのです。
例えば、
◆災害や失業などの突発的な事情により、生活困窮者となった人
◆不登校や虐待などの子育てに関する問題
など、相談対象が幅広くなっています。
「精神保健福祉士」とは?
上記「社会福祉士」に対して、「精神保健福祉士」は“精神に障害を抱えた人のみ”と対象が限定されているのが特徴となります。
「対象が限定されている」というのは、言い方を変えると“専門性が高い”ということになります。
社会福祉士は、障害者・生活困窮者・子育て問題など、さまざまな困りごとの相談に乗り、状況に見合った適切な制度の紹介や申請を行います。
そのため、直接的な介護(サポート)を行うことは基本的にありません。
しかし精神保健福祉士の場合は、精神に障害を抱えた人のみを対象とし、状況に応じた適切な制度の紹介や申請を行い、時には利用者に対しての「介護」や家族や周囲の人に適切な「介護指導」を行うこともあるのです。
勤務先によって業務内容が多少変わることはありますが、この2つの違いはおおむね上記のようになっています。
「介護福祉士」とは?
介護福祉士も、「状況に応じた適切な制度の紹介や申請を行い、時には利用者に対しての介護や、家族や周囲の人に適切な介護指導を行うこと」が主な業務となります。
これも「精神保健福祉士と同じじゃないの?」思う方もいるかもしれませんが、“対象となる範囲”が異なるのです。
精神保健福祉士は、「精神面に障害を抱えた人」が対象となります。
対して介護福祉士の場合は、「精神面だけでなく、身体面の障害を抱えた人」も対象となっているのです。
ただ、対象となる範囲が異なる以外は、精神保健福祉士とさほど大きな違いはありません。
「介護という直接的なサポートをする」という点では、両者は共通していると言えるでしょう。
まとめ
精神保健福祉士は現時点でも就職先が多数あり、またニーズの高い職種でもあります。
そして、今後もその需要は高まり続けていくものと考えられています。
また、前項で各福祉士との違いについて記載しましたが、資格が違うということは「複数の資格を所持できれば、業務の幅が広がる=キャリアアップに繋がる」ということでもあります。
特に「精神保健福祉士」と「社会福祉士」は、両方の資格を取得することで支援できる対象・業務が大幅に増加するため、両方の資格取得を目指す人も多いと言われています。
ただ、どの資格も“国家資格”であるため、受験資格があることはもちろん・試験の難易度も相応に高く・合格後には登録もしなければいけません。
相応の努力が必要な職種ですので、その点はご注意ください。
次回は、この「精神保健福祉士になるための方法」や「受験概要・合格率」などについて、詳しくご紹介していければと思います。