心に病気を負った人への支援を行う「精神保健福祉士」という仕事。
以前の記事にて、仕事内容や主な勤務先・各福祉士との違いについてご紹介をしました。
今回は、この「仕事に就くために必要なこと」や、「試験の概要」「試験の合格率・合格者数」などについて、詳しくご紹介をしていければと思います。
「精神保健福祉士」になる方法について
まずは「精神保健福祉士のなり方」について、詳しくご紹介していきたいと思います。
結論を先に行ってしまうと、「精神保健福祉士の国家資格に合格し、登録すること」です。
そして、国家資格への受験資格を得るためには、学校に通ったり実務経験を経たり……といくつかのルートが存在します。
受験資格を得るためのルートとは?
受験資格を得るためのルートは、大まかにまとめると以下の7つが挙げられます。
②「保健福祉系短大」で指定科目を履修後、実務経験を積む
③「4年制福祉系大学」で基礎科目を履修後、「短期養成施設」で学ぶ
④「福祉系短大」で基礎科目を履修後、実務経験を積み「短期養成施設」で学ぶ
⑤「4年制一般大学」を卒業後、「一般養成施設」で学ぶ
⑥「一般短大」を卒業後、実務経験を積み「一般養成施設」で学ぶ
⑦「4年以上の実務経験」を経たのち、「一般養成施設」で学ぶ
ルートは上で紹介した以外にも複数あり、計11パターン存在します。
そして“どの学校を卒業したか?”によって、細かく条件が分けられることとなります。
また、⑦のように“まったく学歴が必要ないルート”も一つだけ存在します。
ただし、⑦のルートは学歴が必要ない代わりに「厚生労働省の指定する施設に就職して、4年以上”相談援助実務”の経験を必要とします。」
その後、一般養成施設で1年以上学ぶことが条件となっており、応募資格を得るまでの道のりは中々に険しいものとなります。
ルートが多く、どの学校に進学するかを中々決めづらい状況ではありますが、なんにせよ言えることは「大学や短大に通っている方が、最終学歴という意味で就職に有利になる可能性が高い」ということです。
現代の精神保健福祉士の就職先は多岐に渡ります。
医療機関はもちろん、福祉施設・一般企業、そして行政機関に「公務員」として勤務することも可能です。
特に「公務員になりたい」という場合、最終学歴によって給与額(初任給)が変動しますので、大学に通っている人の方が就職後もより好待遇で仕事を始める(続ける)ことができるでしょう。
どのルートを選択するかは人それぞれです。
経済的な理由から「進学することが難しい」という方もいらっしゃるかと思いますが、それでも実務経験を経て精神保健福祉士になれる方法もあるため、自分に合ったルートを選択して進んでみてください。
「指定科目」「基礎科目」とは?
2つの科目の違いは、以下の通りです。
◆「基礎科目」:社会福祉士や介護福祉士などの、他の福祉職のことも学べる科目
上記でも記載した通り、「指定科目」の単位を取得すれば卒業と同時に精神保健福祉士の受験資格を得ることができます。
対して「基礎科目」の場合は、卒業後に「短期養成施設」に通わないと受験資格を得ることができません。
「専門学校」も存在する
上記で記載したのは主に「大学」や「短大」ですが、精神保健福祉士を目指すための「専門学校」も存在します。
専門学校には、2年制・3年制・4年制の「社会福祉学科/医療福祉心理学科/介護福祉学科」などがあります。
ただし、4年生以外の専門学校であれば、卒業後に別途実務経験を積まなければ受験資格を得ることができません。
(2年制なら2年間、3年生なら1年間の実務経験を必要とする)
また、1年生の専門学校も存在しますが、これは「一般養成施設」と呼ばれています。
上記で記載した通り、福祉系以外の大学や短大・実務経験ルートを通った人は、この一般養成施設に1年間通わなくてはいけないのです。
「夜間コース」や「通信制」も存在する
精神保健福祉士になるための学校や一般養成施設の中には「通信教育課程」を用意しているところもあります。
また、「夜間コース」も存在します。
夜間および通信制であれば、既に社会人として働いている人も通いやすく、また学費も日中に通うに比べれば低く抑えることも可能です。
ただし、要注意点が一つあります。
それは、「精神保健福祉士国家試験を受けるためには、医療施設や福祉施設における”実習”を経験することが義務付けられている」ということです。
実習は、夜間コースだろうと通信コースだろうと関係なく、精神保健福祉士国家試験を受ける人すべてに義務付けられています。
夜間や通信生を選択する人は、「働きながら資格取得を目指している」人が多いです。
(経済的な面や既に社会人として別の仕事に就いているなど、理由は人それぞれ)
実習期間は基本的に1ヶ月ほど設けられており、この期間に関しては働きながら実習もこなすことはほぼ不可能に近いです。
そのため、この実習期間をどう乗り越えるかが、夜間や通信コースに通う人の最大の難問と言われています。
他にも、勉強時間を確保しなければいけないなどの問題もあり、夜間・通信コースは日中の学校に通うよりもハードルは高くなる傾向にあると言えます。
「学費」ってどのくらいかかるの?
ルートがさまざまに存在するため、進学先によって学費は大きく変動します。
大まかにではありますが、以下に年間に掛かる費用の相場を記載しておきます。
◆4年生大学(夜間):200万円ほど
◆専門学校:100万円~150万円ほど
◆通信課程:20万円ほど
通信課程のみ年間に掛かる費用が非常に少ないですが、その分基本は“自宅学習(=独学)”となります。
※あくまで基本であり、「スクーリング」など実際に学校に通うケースもある※
また、大学など各種学校に通う場合は、奨学金や教育訓練給付金の各制度を利用することも可能です。
経済的な負担を抑えることができるので、これらについても色々調べてみることをオススメします。
精神保健福祉士の「受験概要」や「合格率」について
次に、精神保健福祉士の「受験概要」や「合格率(合格者数)」などについて、詳しくご紹介していきたいと思います。
結論を先に言うと、近年の合格率は“6割ほど”であり、国家試験の中では多少難易度は低いものとされています。
ただし、前項でご紹介したように受験資格を得るには「学校に通う」「実務経験を必要とする」という点があり、勉強した上で挑んだ合格率と考えると、少し合格率が低いようにも感じます。
なんにせよ言えることは「学校に通い・学ぶべきこと学び、試験勉強をしっかりとしなければ合格は難しい……」ということです。
試験の「概要」について
精神保健福祉士の国家試験は、「毎年1回・2月上旬ごろの2日間」で行われています。
(合格発表は翌月の3月中旬ごろ)
受験が行われる地域は「北海道・宮城県・東京都・愛知県・大阪府・広島県・福岡県」6か所となります。
そして受験料ですが、一からこの試験を受ける人の場合“17,610円”かかります。
ただし、後述で紹介する共通科目免除者は“14,080円”となります。
そして、人によっては「社会福祉士」の資格も取得し、業務範囲を増やそうと考えている方もいます。
もし社会福祉士と同時に受験するとなれば、受験料は“28,140円”となります。
どんな問題が出題されるの?合格基準は?
出題される問題ですが、範囲が非常に広く大まかに以下から各問題が出題されます。
◆精神保健の課題と支援
◆精神保健福祉相談援助の基盤
◆精神保健福祉の理論と相談援助の展開
◆精神保健福祉に関する制度とサービス
◆精神障害者の生活支援システム
◆人体の構造と機能及び疾病
◆心理学理論と心理的支援
◆社会理論と社会システム
◆現代社会と福祉
◆地域福祉の理論と方法
◆福祉行財政と福祉計画
◆社会保障
◆障害者に対する支援と障害者自立支援制度
◆低所得者に対する支援と生活保護制度
◆保健医療サービス
◆権利擁護と成年後見制度
上記項目の中から計163問(五肢択一を基本とする多肢選択形式)が出題され、制限時間は275分となります。
そして合格基準ですが、以下の条件を満たした人となります。
②:①を満たした人のうち試験科目16科目群の全科目に得点があった人
ただし、こちらも下記で紹介する免除を受けている人は、合格基準が少し変化します。
「免除」の対象について
実は、「社会福祉士」の試験と、精神保健福祉士の試験には“共通科目”が存在します。
それが、以下の項目です。
◆心理学理論と心理的支援
◆社会理論と社会システム
◆現代社会と福祉
◆地域福祉の理論と方法
◆福祉行財政と福祉計画
◆社会保障
◆障害者に対する支援と障害者自立支援制度
◆低所得者に対する支援と生活保護制度
◆保健医療サービス
◆権利擁護と成年後見制度
そのため、既に「社会福祉士の登録を行った人」もしくは「登録申請中の人」は、この共通科目が免除されます。
科目が免除されるということは、当然合格基準も変化します。
免除された受験者の配点は、1問1点の80点満点となります(通常は163点)。
近年の「合格者数」や「合格率」はどのくらい?
次に試験の「受験者数」「合格者数」「合格率」がどのくらいなのかをご紹介していきます。
厚生労働省には、国家資格などの合格率などの数値が年毎に掲載されています。
その情報をもとに、2015年(第17回)~2020年(第22回)までの数値を表にすると、以下のようになります。
ご覧の通り、試験を受けた6割以上の人が合格しており、国家試験の中ではまだ合格率は高い方ではないかと思います。
ただし、上述でもお伝えしたように、精神保健福祉士は「大学」や「養成学校」などで専門的な知識と技術と学んでいる人のみが受けられる試験であります。
言い方を変えると、「専門機関で勉強しても”40%弱”の人は不合格となってしまう可能性がある」ということでもあり、試験に向けた準備や対策はしっかりと取っておかないといけません。
精神保健福祉士を目指す「きっかけ」や「志望動機」について
精神保健福祉士のルートは、大学や専門学校などへ進学する“学校ルート”がほとんどです。
このルートを選択する中には、すでに社会人として働いている人はもちろん、高校卒業後に福祉系学校に進学を決める人もいます。
この時、「学生のころから、福祉系の学校に通いたい(精神保健福祉士になりたい)と考える人っているの?その志望動機はなに?」と感じる人もいるかもしれません。
実際、受験者数は毎年7,000人前後おり、まだ社会人として自立していない学生も非常に多く受験しています。
この「精神保健福祉士を目指すきっかけ」ですが、人それぞれではあるものの、いくつか“きっかけ”となるものが存在します。
この項目にて、いくつかご紹介しておこうと思います。
その①:「自分の体験」
きっかけとなる1つは、“自分の体験”によって仕事そのものに興味を持つ人です。
それは、自分自身の精神的な病気だけではありません。
家族や友人など、身近な人が精神状態に問題を抱えてしまうこともあり、「家族や友人と同じような立場の人を救いたい」と考える人もいるのです。
現代は、健常者であっても「うつ病」などの心の病を抱えてしまうことが少なくありません。
「精神障害」と聞くと重く感じてしまうかもしれませんが、これらは誰にでも起こりうる可能性がある“身近な存在”なのです。
その②:「職業体験」や「ボランティア活動」
もう1つのきっかけとして挙げられるのは、「職業体験」や「ボランティア活動」の中で、精神障害を持つ人と触れ合ったことで、精神保健福祉士の仕事に興味を持つことです。
精神障害を持った人と触れ合う中で、「このような人たちをサポートしたい」と考え、その後“精神保健福祉士のこと知り、進学を決意する”というようなイメージです。
きっかけは「触れ合いを持つ」ことが多い
家族や友人であれ、職場体験やボランティア活動であれ、きっかけの一つとなるのは「精神障害を持つ人と触れ合うこと」です。
福祉系の職業は他にもたくさんありますが、精神保健福祉士は「精神障害に対する、支援のスペシャリスト」です。
だからこそ、触れ合いの中で精神障害領域に対する興味・関心を持ち、「人の力になりたい」「人をサポートする仕事(役割)につきたい」という思いから、この仕事を目指す人が多いと言われています。
もちろん、「自身が精神障害を患い、その時にサポートしてくれた人と同じように自分もなりたい」という思いで、精神保健福祉士を目指す人もいます。
こちらも、きっかけは“人との触れ合い”です。
「精神保健福祉士とのコミュニケーションがきっかけで、自立の一歩を踏み出すことができた」と言われることがありますが、この触れ合いをきっかけに、精神保健福祉士を目指す人が多いのです。
まとめ
さまざまなルートが存在し、どの道から精神保健福祉士を目指すかは人それぞれです。
実務経験ルートも存在するので、家庭(金銭)の事情や既に社会人として仕事をしている人でも資格条件を満たせる可能性があるのも良い点かと思います。
(ただし、若干他ルートに比べてハードルが高くなる)
また、試験の合格率は60%と国家試験の中では比較的高い数値を誇ってはいますが、それでも40%弱の人が不合格になっているのも事実です。
専門機関で学んだうえでのこの合格率なので、実際は難易度の高い資格と言えるでしょう。
「学校に通っているから大丈夫」などと油断せず、試験のための勉強を怠らないようにお気を付けください。
そして資格条件を満たすルートだけでなく、この仕事に興味を持ち・資格取得を目指すきっかけも人それぞれ多種多様です。
上述で挙げたように、「自身の体験」を経て若い頃から精神保健福祉士を目指す人もいます。
逆に、既に別の介護の仕事に就いているが「業務の幅を広げたい」という思いで、社会人から資格取得を目指す人もいます。
(社会福祉士とのWライセンスはできることが非常に広がる)
もちろん、「自身のキャリアアップのため」という人もいます。
資格を取得する理由は人それぞれであり、そこには年齢も性別も関係ありません。
道のりは長く険しいかもしれませんが、誰にも取得できるチャンスがあります。
もし「精神保健福祉士になりたい」と考えている人は、さまざまな情報を調べて知見を広げてみてください。
選択肢は非常に多いので、その中から自分にあったやり方で精神保健福祉士への道を踏み出してみてくださいね。