薬剤師は、現代の医療機関において、なくてはならない重要な職業のうちの一つです。
そして、この仕事を行うためには薬剤師国家資格を取得しなければいかず、その受験資格を得るためには非常に長い学生期間(勉強期間)を必要とします。
今回は、薬剤師になるための道のり・試験の難易度など薬剤師になるために必要なことについて、詳しくお話をしていきたいと思います。
そもそも『薬剤師』って何?どんな仕事をするの?
医薬品全般において、非常に幅広い知識を有した『薬の専門家』……それが薬剤師です。
◆製薬会社での『新薬の開発』や『薬の販売(営業)』
◆学校の『環境衛生管理』や『教員・生徒の健康管理』
◆県民に対して『薬物乱用防止活動』や『禁煙運動の取り組み』などの啓発活動を行う
◆高齢者などに『薬の正しい使い方』などをレクチャーする
一言で『薬の専門家』と言っても、その勤め先・仕事内容は多様に存在します。
薬の調剤は、薬剤師だけが行える独占業務です(一部例外あり)。
そのため、今後も薬剤師の需要がなくなるということは早々ありません。
薬剤師になるには、どうすればいい?
国家試験に合格すること
まず、薬剤師になるためには『薬剤師国家試験』に合格し、薬剤師免許を取得することが必須となります。
そして、国家試験を受けるための受験資格は、「6年制の薬学系の大学を卒業する(もしくは卒業見込みがある)こと」で得ることが可能となります。
流れを端的にまとめると、以下の通りです。
②:薬剤師国家試験を受験し、合格する
③:合格後、申請を行うことで、厚生労働省の『薬剤師名簿』に登録される
④:厚生労働大臣から『薬剤師免許』が与えられる
このことから、薬剤師になるには最短でも“6年以上はかかる”ということになります。
4年制の大学ではダメなの?
実は、2017年度までの入学者であれば、国家試験の受験資格を得ることが可能でした。
その方法は、「薬学部の4年生大学を卒業後、専門の大学院で2年間勉強する(必要な科目や単位を習得する)こと」です。
ただし、残念ながら2018年4月以降の入学者には、これが適用されなくなりました。
そのため、仮に2018年4月以降に薬学部4年生に入学した人の中で「薬剤師を目指したい」という人がいた場合、改めて6年制の大学で学び直す必要があります。
薬学部の『6年制』と『4年生』の違い
そもそも、同じ薬学部でありながら『6年制』と『4年制』は何が違うのでしょうか?
現在は、以下のようにコースが明確に分けられています。
・4年制:薬剤の研究や開発分野を含む、多様な人材育成を目的としたコース
それぞれもう少し細かくお話していきますと、6年制は『薬学科』とも呼ばれることがあり、これまでにお伝えした通り薬剤師になるための勉強をするコースとなります。
研究室での実験はもちろん、薬剤師として必要な知識を学ぶための「授業/実習/国家試験の対策」などを勉強していきます。
対して4年制は『薬科学科』と呼ばれることがあり、言わば薬に関する研究者を養成するコースとなります。
前述の通り、薬剤師になることはできず(受験資格を得られない)、将来的には「企業の研究・開発職」などの技術職に就く人が多い学科です。
そのため、4年制は研究室の実験がメインとなり、授業も自身の専門分野に特化した知識を身に着けていくことがほとんどとなります。
各学年ごとに、それぞれが学ぶ内容は大まかに下記のようになります。
1年目・2年目はどちらも学ぶ内容はある程度同じですが、研究室に配属されてからは、方向性が大きく変わってきます。
6年制大学の場合、5年次以降は病院や薬局などで、長期的に実務実習が行われるようになります。
ただし、この実務実習に進むためには、4年次に実施される『薬学共用試験』に合格しなければいけません。
この『薬学共用試験』というのは、各現場での実務実習に参加するために必要な「知識・技能・意識」が備わっているかどうかを図るために行われる試験なのです。
6年制の学費はどのくらい?
まず、2018年時点でのデータとなりますが、薬学の学べる大学は75校存在します。
ただし、短期大学はもちろんのこと、夜間部や通信教育はありません。
加えて、4年制のみの薬学部を有する大学はなく、『6年制の薬学部のみ』もしくは『6年制と4年制が併設』された大学しか存在しません(2018年時点)。
そして、大学は国立・私立に分かれており、当然ながら掛かる学費は大きく異なります。
大まかにまとめると、6年間で発生する学費は、以下の通りです。
・私立大学:約1240万円(年間授業料:200万円+入学金:35万~40万円)
※私立は、別途受験料が3万円~3万5000円ほどかかる※
国立と私立では掛かる学費が圧倒的に異なるため、やはり国公立大学への入学希望者が多くなります。
ただし、その分大学への合格難度も高い傾向にあります。
また、国立・私立を問わず、どちらも奨学金制度を利用することが可能です。
加えて、成績優秀者に対しては授業料免除制度を設定している大学もあります。
入学する大学によって制度は異なるため、どの大学に入学するかは、事前にしっかりと確認しておくようにしましょう。
その他のルートは存在しないの?
現在の日本では、薬学部の6年制に進学する以外に、薬剤師の受験資格を得る方法はありません。
4年制に進学している人はもちろん、既に社会人として別の仕事に携わっている人も、「薬剤師になりたい!」という場合は、改めて6年制(薬学部)の大学に入り直さなくてはいけません。
尚、外国にいる人の場合は日本の6年制(薬学部)に相当する薬学校を卒業している人もしくは、外国で薬剤師免許を取得している人に限り、日本での薬剤師国家試験の受験資格を得ることができます。
ただし、受験資格の認定にはいくつかの条件を必要とし、あくまで(日本の)受験資格を得られるだけです。
既に外国で薬剤師免許を取得していても、日本で薬剤師になる場合には再度日本の薬剤師国家試験に受講・合格する必要があります。
薬学部の『偏差値』について
『偏差値』ってそもそも何?
次に、薬学部の偏差値について、ご紹介をしていこうと思うのですが……その前に「偏差値って何なの?どんな意味があるの?」というのが良く分からない方もいらっしゃるかもしれません。
まずは、『偏差値』についてお話をしていきます。
『偏差値』を端的に表現すると、テストを受けた集団の中で、自分がどれくらいの位置にいるかを表す数値となります。
偏差値は、平均点を偏差値50になるように変換されます。
例えば、同じテストを1000人受けたとして、偏差値が50だった場合の”あなた”の順位は『500位』です。
この基準から、どれくらい高い(もしくは低い)点数だったかを表し、自分の実力を相対的に把握することができるようになるのです。
まとめると、「点数や順位に左右されることなく、その集団の中で自分がどれくらいの位置にいるか(学力を有しているか)を知ることができる」というのが、偏差値の最大のメリットなのです。
偏差値は、テストの点数より大切と言われます。
「偏差値の高い大学に通うこと=成績優秀な生徒が多く輩出される大学」ということです。
その環境の中で勉強をすることによって、留年しないことはもちろん国家試験の合格率も高まると言えるでしょう(もちろん自身の努力は必要です)。
薬学部の偏差値ランキング
以下は、塾業界の大手である『東進ハイスクール』および『河合塾』を参考にして作成した偏差値ランキングとなります。
ただし、偏差値の評価は様々な指標があるため、あくまで参考程度にご覧いただけると幸いです。
国公立(薬学部)の偏差値ランキング
私立(薬学部)の偏差値ランキング
薬剤師国家資格のあれこれ
試験の流れ・受験地・受験費用について
次に、国家資格についてお話をしていきたいと思います。
まず、試験の日程ですが、毎年2月下旬頃の2日間で開催されています。
願書の申し込み受付期間は、1月上旬から中旬頃までであり、合格発表は3月末頃に行われています。
受験料は6800円、受験地は「北海道/宮城/東京/石川/愛知/大阪/広島/徳島/福岡」となります。
試験内容と合格基準
まず、試験内容は以下の通りです。
・物理・化学・生物(15問)
・衛生(10問)
・薬理(15問)
・薬剤(15問)
・病態・薬物治療(15問)
・法規・制度・倫理(10問)
・実務(10問)
【一般問題試験】
◆薬学理論問題試験
・物理・化学・生物(30問)
・衛生(20問)
・薬理(15問)
・薬剤(15問)
・病態・薬物治療(15問)
・法規・制度・倫理(10問)
◆薬学実践問題試験
・物理・化学・生物(15問)
・衛生(10問)
・薬理(10問)
・薬剤(10問)
・病態・薬物治療(10問)
・法規・制度・倫理(10問)
・実務(85問)
そして合格基準ですが、例えば第105回の場合は以下のようになります。
以下のすべての基準を満たした者を合格とする。
・全問題の得点が426点以上
・禁忌肢問題選択数は2問以下
・必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上
出典:厚生労働省-第105回薬剤師国家試験合格基準及び正答について
合格基準は、年度ごとに多少の差異があります。
これについては、厚生労働省の『薬剤師国家試験のページ』にて確認することが可能ですので、詳細を知りたいという方は確認をしてみて下さい。
合格率はどのくらい?
まず、薬剤師国家資格の合格率は、年度によって差異があります。
おおよそ60%~80%ほどと言われており、年度によって難易度が若干変化します。
例えば、令和2年(2020年)の合格率は、以下のようになります。
◆総数:69.58%
◆男性:67.33%
◆女性:71.06%
参考:厚生労働省-第105回薬剤師国家試験の結果について
また、大学によっても合格率に大きなバラつきがあります。
「合格率……結構高くない?6年間勉強するからかな?」と感じる人もいるかもしれませんが、その理由の一つとして大学側が受験者を絞っているという背景があるのです。
例えば、卒業前に大学で実施される試験に合格しないと、国家試験そのものを受験することができないなどです。
一見すると合格率は高く感じるかもしれませんが、試験の出題範囲は非常に膨大です。
6年間の大学生活を最大限に活用してみっちり勉強しなければ、合格することは非常に困難と言えるでしょう。
もし「大学別の合格者数を知りたい!」という方がいらっしゃれば、こちらも厚生労働省が表にまとめているので、こちらを参考にしていただければと思います。
資格の『有効期限』ってあるの?
結論から言うと、資格としての有効期限はありません。
ただし、2年に1回の届け出は必要となります。もし届け出を忘れてしまうと、罰則・罰金を払うこととなりますので、この点だけは注意しておきましょう。
届け出の期間・内容は以下の通りです。
2年に1度、12月31日時点の状況を、翌年1月15日(休日の場合は16日まで)に届け出を行う
【届け出の内容】
12月31日現在における所在地、従業地、従事している業務の種別等
これは、日本国内に居住している薬剤師の面鏡を所持している人全員が対象となります。
まとめ
薬剤師になるための道のりは、非常に長く険しいものです。
6年間という長い大学生活の中で、試験に合格するための勉強をし続ける必要があります。
加えて、試験に合格する=ゴールではありません。
あくまで「薬剤師の職に就ける」というスタートラインに立っただけであり、薬剤師として長く勤めていきたいと考えている方は、職に就いた後もひたすらに知識を吸収し続ける必要があるのです。
どの職業でも同じことではありますが、医療業界も日々進化し続けています。
学生時代から常に最新の情報を吸収するクセを付けつつ、薬剤師として長く勤めていけるよう、努力を積み重ねてみて下さい。
その努力は、自分自身の将来の糧として、必ず役に立つはずです。