医療の業界には、実に多くの職種が存在します。
その中で、医師や看護師を知っているという人は数多くいらっしゃるかと思いますが、保健師について詳しくお話ができる人というのはあまりいないのではないでしょうか。
人によっては、「名前すら聞いたことがない」という人もいらっしゃるかもしれません。
この仕事のことを端的に表現すると、地域の人々が健康な毎日を送れるようサポートをすることです。
ただ、業務内容も勤め先も多岐に渡るのが保健師でもあります。
今回は、この仕事について、詳しくご紹介していきたいと思います。
保健師とは何をする人なの?
地域住民の心身を支える、地域看護のプロフェッショナル
この仕事は、その地域に住む人々の「心と体の健康」を支える地域看護のプロフェッショナルのことを言います。
『保健師助産師看護師法』では、「厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者」と定められています。
そして、この仕事に従事するには『保健師国家試験』に合格しなければならず、保健師というのは名称独占の資格となります。
つまり、資格のない人が『保健師』を名乗ることはもちろん、紛らわしい名称を用いることは禁じられているのです。
ただし、業務独占資格ではないので、医師・歯科医師・養護教諭・管理栄養士・栄養士などが適切な保健指導を行う場合は法的な問題はありません。
保健師の歴史
実は、保健師の古くは『保健婦』という名称で、女性だけが携われる仕事だったのです。
その後、1993年に法改正が行われ『保健士』という名称で、男性も仕事に関われるようになります。
そして、その9年後の2002年に両方の名前が統一され『保健師』となったのです。
職に就くためには、何をすればいい?
なり方の詳細については、別記事にて詳しくお話をしたいと思いますが、この記事でも簡単にご紹介をしておこうと思います。
まず、保健師国家試験を受験するための必須条件は、、看護師国家試験に合格していることです。
この試験に合格した後、指定された養成所にて1年以上の学科を修了することで、受験資格を得られます。
看護師の受験資格を得るだけでも、看護系の学校で3年以上勉強をする必要があるため、最低でも4年以上という長い期間、看護師・保健師について学び続ける必要があります。
尚、保健師の合格率は90%ほどと、高い数値を誇っています。
ただし、これは大学院卒業者など勉学に励む人が受験していることが理由の一つであり、決して試験の難度が低いという訳ではありません。
むしろ保健師は、看護師の試験と比べて難易度は高い傾向にあると言われています。
そのため、保健師養成課程において、十分な試験対策をしておくことが重要となります。
看護師とは何が違うのか?
そもそも、必要な国家資格が異なるという点もそうですが……、看護師の業務との一番の違いは、“治療”か“予防”かという点が挙げられます。
例えば、看護師の場合は、病気であったり怪我であったり、現在進行形で問題を抱えている人を“治療”(もしくはサポート)することが目的です。
それに対し、保健師は現在の健康状態に関わらず、人々が健康に生活を送れるように“予防”することが目的となります。
そのため、両者は勤務先が大きく異なります。
看護師の場合は、病院が主な勤務先となります。
しかし、保健師の場合は、保健所・保健センター・健康保険組合・各企業・学校・医療機関・訪問看護ステーション・福祉施設など、勤務先は多岐に渡るのです。
保健師の勤務先について
大きく3つに分けられる
保健師の勤務先は多岐に渡ると前述で記載しましたが、働く場所により大きく3つに分けることができます。
産業保健師
学校保健師(養護教論)
一つずつ、詳細をご紹介していきましょう。
行政保健師
これは、市区町村もしくは、都道府県や政令指定都市などの、保健所・役所や役場の福祉に関する部門などに勤務する保健師のことを指しています。
この仕事は、基本的に公務員であることがほとんどです(勤務先の大半が行政機関であるため)。
また、全ての保健師の中で、最も勤務者が多いのも特徴の一つです。
市区町村・都道府県や政令指定都市の保健師を合わせて、約70%以上もの人が、行政保健師として仕事に携わっているのです。
そして、その仕事内容は多岐に渡ります。
ベースとなるのは、心身の健康などの『相談業務』です。
鬱・心身の障害・認知症などを伴っていたり、依存症や生活困窮から中々抜け出せない人、そして虐待やDVなどを受けている人など……その相談対象は様々です。
中にはどうしても他者に話すことができない(怖いと感じる)人や、そもそも自身に自覚症状がない人などもいます。
こういった人達に対しても、相手の気持ちを尊重しつつ、時間をかけて問題解決に向けて働きかけていく必要があります。
その他にも、健康増進教室や離乳食講習などの『教室の実施』、病気を伴う人の社会復帰を手伝う『自立支援』、乳幼児の健康検査や虐待防止などの『保健指導』など、様々な業務に携わっています。
このことから、ケアの対象となる人は、乳幼児~高齢者に至るまで様々です。
尚、各地域ごとに業務内容に若干の差異はありますが、基本は市区町村も都道府県もケア内容自体はそこまで変化はありません。
加えて、両者が連携して地域のケアシステムの構築を行ったり、問題を拾い上げる対策を練ることもあります。
ただ、都道府県や政令指定都市に勤務している人の方が、より広域的かつ専門性の高い業務を行うことが多いとは言われています。
保健所には、医療のプロフェッショナルが数多く勤務されています。
例えば、医師・栄養士・理学療法士や作業療法士・精神保健福祉相談員などです。
そういった様々な専門家と連携を取りながら、相談・支援業務を行っていくため、幅広い知識が求められるようになります。
産業保健師
これは、各企業に勤める従業員の健康を、サポートする仕事となります。
現代は、特に過労やうつ病などの精神疾患の問題が取り沙汰されており、心身どちらの予防を行うことが産業保健師の大事な役割の一つとなっています。
そして、特徴的な業務の一つに、ストレスチェックが挙げられます。
企業に勤務している人なら「受けたことがある」という人もいらっしゃるかもしれません。
これは、労働者が50人以上いる事業所に義務付けられている制度の一つであり、働く人のメンタルヘルス不調を未然に防ぐための仕組みとなります。
ストレスチェックを行うことで、結果次第で医師の面談を受けるように指導をしたり、「なぜその状況に陥ってしまったのか?」といった背景や要因を見極めたり……と、改善のための動き出しや提案をしていきます。
ちなみに、このストレスチェックの結果ですが、会社側に通知することは禁止されています。
なぜなら、結果次第では働く人に不利な情報になりかねないからです。
ストレスチェックの結果は、受けた本人および実施者のみが結果を知ることができます。
働く人の健康状態を把握する立場にあることから、保健師は、情報の保管・取り扱い・プライバシーの保護などには、最新の注意を払う必要があるのです。
最後に。
このストレスチェックの実施ですが、保健師以外にも、産業医・厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士なども可能です。
学校保健師(養護教論)
これは、その名の通り、学校に勤務して学生や教職員の健康をケアする保健師のことを指しています。
ただし、この『学校』というのは、大学や専門学校などが対象となることがほとんどです。
小・中・高の学校にいる、いわゆる保険の先生というのは『学校保健師』ではなく()に記載した『養護教論』となります。
この養護教論になるためには『養護教論免許』が別途必要となります。
この資格を得るには、保健師免許を取得した上で、それを基礎資格として目指すものです。この資格の取り方については、別の記事にて詳細をお話できればと思います。
介護施設で働く保健師
現代は高齢化社会となっており、高齢者の増加に伴って介護施設での保健師の需要が高まりつつあります。
今現在ではまだまだ少数ではありますが、高齢者および障害を持つ人のケアを、医師や介護者などと連携しながら行う保健師も増加していく可能性は考えられます。
いずれ、介護保健師という新たな保健師の名称が誕生するかもしれません。
保健師の収入はどのくらい?高い?安い?
前述の通り、保健師の勤め先は多岐に渡るため、勤務先によって収入にはバラつきがあります。
特に、行政保健師は公務員であることが多く、他2つとは待遇が少々異なります。
ただ、おおよその平均年収は450万~550万円ほどと言われています。
※あくまで目安です※
日本人の平均年郵は420万前後と言われているので、それよりもやや高い水準と言えます。
前述の3種類で平均年収を見るとすると、おおよそ以下のようになります。
・産業保健師:企業により異なる
・学校保健師:年収450万円前後
産業保健師の収入についてですが、これは勤め先による年収の差が大きいのが特徴です。
なぜなら、勤務先の規模によって収入量が異なるからです。
企業規模の小さいところに勤めれば収入は基準値より下回る可能性がありますし、逆に企業規模が大きいところに勤務できれば基準値より大幅に収入が上がる可能性もあります。
行政・学校の場合は、勤務地に影響されず勤続年数によって徐々に収入は増加していきます。
ただし、(特に公務員の場合は)昇給額にも限度があります。
それに比べると、産業保健師は大手企業に勤めれば高額な収入が得られる可能性があるため、夢のある仕事と言えるかもしれません。
どちらしろハッキリと言えることは、相応の努力が必要ということです。
勤続年数はもちろんのこと、経験を積み・知識・スキルを得て、役職などに就いていく必要はあると言えるでしょう。
看護師と、どちらの方が収入が良い?
保健師になるためには、看護師免許の取得からさらに勉強をし、資格を得る……という非常に長い道のりを必要とします。
「ということは、給料は看護師よりも良い?」と思う方もいるかと思います。
結論を言うと、状況によりけりです。
看護師の平均年収は、約483万円と言われています。
そのため、勤め先や役職によっては「看護師の方が年収が高い」という可能性もあり得ます。
ただ、両者には勤務時間の差という明確な違いが存在します。
体力面は、保健師の方が楽……?
看護師は、日勤だけでなく、準夜勤や夜勤などが存在します。
そのため、生活リズムが不規則になりやすいという問題があり、体力的にも厳しい仕事と言われています。
加えて、収入が高い理由の一つとして、夜勤や休日出勤などの手当の存在が大きいのです。
仮に、夜勤や休日出勤のない日勤+平日出勤のみであれば、間違いなく保健師の方が収入が高いと言えます。
対して保健師の方はと言うと、一般的には「8時(9時)~18時まで」となることがほとんどです。
もちろん多少の残業が発生することはありますが、少なくとも夜勤などは(現時点では)ほぼありません。
行政保健師……つまり公務員の方であれば猶更です。
・土日祝は休み
・基本的に定時退社
仮に収入面にさほどの差が無かったとしても、勤務する時間・体力的な面は圧倒的に保健師の方が有利です。
加えて……もう一つ、両者には決定的な違いがあります。
精神的なプレッシャー
上述でもお伝えした通り、“治療”と“予防”という決定的な違いが、両者には存在します。
看護師の場合、「今現在、危機に瀕している患者のサポートをする」ことが中心となります。
対して、保健師の場合は、「問題が起こる前に、対策を練る」ことが中心となるため、精神的プレッシャーという面でも“まだ”看護師に比べて楽な方ではあります。
もちろん、全てがこれに該当する訳ではありません。
保健師の中にも、様々な問題を抱えている……もしくは自覚症状のない人などの相談に乗ることもあるため、繊細に相手と向き合う必要はあります。
それでも、体力面・精神面ともに、看護師として勤務されている方に比べると、多少は落ち着いて冷静に対応できる場面も多いのではないかと思います。
ただし、だからといって「保健師の方が楽」とは一概には言えません。
人には、向き・不向きがあります。
「看護師の方が自分には合っている」という人だっていますし、逆に「保健師の方が自分に合っている」という人もいます。
どちらが自身に合っているかは、実際に仕事に従事してみないことには分かりません。
その点だけは、ご留意いただければと思います。
まとめ
今現在、保健師という仕事は他の医療関係の業種に比べて、それほど世間一般の認知度が高いものではありません。
加えて、勤務形態の関係上『働きやすい』という理由もあって、比較的離職者が少ないことも認知度の低さに起因しています。
2020年の現時点では確かに求人数は少なく、保健師として就職するのは狭き門という印象は否めません。
しかし、医療に関する価値観は常に変化し続けています。
特に、高齢化社会による『介護』に関する保健師の需要は、着実に伸びつつあります。
他にも、企業・学校に関わる人達の中で、様々な精神的問題を抱える人も急増しています。
このことから、保健師としての需要は、今後も伸び続ける可能性が高いと言われています。
医学的知識をバックボーンにしながら人々の身体と心の両面のケアを行える保健師は、人々が健やかに暮らすうえで欠かせない人材として、多くの信頼を得ています。
保健師という仕事は、今後さらに注目度や需要が高まっていくと言えるかもしれません。