小さなお子さんから成人の方まで、どんな方でも一度はお世話になったことがあるであろう歯医者さん。
一括りに『歯医者』と言っても、その中にもいくつかの種類(職業)が存在します。
『歯科衛生士』もその中の一つです。
「何となくイメージはできるけど、具体的にどんなことをしているのかまでは分からない」という人も多いかと思います。
今回は、この歯科衛生士のことを、詳しくご紹介していきましょう。
歯科衛生士って何?
健康な歯を維持するための”サポート”を行う仕事
この仕事のことを端的に表現するのであれば、健康な歯を維持するための”サポート”を行う仕事となります。
ただし、その仕事内容は多岐に渡ります。
大別すると、以下の3つが挙げられます。
・歯科予防処置
・歯科保健指導
それぞれの業務内容を詳しくご紹介する前に、現代の歯科医療が大切にしていることについて、少しお話をしていきましょう。
現代は『予防』への意識が高まっている
高度経済成長期に突入した1960年代、欧米の食生活を取り入れたことによって『虫歯』が社会問題に発展しました。
その際は、歯科医師および養成するための学校が圧倒的に少なく、虫歯の『治療』が優先される時代だったのです。
その後、時代の流れとともに歯科医療の技術も格段に進化を遂げました。
その過程で、そもそも虫歯を発生させないための『予防』に重きが置かれるようになったのです。
近年は、『オーラフレイル予防』という高齢になっても自分の歯で美味しく食事できるような取り組みや、『8020運動』という80歳まで20本の自分の歯を残すことを目標とした運動が行われています。
これらは、厚生労働省が始めたものであり、国全体で口腔ケアへの意識が高まっているのです。
そして、歯科衛生士は、こういった取り組みに対して真価を発揮する仕事です。
歯科衛生士が対象とする人たちは乳幼児から高齢者まで幅広く、そのため就職先も数多く存在するのが特徴の一つと言えます。
業務内容について
上述でお話した通り、歯科衛生士の業務内容は大きく3つに分けられます。
ここで、それぞれの業務内容について、詳細をお話していきましょう。
歯科診療補助とは?
これは、歯科医師の指示のもとで、医療行為をサポートすることを指しています。
歯科医療とは、チームで行う医療です。
歯科医師一人に対して、毎日多くの患者が来院し、治療を行っています。
それに対し、歯科医師一人が全てを完璧に対応しきることはできません。
歯科医師が治療に専念できるよう、医師と患者との間に立って、円滑なコミュニケーションを築けるようにサポートをするのが、この業務の最も大切な部分となります。
もちろん、医師が安心して治療を行えるように技術的な面でのサポートも行っています。
例えば、診療に必要となる機器を用意したり、機器の消毒殺菌を行ったり、義歯や矯正装置を作成するために必要な歯型採取を行ったりなど、様々です。
この業務範囲について、歯科医院や病院によって異なります。
歯科予防処置とは?
人が、歯を失う原因の90%が、『虫歯』と『歯周病』です。
そして、上記2つは『歯科の二大疾患』と言われており、多くの人が歯医者にお世話になる要因とされています。
言い方を変えると、この2つを『予防』することができれば、自分の歯を長く……上手くいけば一生保つことが可能となるのです。
『歯科予防処置』とは、自分の歯を長く保つために行う処置のことを言います。
予防処置の方法としては、『フッ化物塗布』と呼ばれる薬物塗布、『機械的歯面清掃』という歯石や歯垢などの口腔内の汚れを叙するものが挙げられます。
歯科保健指導とは?
『指導』という名が付いている通り、これは患者自身が、口腔内の正しいセルフケアができるように指導することを指しています。
一言で『指導』と言っても、その内容は様々です。
代表的なのは、小児の歯の発達や虫歯を予防するための『生活指導』、そして虫歯や歯周病の予防をするための『歯磨き指導』です。
他にも、食生活や健康管理に関するアドバイスや、保健所で働く人は『母子歯科保健事業』などを行うこともあります。
勤務先や活躍できる場所はどこ?
治療のサポートから予防まで業務の範囲が非常に広いため、活躍できる場所も数多く存在します。
まとめると、以下のようになります。
②大学や総合病院
③保健所(市町村の保健センター)
④介護、福祉施設
⑤歯科関連企業
現代は、高齢化社会でもあります。
そのため、③の介護・福祉施設への需要も非常に高まっています。
例えば、寝たきりの人の歯磨きを介助したり、口の中を定期的に検診し、少しでも長く自分の歯で食事ができるような手助けをしたりなどを担当しています。
歯科医師に比べ、歯科衛生士は母数が圧倒的に不足しているのが現状です。
そのため、求人は多数存在し、(現状では)就職には困らない職業と言えるかもしれません。
歯科衛生士になるための道のりについて
資格を得る必要がある
歯科衛生士になるには、『歯科衛生士』という国家資格に合格しなければいけません。
そして、受験資格を得るためには、高等学校を卒業した後に、以下の歯科衛生士の養成校に進学する必要があります。
・3年制の短期大学
・3年以上の専門学校など
国家試験+明確な受験資格の要件があるため、当然ながら試験に合格しなければいけませんし、独学で勉強して歯科衛生士になれる訳ではありません。
仮に、社会人として別業種で勤務をしている人が「歯科衛生士になりたい!」となっても、まずは関連する学校に通い、受験資格を得なければいけないのです。
ただし、合格率は(現時点では)非常に高く、該当する学校でしっかりと勉学に励んでいれば、早々不合格となることはありません。
養成所の数について
日本全国に様々な歯科衛生士を養成する学校が存在しますが、専門学校の数が群を抜いて多いのが特徴です。
例えば、2014年4月時点では、大学:8校、短期大学:12校、専門学校136校の計156校でした。
今も専門学校の数が圧倒的に多い現状ではありますが、ただ現在は4年制大学少しずつ増加傾向にあり、逆に専門学校の数は減ってきています。
その理由としては、18歳以下の人口の減少と4年制大学への志向が高まっていることが理由とされています。
学費についてですが、これは通う学校によって様々です。
例えば、専門学校の場合は、3年間で100万円~350万円程度と言われています。
対して、短大や大学の場合は、卒業までに350万円~450万円かかると言われています(ただし、私立大学の場合もう少し高くなる可能性もあり)。
試験の概要
試験についての概要は、概ね以下の通りです。
試験内容は、以下の中から出題されます。
・歯・口腔の構造と機能
・疾病の成り立ち及び回復過程の促進
・歯・口腔の健康と予防に関わる人間と社会の仕組み
・歯科衛生士概論
・臨床歯科医学
・歯科予防処置論
・歯科保健指導論及び歯科診療補助論
合格基準は年度により多少異なりますが、概ね満点に対して約60%の正答率で合格となります。
合格率はどのくらい?
下記は、公益社団法人 日本歯科衛生士会に記載の内容を参考にして、第14回(平成17年)~第29回(令和2年)までの『受験者数』『合格者数』『合格率』を表にしたものです。
一時期受験者数が大幅に減っていますが、近年は7000人以上もの人が試験を受けており、合格率は古くから95%以上と高い数値を誇っています。
専門の養成所で3年以上学ぶこと、合格基準は全体の約60%の正答率であること、そして受験者一人ひとりが100%合格を目指し努力していること……様々な要素があって、試験の難易度はそこまで高くないと言われています。
ただし、いくら合格率が高いと言っても、何の勉強もせずに合格できるほど生易しいものではありません。
試験には幅広い知識が求められるため、日々の勉強の中で学んだことを、コツコツと積み上げて定着させていきましょう。
歯科衛生士の現状
男性でもなることは可能?
結論から言うと、男性でも歯科衛生士になることは可能です。
古くは女性限定とされていたこともあり、現在の養成所の多くは、女性の入学しか認めていない所もあります。ただ、大学に歯科衛生士養成課程が新設されてからは男性の入学希望者も増えているのです。
2012年6月の時点で、男性の歯科衛生士の数は43名。年々少しずつ男性の歯科衛生士は増加しています。
勤務時間は?
仕事先が数多く存在するので、勤務時間は場所によっても多少変化します。
例えば、歯科医院に勤務している人であれば、診察時間(9時~19時くらい)が基本となります。
健診センターや介護施設への訪問指導を仕事としている場合、9時~18時となることがほとんどです。
ただし、状況に応じて多少の残業が発生することはあります。
特に健診センターに勤務している人の場合、4月の健康診断シーズンは繁忙期となるため、健診後もカルテの記録整理の対応で残業が発生する可能性があります。
とはいえ、健診センターの場合は、スケジュールがあらかじめ決まっているので、生活スタイルは非常に合わせやすいと言われています。
雇用形態は?
雇用形態して挙げられるのは、『正社員』と『パート』です。
どちらの雇用形態でも、基本残業はあまり発生しません。発生しても、長時間拘束されるようなことはないでしょう。
そして、正社員の場合は「シフト制か定時制か」で多少生活リズムに変化が発生しますが、比較的仕事とプライベートの両立は行いやすいと言われています。
そして、パートの場合は「シフト制」となることがほとんどであり、自由度は中々に高くなります。
収入はどのくらい?
どの仕事であっても大体同じではありますが……歯科衛生士も勤め先によって収入や待遇は変化します。
尚、厚生労働省の統計データで平均年収を確認すると、約350万円前後となっています。
上記は賞与なども含まれているため、それらを除くと、平均月給は26万円ほどとなります(手取りだと24・5万円)。
ただ、この仕事は年齢や勤続年数による給料の変動が少ない仕事と言われています。
給与・待遇も勤め先によって異なるため、「私の給与は少ない」と感じる方もいらっしゃるようです。
そのため、人によってはパート勤務で複数の施設を掛け持ちしている人もいます。
将来性はあるの?
これまでにもお伝えした通り、近年は『予防』に対する意識が高まっています。
歯科医院や健診センターはもちろん、介護施設の求人も増加傾向にあります。
そのため、歯科衛生士の需要は年々高まっているのですが、肝心の歯科衛生士が不足しているのが現状です。
加えて、この仕事は女性の職員数が圧倒的に多いのです。
そのため、結婚・出産・子育てなどで仕事を辞めてしまう人も少なくありません。
以前別の記事でも触れましたが、歯科医師と歯科医院の数は非常に多く、他の医院と差別化を図るために診療時間を延ばしたり・夜勤を導入したりと言った施設も増えています。
そうなると、育児と両立をしたいと考えている女性の歯科衛生士は働き辛い環境となってしまいます。
こういった点について、課題解決のために勤務条件の改善などが少しずつ行われています。
加えて、今後は男性の歯科衛生士も増加していくはずです。
就職先・働き方改善という両方の観点から、この仕事は今後も必要とされ続ける可能性が高い職業と言えるでしょう。
まとめ
需要は非常に高く、将来性もあるのが歯科衛生士です。
ただし、同時に大変な仕事でもあります。
この仕事は、スタッフはもちろんのこと多くの患者とコミュニケーションを取っていく必要があります。
関わる患者は、小さな子供からお年寄りまで様々です。
そのため、人間関係の構築が非常に重要となるのです。
どんな患者に対しても、丁寧に思いやりを持って接していかなくては、自分のもとに患者さんは来てくれなくなってしまいます。
さらに、医療業界は常に進化し続けています。
職に就いたらゴールではありません。職に就いた後も、常に最新技術に対して貪欲に知識を吸収していく必要があるのです。
これらのことから、人によって向き・不向きがある程度ハッキリする仕事と言えるかもしれません。
決して楽な仕事ではありませんが、やりがいのある仕事であることに間違いはありません。
興味を持たれた方は、是非知見を広げてその一歩を踏み出してみて下さい。