理学療法士は国家資格です。理学療法士になるには国家試験に合格しなくてはなりません。その国家試験にも受験資格という条件があって、指定された専門学校や大学で必要な知識と技能を修得しなければなりません。専門学校と大学の違い、学費の目安、国家試験の難易度、就職など、これから理学療法士を目指そうという人の気になるところを紹介します。
国家試験で免許取得
理学療法士の資格や国家試験は法律で定められています。「理学療法士および作業療法士法」は、「理学療法士になろうとする者」について、「理学療法士国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない」としています。
また、国家試験を受けられるのは、文部科学省が指定した大学や短大などの学校、または都道府県知事が指定した専門学校などの養成施設で3年以上、必要な知識および技能を修得した者と定めています。
受験資格を得られる学校または養成施設
受験資格を得られる学校または養成施設とは以下のようなところです。
理学療法士の学校または養成施設は全国に276校あります(日本理学療法士協会調べ、同協会ウェブサイトで一覧を公開)。この一覧を基に学校または養成施設を種類別に数えてみると、多い順に専門学校が148校(3年制85校、4年制63校、昼間の修業年限を基本に分類)、大学が115校、短大が9校、専門職大学が4校となっています。専門職大学は今後増える可能性があります。
大学なら保健医療学部や医学部などに理学療法の専門課程があります。専門学校なら医療系の学校などに専門課程があります。まだ数は多くありませんが、2019年度に創設された専門職大学にも理学療法を学べる学校があります。
また、作業療法士の資格を持っている人は、養成校で2年以上学べば受験資格が得られます。外国の養成校を卒業した人、外国で理学療法士の免許を取得した人は、厚生労働大臣の認定を受ければ、新たに養成校に入る必要がない場合や不足した単位のみ取得すれば受験資格を得られる場合があります。
専門学校か大学か
理学療法士への道を進もうと決めたものの、進学先としてさまざまな種類の学校があって選択に迷います。
まずは、大学・短大、専門職大学、専門学校にはどのような違いがあるのか、学校教育法の規定を基に設置目的を比較してみましょう。
設置目的の比較
大学とは
学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的および応用的能力を展開させる。その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与する。
短期大学とは
深く専門の学芸を教授研究し、職業または実際生活に必要な能力を育成する。
専門職大学(専門職短期大学)とは
深く専門の学芸を教授研究し、専門性が求められる職業を担うための実践的かつ応用的な能力を展開させる。その専門性が求められる職業に就いている者、当該職業に関連する事業を行う者その他の関係者の協力を得て、教育課程を編成し、および実施し、並びに教員の資質の向上を図る。
専門学校とは
職業もしくは実際生活に必要な能力を育成し、または教養の向上を図る。
大学・短大はどちらかと言えば学問的色彩が強く、対して専門学校は実践的です。専門職大学は大学と専門学校のそれぞれの長所を取り入れた存在といえるでしょう。
授業内容の比較
国家試験の受験資格は、指定された学校または養成施設で知識、技能を修得した人に認められますから、大学であっても専門学校であっても、これに必要な教育内容は当然、厚生労働省が示す基準に基づいています。従って、受験資格を得るという目的においては、授業内容に変わりはありません。
違いは一般教養的な教育内容の取り扱いに現れています。
専門学校は職業能力の育成という目的に従い、実務に必要な教育内容が重視されます。
一方、大学は学術が重視され、知的・道徳的・応用的能力の展開という目的に従い、「専門の学芸を教授するとともに、幅広く深い教養および総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵養(かんよう)する」(文部科学省大学設置基準)ことが求められます。このため、一般教養的な教育内容を含む授業科目も開設しなければなりません。
専門職大学は大学と専門学校の中間的な位置づけになるのでしょう。「大学と専門学校の長所を取り入れて、特定の職業のプロフェッショナルになるために必要な知識・理論、そして実践的なスキルの両方を身に付けます」と文科省のウェブサイトにあります。
授業時間数はどうでしょうか。厚生労働省の「第1回理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会」(2017年6月26日)に提出された実態調査結果を見てみましょう。以下のようになっています。
最も多いのは4年制の専門学校です。同じ4年制でも職業教育に特化した専門学校が大学を上回っています。理学療法士という職業に就くことを最大の目標とするのであれば、これに必要な授業をしっかりと受けられるということになります。
専門学校に比べると大学での理学療法教育は新しく、2016年に設立50周年を迎えた日本理学療法士協会の記念サイトによると、大学教育の糸口となったのは1979年の金沢大学医療技術短期大学部の理学療法学科開設。それから10年余りのちの1992年、広島大学医学部保健学科に理学療法専攻が開設されました。これ以降、大学教育による理学療法士養成が全国に広がっていったとのことです。
学校生活
大学での同級生はほぼ同年齢ですが、専門学校には、一度大学を卒業した人や社会人を経験した人も入学してくるため、学生の年齢層は幅広くなる傾向があるといいます。実社会に近いといえるかもしれません。
大学の特徴は、さまざまな学部の学生が集う広い校庭や図書館、研究室など学究的な雰囲気でしょうか。多様なサークル活動も大学ならではかもしれません。
入学試験
大学は専門学校に比べると学力が重視されます。
専門学校は、一般入試では、国語や数学、英語などの学力を試すところもあれば、作文や面接、適性検査などのみのところもあります。ほかにAO入試(アドミッション・オフィス入学試験=学業成績や活動記録などの書類、小論文、面接などを通じ、人物本位の選考を総合的に行う入試方法)や高校推薦もあります。
大学は、一般入試では、大学入学共通テスト(国語、地理歴史、公民、数学、理科、外国語)を利用したり、教科を絞った個別の学力試験を実施したりします。AO入試や高校推薦もあります。
専門学校、3年制または4年制のどちらを選ぶ
専門学校にも修業年限が3年の学校と4年の学校があります。どう違うのでしょうか。
3年制
【受験資格】国家試験の受験資格が早く得られる。
【学費】修業年限が短い分、学費が抑えられる。
【授業内容】1、2年次は座学が中心、3年次は臨床実習が中心。
【学位】修業年限が2年以上の専門学校の修了者には専門士の称号が付与される。短期大学卒業者と同等以上の学力があると認められる者として、大学への編入学の資格が与えられる。
【特徴】3年間で必要な知識と技能を身に付けなければならないが、早く現場に立てる。
4年制
【受験資格】国家試験の受験資格が得られるのは大学と同じ4年後。
【学費】大学と同じ4年分の学費が必要。
【授業内容】1~3年次は座学が中心、4年次は臨床実習が中心。
【学位】修業年限が4年以上の専門学校の修了者には高度専門士の称号が付与される。大学卒と同等以上の学力があると認められる者として、大学院への入学資格が与えられる。
【特徴】スタートは遅くなるが、その分、ゆとりを持ってじっくり学べる。
何を学ぶのか
理学療法の授業では、どのようなことを学ぶのでしょうか。厚生労働省令の理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則に教育内容が以下のように示されています。
理学療法の教育内容
学費
学費はどれくらい掛かるのでしょうか。ほんの一例ではありますが、以下に紹介します。およその目安はつかんでいただけると思います。
入学金、授業料など
専門学校3年制
例1)入学金45万円、授業料など年間130万円
例2)入学金30万円、授業料など年間171万2000円
専門学校4年制
例1)入学金30万円、授業料など年間100万円
例2)入学金30万円、授業料など年間129万800円~154万800円
私立大学
例1)入学金30万円、授業料など年間145万円~178万円
例2)入学金20万円、授業料など年間150万円
国立大学
入学金28万2000円、授業料年間53万5800円(文部科学省令標準額)
専門職大学
例1)入学金40万円、授業料など年間120万円
例2)入学金30万円、授業料など年間146万円
このほかに教科書代や実習に伴う費用などが必要です。
(2021年1月11日現在、本欄調べ)
国立大学を除けば、学費の総額は400万円余りから700万円に上ります。とても大きな金額です。必要に応じて奨学金制度の利用を検討してもよいでしょう。社会人の就学についても、厚生労働省の就職支援制度を利用して給付金を受けられる場合があります。
国家試験を受ける
以下に理学療法士国家試験の試験日程を紹介します。
試験日程
【試験期日】年に1度、2月下旬に実施
【試験地】北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、香川県、福岡県、沖縄県
【試験方法】筆記試験
【試験科目】一般問題…解剖学、生理学、運動学、病理学概論、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要、理学療法/実地問題…運動学、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要、理学療法
(重度視力障害者の受験者に対しては別の期日に、別の方法で試験を行う)
【受験手数料】1万100円
【合格発表】3月下旬
合格率
厚生労働省のウェブサイトで理学療法士国家試験の合格率を確認しました。2020年の第55回理学療法士国家試験の合格率は86.4%でした。1万2283人が受験し、1万608人が合格しました。ここ5年の合格率は70%台半ばから90%の間で推移しています。
厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会 第3回理学療法士・作業療法士需給分科会」資料(2019年4月5日)によると、2018年の合格者のうち、専門学校などの養成施設の卒業者の合格率は75.1%、大学の卒業者の合格率は90.8%でした。約15ポイントの開きがありました。
理学療法士名簿への登録
国家試験に合格したら速やかに免許証の交付を申請します。申請書は住所地の都道府県知事(保健所など)を経由して厚生労働省に提出します。理学療法士名簿に登録され、免許証が交付されます。これで晴れて理学療法士を名乗ることができます。免許申請を行わず、名簿に登録される前に業務に従事した場合、行政処分の対象となりますので、注意が必要です。
受験対策
各学校では、模擬試験や集中講義、合宿、出願傾向の分析などを通じて、受験対策に力を入れ、合格率の向上に努めています。
ウェブ上には学校別合格者状況の情報もあります。ウェブサイト「看護医療進学ネット」が公開しています。
理学療法士として働く
理学療法士は次のような場所で活躍しています。
主な就職先
就職先探しは、学校に寄せられる求人情報などが参考になるでしょう。各学校は学生募集をにらんで、支援体制の充実度や就職の実績をアピールしています。就職希望者、卒業生を対象にした合同企業説明会の開催や模擬面接会の実施などで学生の就職活動を支えています。理学療法士として働く卒業生とのネットワークも就職先を確保する上で大切にされています。
また、資格取得後、より専門的な知識を身に付ける場合、研究職を目指す場合などは大学院(修士課程・博士課程)への進学という道もあります。
まとめ
一般企業に就職するのと違い、卒業が就職への切符になりません。国家試験という山を越えて初めて、理学療法士として活躍する機会を得ることができます。3年または4年間の過ごし方が試験によって試されるのですから、学生生活は気を抜けません。そうした自己を支えるのは、理学療法士を志す強い思いでしょう。