医療業界には、様々な職業が存在します。
医師や看護師のようなイメージのしやすいものから、保健師や養護教論などの「名前を聞いたことがない……」というようなイメージが難しいものまで数多くあります。
ただ、どれも人々の生活の身近にある仕事ばかりです。
そして、今回ご紹介する『歯科医師』は、「知らない」「聞いたことがない」「お世話になったことがない」という人がほとんどいないであろう、医療の中でも特に有名な職業です。
「どんな仕事をしているのか?」「年収はどのくらいなのか?」今回は、このような点に絞ってご紹介していきたいと思います。
歯科医師って何?
人々の口の健康と美を守る仕事である
知らない人はほとんどいないであろう歯科医師……つまり歯医者さんは、人々の口内環境を守る仕事をしています。
最もイメージしやすいのは、『虫歯の治療』や『抜歯(歯を抜く)』かと思いますが、それは仕事内容のほんのごく一部のことです。
お口のトラブルを解決するだけでなく、様々な角度からお口の健康をサポートするのが、歯科医師の重要な仕事なのです。
尚、歯科医師法の【歯科医師の任務】第1条では、歯科医師のことは以下のように記載されています。
歯科医師は、歯科医療及び保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする
出典:歯科医師法-第1章 総則
具体的な仕事内容
基本的には、歯科医師の治療・サポート範囲は『歯』に関連したものとなります。
ただ、歯の治療が最も多い治療箇所ではありますが、口内環境全般が治療範囲であることから、口の中・舌に関する病気や、あごの病気の治療を担当することもあります。
そして、歯科医師の業務範囲は多岐に渡ります。
以下で、それぞれの仕事内容を大まかにご紹介していきましょう。
歯の治療
まずは、最も仕事内容のイメージがしやすく、馴染みの深い『歯の治療』です。
主に、以下のようなものが挙げられます。
- 虫歯の治療
- 歯周病の治療
- 歯や歯茎の疾患の治療
- 歯石の除去
加えて、歯の嚙み合わせの治療も行っています。
歯の噛み合わせが悪いと、歯だけでなく姿勢そのものが悪くなる原因にもなります。
姿勢が悪くなれば、頭痛や肩こりに悩まされることも多くなり、それは自身のメンタル面にも影響を与えてしまいます。
よく聞く内容としては「肩こりが酷くて整体通っていたが治らなくて……。でも、歯医者で嚙み合わせを治療してもらったらすぐに体調が良くなった」というものです。
噛み合わせとは、身体に影響を与える重要なものです。
そういう意味では、歯の治療ではなく、歯の治療を通して”身体の健康を守る”と言っても良いかもしれません。
矯正歯科
矯正……つまり、歯並びを整えることです。
上記でもお伝えしたように、嚙み合わせというのは身体全体に不調を及ぼしてしまう恐れがあります。
そしてそれは、歯並びの悪さが影響してくるのです。
悪い歯並びや噛み合わせを、きちんと噛み合うように矯正していく……それが矯正歯科の仕事となります。
ちなみに、上下の顎の歯並びがきちんと噛み合わないことを『不正咬合(ふせいこうごう)』と言います。
これには様々な種類が存在します。
・下顎前突:下の前歯が前にでている状態
・叢生:歯が顎に入りきらずに、ガチャガチャに生えている状態
・開咬:奥歯だけが噛み合い、前歯などそれ以外の歯が噛み合っていない状態
・過蓋咬合:前歯の噛み合わせが深い状態
矯正する際は、矯正装置を装着し、1年半~2年半などの長い期間をかけてじっくりと治していきます。
そして、装置を外してからも経過観察を数年かけて行っていくため、患者さんと長い期間向き合っていくこととなります。
小児歯科
その名の通り、子供たちの歯の健康を中心に携わっていきます。
歯並びのチェック
乳幼児の虫歯の治療
虫歯や歯周病の予防
歯磨き指導
フッ素塗布
歯石の除去
治療・予防など、子供たちの歯の健康を保つために、様々な取り組みを行っています。
審美歯科
通常の歯科治療に加え、『美』の視点をプラスした歯科治療のことを『審美歯科』と言います。
代表的かつイメージしやすいのは、歯を白く綺麗にすることでしょうか。
他にも、歯並びを綺麗にしたり、歯茎の色を美しいピンク色に改善するなどを行っています。
インプラント治療
『インプラント』とは、顎の骨に人口の歯根を埋め込み、人口の歯を装着することを言います。
これによって、元々あった天然歯と同等の租借運動を行えるようになる……という治療のことです。
これは、『入れ歯』や『ブリッジ』とは違う治療法となります。
入れ歯(部分入れ歯)は、プラスチックや金属の床……もしくは歯に引っ掛ける止め金などを必要とします。
ブジッジは、両隣の健康なを削り、人口の歯を被せる治療法です。
噛む(租借)行為は、歯や顎に非常に強い力をかけています。
例えば、奥歯1本にかかる荷重は、その人の体重にほぼ等しいと言われているほどです。
そのため、特にブジッジは他の歯への負担が大きくなってしまいます。
それに対して、インプラントの場合は、独立した歯を樹立するため、他の歯に負担をかけることがありません。
加えて、あごの骨にも自然の歯の時と同じ刺激が伝わることから、顎の骨の変形も少なくなるのです。
インプラント治療の技術も着実に進化しており、歯科治療の有効手段として確立されています。
歯科健診
乳幼児から義務教育期間中の学生などを対象に、歯科健診を行っています。
加えて、歯科健診を通して、食生活の指導や歯磨き(ブラッシング)指導などの啓発事業も行っています。
警察歯科医
これは、「聞いたことがない」という人も多いかと思います。
警察歯科医というのは、警察からの要請を受け、身元不明遺体の”身元確認”に協力する歯科医師のことを指しています。
東日本大震災などの大規模な災害、事故・事件など、日本国内でも様々な被害が発生しています。
歯というものは、非常に頑丈な造りをしています。
著しく損傷した遺体の身元を確認する際に、歯や口の中の状態……もしくは生前に受けた歯科治療などを基に、その遺体の身元を明らかにしていくのです。
医師との違いは?
そもそも必要な資格が異なりますし、携わる業務内容そのものが全く異なるため、「両者は違う」という認識は多くの人が持っていることと思います。
ただ、法律上は「医師も、抜歯や虫歯を削ることは可能」です。
しかし、虫歯を削った後に詰め物をすることは医師にはできません。
上記のような咬合に関わる行為というのは、「失われた機能を、代わりのもので補う」ということであり、歯科医師のみに許されている医療行為なのです。
「虫歯を削ってもらえるなら病院でもいいか」と考える人は恐らくいないとは思いますが……何にせよ、歯(口)に関することは、歯医者に行った方が間違いなく懸命な判断です。
尚、少し余談ですが、歯科治療に付随する行為であれば、歯科医師は『全身麻酔』『呼吸管理』を行うこと、そして『死亡診断書』を書くことも可能だったりします。
ただ、ここまでのことを歯科医が行うというのは、早々あることではありません。
歯科医の仕事の仕方について
どんな働き方がある?
まず、歯科医師の働き方についてお話をしたいと思います。
歯医者さんと聞くと、どういう働き方をイメージされるでしょうか。
基本は、各地域にある『〇〇歯科』や『〇〇歯科クリニック』などの、「あなたの街の歯医者さん」みたいなのを想像する人が多いかと思います。
そのイメージ通り、歯科医師は『開業医』、つまり自分で歯科医院を営む人が圧倒的に多いのです。
その他は、他の医院に勤める『勤務医』や『大学の研究員』などが挙げられますが、こちらはごく少数と言われています。
また、歯科医師を雇う場合、基本的には『正社員』として募集をかけることがほとんどです。
しかし、稀にパートやアルバイトで求人募集がかかることもあります。
パート・アルバイトとして働く人は、国家資格を取ったばかりの若い歯科医師が多いと言われています。
この理由は、様々な歯科医院で治療経験を積むためです。
収入は不安定ではありますが、後に自身が開業する際の足掛かりとして、“敢えて”アルバイトを掛け持ちして経験を積む人もいるのです。
勤務時間や一日の流れは?
一般的に、歯科医師の診療は『外来診療』が中心となります。
つまり、患者自身が通院することです。
診療時間ですが、ほとんどの医院は「9時(10時)~19時(20時)」が基本となります。
ただし、医院の中には、他と差別化を図るために夜間治療を行っている場合もあります。とはいえ、それでも21時くらいまでの業務となるのがほとんどです。
休日は、日・祝に加え、平日(木曜日など)が休みとなることが多いのが特徴です。
そのため、病院の医師や看護師に比べ、比較的生活リズムを整えて仕事を行うことができる職種ではあります。
収入はどのくらい?高いの?安いの?
歯科医師の年収ですが、これは人により大きく変動することとなります。
医院の規模・勤める病院の種類・勤め先の自身の役職や経験など、様々です。
そのため、年収は約300万~1000万円とかなりの開きがあります。
例えば、第21回医療経済実態調査によれば、歯科医院の院長の年収は『約1,186万円』で、勤務医の場合は『約606万円』ほととなっています。
また、性別によっても、金額に多少の差があります。
ただし、これはあくまで平均年収であり、目安です。
特に開業医の場合は、患者の来院数や診療内容によっても大きく変化します。
人気(知名度)のある医院や歯科医師であれば、それだけより多くの収入を得られる可能性はあります。
歯の治療というのは、今後も需要がなくなることはありません。
なぜなら、人は食事や水分を取ることで栄養を補給し、生きているからです。
もし口内に痛みや炎症などの異常が発生すれば、美味しく食べることはおろか食事することも億劫になってしまうことだってあります。
このことから、これからも長きに渡って必要とされる仕事であることは、間違いありません。
歯科医師の今後の課題
現在、歯科医師……そして歯科医院の数は非常に多く存在しており、歯科医院の数はコンビニよりも多いと言われています。
そして、この問題は『歯科医師過剰問題』として、ウィキペディアに専用のページが設けられているほどです。
参考:Wikipedia-歯科医師過剰問題
その詳細については別の記事でご紹介をしたいと思いますが、何にせよ歯科医師の数が膨大であり、収入面の低下・就職先が少ないことが問題として挙げられています。
加えて、歯医者というのは苦手意識を持たれやすいことも特徴の一つでもあります。
古くは治療技術が発展途上だったこともあり、「小さい頃に痛い経験をした」「あのドリル音が怖い……」など、過去の出来事が一種のトラウマとなり、歯医者に足を運ぶことをためらう人もいるほどです。
こういった点で、「いかに多くの患者に来院してもらうか?」ということを課題としている医院も多数存在します。
ただ、この点は医院や医療機器メーカーも様々な努力を続けています。
特に、医療機器メーカーは、痛みを最小限に抑えた治療器具を開発しています。
加えて、歯科医師に関しても、患者が痛みを感じない(感じにくくする)ための処置を施してもいます。
歯科医師に向いている人は、器用かつ温和な人です。
辛抱強く温和に患者と向き合い、信頼関係を築ける歯科医師は、それだけで患者に安心感を与えます。
実際、そういった歯科医師の元へ、遠方から通院する患者もいるほどなのです。
近年は、少しずつ女性の歯科医師も増加傾向にあります。
女性ならではの細やかな対応と安心感は、実際に患者にも伝わることが多く、この仕事は女性に向いている職業とも言えます(もちろん人それぞれ向き・不向きはあります)。
現在はまだまだ男性歯科医師の方が多いのが現状ではありますが、今後は少しずつでも状況が変化していく可能性もあるかもしれません。
まとめ
これまでにご紹介した通り、『歯』そして『口』は、人々が健康的な生活を送るためにとても重要です。
食事を美味しく食べることはもちろん、歯並びや噛み合わせの問題で身体に異変が発生することだってあります。
こういった身体の健康を守るという歯科医師の仕事は、今後も無くなることは早々ありません。
ただ、医師・医院の数が非常に膨大であるという問題は確かに存在しており、実際に「医院を開業したものの、経営は赤字続き……」という医院も少なくありません。
加えて、現在は虫歯予防の技術も発展しており、これまでよりも歯医者に通う数が減ったという人も増えています。
こういった点から、新卒であれ転職であれ、『自身の強み』や『得意とする専門分野』などを持っておくことが、今後は大切になってくるかと思われます。
医療業界は常に進化を続けています。
自身の技術を磨くことはもちろん、常に先見性を持って様々な情報を仕入れておくことで、歯科医師として長く勤めていくことが可能となるのかもしれません。
他の業種同様、決して楽な仕事ではありませんが、需要が全くなくなることはないため、挑戦する価値は大いにある職業です。
関心を持たれた方は、様々なところから情報を仕入れ、その一歩を踏み出してみて下さい。