ニュースなどでも耳にすることが多い「児童虐待」。
そして、そのニュースで必ずといっていいほどに取り上げられるのが「児童相談所」の対応についてです。
実のところ、「児童相談所とはどういう施設」で「どんな役割を担っているのか」がよく分からないという人も多いのではないでしょうか。
今回は、児童相談所について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
「児童相談所」とはどのような施設なのか?
概要
我が子を一人前の大人になるまで育て上げるのは、親の責務です。
しかし、中には「育児放棄」をしたり「児童虐待」を行ったりなどして、子どもの健全な成長を妨げる親もいます。
その背景にあるものは、家庭によってさまざまです。
保護者の精神疾患、離婚や破産などの経済的理由、はたまた保護者の性格の問題など……。
こういった、成長を阻害し果ては命の危機に瀕する可能性のある子どもたちを守るために存在するのが、「児童相談所」なのです。
児童相談所とは、社会福祉法の一つである「児童福祉法」に基づいて設置されている、自治体(都道府県)の機関です。
一都道府県に対し一つ以上設置することが義務付けられており、全国には200ヶ所以上の児童相談所が点在しています。
施設の「役割」について
施設が運営される最大の目的は、「子どもの権利を守り、子ども家族の援助を行うこと」にあります。
対象となる子どもは「0歳~18歳未満」です。
ただし近年は、児童相談所が青少年相談センターなどの機関と合わせて運用していることも多く、対象年齢が「20歳未満」となっているところもあります。
尚、機関の役割については、大きく以下の3つに分けることができます。
②「家庭や子どもについての相談」
③「子どもの一時保護」
順に、補足を加えていきたいと思います。
役割①「指導・措置」
問題(の可能性)がある家庭へ訪問し、指導や適切な措置などを行います。
仮に児童虐待の場合、基本的に通報を受け付けてから48時間以内に対象となる児童の安全確認が行われることとなります。
それと同時に様々な機関と連携して調査が行われ、安全確認で得た情報と合わせて「虐待の可能性はあるのか・指導が必要か」などが検討されます。
ただし、安全確認の段階で48時間以内に安否を確認できなかった場合は、児童福祉司が自宅まで足を運び安全確認を行うこととなります。
尚、指導による改善が見られない場合、もしくは入所の必要があると考えられる場合には「児童養護施設」「グループホーム」「児童自立支援施設」「医療機関」などへの入所を行うこともあります。
また、両親・家庭による子供の育成が難しい場合、里親への委託の手続きを行うなども行っています。
役割②「家庭や子どもについての相談」
児童相談所では、児童虐待以外にも「子育ての悩み」の相談も受け付けています。
例えば、以下が挙げられます。
◆「心身障害」:言葉に遅れが見られる、知的発達障害があるのではないかなど
◆「非行」 :家出、盗癖、乱暴行為といった問題
◆「生育環境」:保護者の病気・家出・離婚などで子供の家庭での生活が難しい場合
相談時に的確なアドバイスをもらうこともできますし、どうしようもない場合は児童福祉司が介入してくれることもあります。
また、この相談・通告に関しては電話でも行えますし、匿名での相談も可能です。
近年では親からの子供の心身障害・発達障害についての相談や、虐待に関する相談が増加しています。
役割③「子どもの一時保護」
その名の通り、「一時的に子どもを預かる」ことをいいます。
対象となる子どもは家庭状況によってさまざまですが、例えば以下が挙げられるでしょうか。
◆「虐待のおそれが感じられる場合」
◆「子どもが親に怯えている場合」
◆「虐待以外にも子どもを家庭から離して保護する必要が感じられる場合」
保護された子どもは、「一時保護所」という施設で一時的に暮らすこととなります。
ただし、この一時保護の有無の判断はとても難しいとされています。
判断を間違えてしまった場合、最悪子どもの命が危機に瀕してしまう可能性もあるからです。
どのような人たちが働いているのか?
児童相談所では、さまざまなスキルを有した職員が働いています。
◆児童福祉司
◆児童相談員
◆精神科を専門とする医師
◆児童心理司
◆心理療法担当職員
◆小児科医
◆保健師
◆理学療法士等
◆臨床検査技師等
この中でも特に中心となるのが「児童福祉司」と「児童相談員」です。
「児童相談所」と「児童養護施設」との違いはなにか?
どちらも児童福祉法で定められた施設ではありますが、その役割が異なります。
まず「児童相談所」ですが、上述でもお伝えした通り「指導・措置」「家庭や子どもについての相談」「子どもの一時保護」が、主な役割となります。
対して「児童養護施設」の場合は、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を“児童相談所の判断で入所させて、養育する場所”となります。
また、児童養護施設で養育する子どもの年齢は、主に2歳~18歳となります。
0歳~2歳の乳幼児を預かる施設は「乳児院」となります。
つまり、さまざまな家庭の事情で”相談・指導・一時保護”などを行うのが「児童相談所」であり、その後(必要であると判断された場合に)子どもの養育を担当するのが「乳児院」「児童養護施設」となるのです。
さらに、もう一つ両者では異なる点があります。
それは、“運営元”です。
児童相談所の場合、都道府県もしくは政令市などの公立の機関が運営することとなります。
つまり、児童相談所で働く職員は「地方公務員」となるのです。
対して児童養護施設(乳児院)の場合は、社会福祉法人などの民間団体が運営していることがあります。
そのため、こちらの職員は「団体職員」つまり公務員ではないということになります。
ただし、自治体が運営する児童養護施設などもあるため、そこで働く職員の場合は「公務員」となります。
現状の「課題」について
ここまでにご紹介した通り、児童相談所の役割は「子どもの権利を守り、子ども家族の援助を行うこと」にあります。
ただ、児童相談所で働く職員も「人」であり、できることには限界があります。
施設の運営をする上で、現在課題とされているのは、主に以下の3つが挙げられます。
②「職員の過重な負担」
③「人材育成」
まず①ですが、児童相談所の役割は非常に広範囲に渡ります。
もちろん、職員によって受け持つ仕事は異なりますし、それぞれで職員に求められる専門性は大きく異なります。
ただ、「職員の役割をどのように分担するのか」という点が若干曖昧になっている場合もあり、また「専門的な担い手の確保等に課題があるのではないか」という問題も浮かび上がっています。
それに加えて、②の問題もあります。
現在、児童福祉司1人で多数の案件を抱えている児童相談所が多く、多いところでは児童福祉司1人で100件ほどの案件を抱えている場合もあるのです。
英国の場合は、1人で30件を限度としているため、比較するとどれだけ多くの案件を抱えているかがよく分かることでしょう。
現実的に考えても、1人の児童福祉司が抱えられるのは子ども数人から数十人が限界です。
残念ながら、案件を抱えれば抱えるほど、否が応でも優先順位をつけて対応をしていくしか対処の術はありません。
そうなると、緊急度の高い案件から対応していくこととなり、緊急度が低いと判断されたケースが後回しになってしまうこともあり得るのです。
ただ、国も現状は理解しており、2019年3月には「児童虐待防止対策の抜本的強化について」という点で今後の対策にも動いています。
その中の一つに、「児童福祉司を2,000人増員する」というものがあります。
ここで問題になってくるのが、③です。
児童相談所は、子どもたちの人生に大きな影響を及ぼす場所となります。
ただ“人を増やせば良い”という単純なものではないのです。
そのため、採用方法や育成方法などを工夫し、質を下げずに人員を増やす体制づくりが求められることとなるのです。
児童相談所は、子どもの福祉のための大切な機関です。
確かに、子育ては家庭がその責任を負うものではありますが、家庭の事情はさまざまに異なります。
そんな時に一助となるのが、児童相談所なのです。
とはいえ、頼りたくてもきちんと機能していないのでは、頼りようがありません。
児童相談所においても課題はさまざまに存在しますが、現場の声にしっかりと耳を傾け、子どもたちのためにも早急により良い改善が行われることを願っています。
まとめ
子どもや育児についての問題……特に児童虐待問題が増加している近年では、児童相談所の需要はますます高まっています。
児童相談窓口は、子育てに関する保護者のさまざまな悩みや不安に対応する施設です。
もし、何かしらの悩みや不安を抱えていることがあれば、早めに児童相談窓口に相談してみることをオススメします。
また、児童相談所には「189」という3桁のダイヤルで簡単に相談・通報することが可能です。
仮にこのダイヤルのことを知っている人でも、「通報していいのか……」と足踏みしてしまうこともあるかもしれません。
しかし、児童相談所の対応はあくまで、“児童の安全確認”を行うものであり、“児童虐待を疑う調査”ではありません。
「最近子どもがよく泣いているな」「罵声が聞こえるな」と感じることがあれば、勇気をもって「189」に通報してみてください。
もしかしたら、その一本の電話で幼い子供の命を救うことができるかもしれません。