超高齢化社会を迎えている現代日本では、「フレイル」が大きな社会問題になりつつあります。
ただ、この状態や兆候を知っておくことで、予測・予防がしやすくなります。
また、似た症状に「サルコペニア」というものが挙げられます。
両者の違いはなんなのか。
具体的にどのような症状を指しているのか。
どうすれば予防・対策することができるのか。
今回は、こういった点について、解説していきたいと思います。
「フレイル」とはなにか?
分かりやすくいうと、「加齢によって心身が衰えた状態」のことを指しています。
これは「フレイルティー(Frailty)」の略であり、「虚弱」や「老衰」を意味しています。
年齢を重ねると、心身の機能・活力が低下し、家に閉じこもりがちになること+さまざまな病気にも罹患しやすくなってしまいます。
それを放置しておけば、症状は悪化し、誰かの助け(=介護)なくしては生活できなくなってしまうのです。
しかし、適切な介入・支援を行うことによって、生活機能は維持もしくは向上できる可能性もあります。
つまり、フレイルとは「健常から要介護へ移行する中間の段階」を意味しているのです。
ちなみに、“心身が衰えた状態”ということで、これは身体的な問題だけを捉えたものではありません。
◆独居や経済的困窮などの「社会的問題」
なども含まれており、非常に多面性のある概念となります。
ただし、「適切な介入・支援を行うことによって、生活機能は維持もしくは向上できる可能性もある」ということから、適切に支援を受けることで健常な状態に戻ることができる時期でもあります。
そのため、フレイルの時期に「どれだけ適切なサポートを行うことができるか?」が、非常に重要となってくるのです。
フレイルが起こる「原因」とは?
一般的に、「加齢」によって起こる現象であり、高齢者に陥りやすい症状といえます。
ただし、固有の原因が明確に定まっているわけではなく、「加齢に伴い、さまざまな要因が重なり合う」ことで引き起こされるものといわれています。
要因を大別すると、以下のようになります。
◆「精神・心理的」要因
◆「社会的」要因
まず、年齢を重ねると、否が応でも身体能力や認知機能が低下してしまいます。
ストレス耐性なども低くなるため、何かしらの問題(ダメージ)があった場合、回復するにも時間がかかります。
また、免疫や身体能力が弱まるということは、それだけ“病気に罹患しやすくなる”ということです。
もし病気になり、通院もしくは入院することになれば、それだけ動く機会も減ってさらに筋肉量が落ち、精神的にもストレスとなるはずです。
加えて、仕事や家庭などの現役時代が終わり家にいる時間が長くなると、社会との関わりが一気に減ってしまい、家に閉じこもりがちになってしまう高齢者も少なくありません。
他人とコミュニケーションを取る機会が減ってしまうことで、孤立したり孤食になってしまい“活力”を失ってしまう可能性もあり得るのです。
こうした「身体的」「精神・心理的」「社会的」な要因がさまざまに重なり合って、フレイルになってしまう恐れがあるのです。
さらに、この負のサイクルを放置していると、より虚弱な状態に陥らせ、フレイルから要介護状態へと移行させてしまいます。
だからこそ、周囲の人が適切なサポートを行う必要があるのです。
「サルコぺニア」とはなにか?
サルコペニアというのは、「筋肉」と「喪失」を意味するギリシャ語を組み合わせた造語となります。
これは、「筋肉が減り、体の機能が低下した状態」のことを指しています。
握力が低下しているか(男性26㎏未満、女性18㎏未満)、または歩く速度が低下していて(0.8m/秒以下)、検査で筋肉量が基準より減少していることが認められると、サルコペニアと診断されます。
こちらも、加齢が主な要因であり、一見すると「フレイル」と似ているように感じるかもしれません。
しかし、両者には若干の違いがあります。
◆「フレイル」 :身体的、精神・心理的、社会的など、さまざまな要因から心身が衰えた状態を指す
要するに、「フレイル」の方が「サルコペニア」よりも広い範囲を含む概念であるということです。
フレイルの人はサルコペニアを合併することも多く、サルコペニアがフレイルの引き金にもなりかねないのです。
どうすれば、フレイルを「予防」できるのか?
ここまでにお伝えした通り、フレイルに陥ってしまうと、日常生活に支障をきたすさまざまな障害が起こってしまいます。
しかし、これは予防・対策することができます。
そのためには、以下の点に気を配ることが大切です。
◆「食事をしっかりと撮る」
◆「病気の対策を行う」
◆「積極的に社会とのつながりを持つ」
順に補足を加えていきます。
「体を動かす習慣をつくる」
日常生活の行動に、少し運動を取り入れたり、歩く時間や距離を延ばすなどして、体を動かす習慣を作ってみてください。
確かに、加齢に伴って筋力や筋肉量は衰えてしまいます。
動くことすら億劫になってしまう人もいるかもしれません。
しかし、そのままの状態を放置しておけば、筋力や筋肉量はどんどん低下し、フレイルだけでなく健康寿命を縮める要因にもなりかねません。
適切に栄養を摂取することはもちろん、適度な運動を加えることで、筋肉の衰えを軽減することができます。
ハードな運動を取り入れなくても大丈夫です。
長く継続できるよう、適度に体を動かす習慣を身に着けてみてください。
「食事をしっかりと撮る」
低栄養は、フレイルを引き起こす最大の要因となります。
高齢になると、食が細くなってしまったり、さっぱりしたものばかりを食べて、体を維持するために必要な栄養素が不足しがちになります。
特に、一人暮らしの高齢者は、食事の品数が減り・食べる食材も偏り・食欲自体が低下しがちで、低栄養状態に陥りやすくなってしまいます。
また、継続的に体を動かすためにも、栄養はしっかりと摂取しておかなくてはいけません。
仮に食事の品数が減ったとしても、筋肉量を維持できるように、食材の偏りがない食事を摂取できるように意識することが大切なのです。
加えてもう一つ、「口腔ケア」にも注意を払っておきましょう。
確かに、加齢とともに噛む力や飲み込む力は低下してしまいます。
しかし、歯を大切にすることで、その低下を和らげることはできるのです。
もちろん、歯を大切にすることで防げる病気だってたくさんあります。
歯の健康を保つことは、適切な栄養を摂取することはもちろん、「食事を楽しむ」上でも非常に重要な要素となります。
さらに、噛むことで顎の力を保ち、脳に刺激を送ることもできます。
つまり、認知機能を維持する上でも重要な役割を果たすこととなるのです。
「病気の対策を行う」
持病を持っている方であれば、その症状を悪化させないように対処をしっかりと行うことです。
年齢を重ねるごとに、大なり小なり持病を抱えてしまうのは仕方のないことではあります。
しかし、その病気としっかりと向き合い・コントロールすることで、“病状を悪化させない=心身の健康を守ること”につながります。
医師や薬剤師ともうまく連携して、現在の状態を維持・継続できるように工夫してみてください。
そしてもう一つ。
高齢者は免疫力が低下していることが多く、インフルエンザや肺炎などの病気にかかやすいといわれています。
つまり、感染症を防ぐための対応も必要となるのです。
場合によっては入院を強いられることもあり、そうなれば生活の自由が大きく制限されることとなります。
◆基本的な手洗い・うがいなどの清潔保持を行う
◆インフルエンザワクチンなどを接種する
◆誤嚥性肺炎による肺炎を防ぐため、しっかりと口腔ケアをする
こういった点に注意し、感染症をできる限り予防できるよう意識してみてください。
「積極的に社会とのつながりを持つ」
高齢になることで、社会的地位の変化や家族構成の変化が起こった結果、社会とのつながりを失ってしまうことがあります。
また、家族や友人を喪失することで、気力や活力が失われてしまうこともあるかもしれません。
“社会とのつながりが希薄になる=コミュニティが薄くなる”と、外出する機会や気力が失われてしまい、フレイルに陥りやすくなってしまいます。
そのため、できる限り「社会とのつながりを持つ」ことが重要となります。
◆地域のボランティアに参加する
それが難しいと感じるならば、散歩をしてご近所の方と挨拶を交わすなどでも良いです。
大切なのは、「誰かとコミュニケーションを取る」ことです。
人との関わりを持ち続けることで、フレイルだけでなく認知症の予防にもつながることとなります。
ちなみに、コミュニケーションの取り方はもちろん人それぞれではありますが、オススメとして「誰かと一緒にご飯を食べる」のが良いとされています。
誰かと食事をする=「コミュニケーションが取れる」「楽しく食べられ食欲が高まる」「多様な食材を食べられて低栄養になることを避けられる」といったさまざまなメリットが得られます。
老若男女を問わず、食事とは一人で食べると味気なく感じるものです。
誰かと一緒に食事を摂ることで、人は幸福感を得ることができます。
ぜひ、実践してみてください。
まとめ
フレイルは、「健常から要介護へ移行する中間の段階」を意味しており、早い段階から対策を行うことで比較的簡単にその状態から抜け出すことができます。
ただ、フレイルかどうかを自身で気付けない高齢者も多いので、家族や友人など周囲の人が気付いてあげることも重要です。
陥りやすい要因は多様に存在し、それぞれで予防・対策を行うことも十分に可能です。
そのため、フレイルを進行させないために、自他ともに日常的な配慮を行っていくことが大切になってくるかと思います。