家族などの介護をしている人に起こりうる可能性がある、「介護疲れ」。
そして、介護疲れを深刻化させた際に発症する恐れがある、「介護うつ」。
介護うつの発症は、介護をする人にとってはもちろん、介護を受ける人にとってもつらい状況を生み出しかねません。
介護うつとは、どういう人に発症しやすいのでしょうか。
そして、もし仮に発症してしまった場合、どのように対処すればいいのでしょうか。
今回は、この症状について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
「介護うつ」とはなにか?
まず、「介護疲れ」というのは、「介護を行うことにより身体的・精神的な負担を抱え、疲労すること」をいいます。
この詳細については、以下記事を参照ください。
そして「介護うつ」は、介護疲れが深刻化した際に発症する可能性があり、「介護疲れやストレスが原因でうつ病を発症する」ことを指しています。
介護によって身体的・肉体的・経済的な負担が積み重なって、睡眠や休養が十分に取れない状態が続くと、いずれ脳の処理能力がパンクしてしまいます。
その状態を放置しておくと、脳のエネルギーが不足して意欲や判断力が低下し、いずれ元気に動けなくなってしまいます。
これが、「介護うつ」なのです。
うつ病は誰にでも起こりうる可能性がある“病気”であり、気の持ちようでどうこうできる問題ではありません。
介護うつの「症状」について
初期症状として注意すべきポイント
うつ病は介護だけでなく、仕事や人間関係などさまざまな症状から発症する恐れがあり、実際に「うつ病」という言葉を耳にしたことは多いと思います。
「気持ちの持ちようでしょう?」「休めば治るでしょう?」そう感じる人もいるかもしれませんが、そんな簡単なものではありません。
◆ネガティブな思考に陥りやすく、何か良いことが起きても気分が晴れない
◆趣味や好きなことを楽しめない
ずっと気分が沈んだ状態になり、何をしていてもまったく気分が晴れないのです。
そして、この状況のもっとも気を付けなければいけない点は、「なかなか自覚症状が持てないこと」にあります。
自分でも気が付かないうちに、うつ病が進行しているケースもあるのです。
ただ、初期症状として自覚しやすい症状が二つあります。
一つは「食事」、そしてもう一つは「睡眠」です。
「食欲がない」「何も食べても美味しくない」「なかなか寝付けない」「途中で何度も目が覚める」「熟睡した感じがしない」
上記のような症状を自覚したときは、うつ病の可能性があります。
また、周囲の人が「いつもと様子が違うな……?」と感じたら、声をかけてあげることも大切かと思います。
早期発見するためには、症状やサインを理解しておくこと
介護うつ(というより”うつ病”)は、自覚症状がないうちに症状が進行し、悪化してしまいます。
気付いた時には時すでに遅しの可能性もあり、通院したり休職したりと生活にも大きな影響を及ぼすこともあるのです。
その苦しみを早期発見するためには、症状やサインをしっかりと理解しておく必要があります。
症状としては、以下が挙げられます。
②「睡眠障害」
③「疲労感」
④「焦燥感」
⑤「思考障害」
①②は上記で挙げたように初期症状として発症する可能性があるため、特に注意が必要です。
そして症状が悪化していくと、「無気力」「無表情」「神経質になる」「無関心」「消極的」といった点が見られます。
ここからさらに悪化していけば、頭が上手く働かず、作業効率や注意力が低下して思考障害が発生し、ネガティブな思考が進み自殺願望を抱いてしまう場合もあります。
「さすがに症状が悪化すれば、自分でも気が付くでしょう?」と考える人もいるかもしれませんが、うつ病を発症している人は“非常にネガティブ思考になっている”ため、自分の状態を客観的に見ることができなくなっているのです。
そのため、“自分でも気が付かない”という可能性があるのです。
そもそも、「休めば治る」「気の持ちよう」「病院に行くほどではない」と、うつ病であることを認めたくない人もいます。
しかし、この状態を放置しておくと大変に危険です。
そのため、できる限り早期に症状を自覚して、対処を打つ必要があるといえます。
介護うつにならないためにはどうすればいい?
介護うつにならないためにもっとも大切なことは、「介護の不安や虚しさなどのストレスを、一人で抱え込まないこと」です。
介護のすべてを一人で行うのは困難です。
「自分一人でしなければいけない」と思わず、介護の負担を分散したり、相談相手を作ったりすることが効果的です。
特に、相談相手を作ることは非常に重要です。
家族や友人に相談するのが難しいという場合でも、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所(ケアマネージャー)など、相談できる先は数多く存在します。
話を聞いてくれるだけでも気持ちが軽くなることもありますし、介護に関する何かしらのアドバイスをもらうこともできるかと思います。
後は、“ストレスを自覚する”や“休暇を取る”なども良いでしょう。
「自分はただ疲れているだけ。ちょっと休めば元に戻る」と思わず、できる限りしっかりとリフレッシュする時間を設けてあげることが大切です。
もし、家族や親戚などに介護を変わってもらえる人がいない場合は、介護施設(訪問介護・デイサービス・デイケア・ショートステイ)などを利用するのも良いと思います。
そして、それでも症状が緩和されない場合は、病院やクリニックを利用するのも一つの手段かと思います。
どういう人が介護うつになりやすいのか?
介護をしているからといって、すべての人が必ずしも介護うつを発症するわけではありません。
なりやすい人には特徴があり、例えば以下のような場合です。
◆「完璧主義な性格」
◆「真面目で几帳面な性格」
◆「身近に頼れる人がいない」
◆「経済的に不安がある」
順に、補足を加えていきたいと思います。
「責任感が強い」
責任感が強い方は、「どれだけ辛い状況であっても、一人で抱え込む傾向がある」といえます。
「自分の力でなんとかしなければ……」という考えが自分でも気づかないうちに自分を苦しめ、介護うつを発症する原因となってしまうのです。
責任感を持つことは大切なことではありますが、何もかもを一人で背負い込む必要はありません。
「完璧主義な性格」
完璧主義な人は、“自分に厳しい”ことに加え、“介護に対する理想やハードルを高く設定してしまう”傾向があります。
そして、思い通りに進められないと、自責の念が生まれ強いストレスを感じてしまうのです。
加えて、介護を完璧にこなそうとするあまり、自分自身のことを疎かにしがちな方も多いです。
特に、介護は介護者に対しての肉体的・精神的な負担が大きいため、すべてを完璧にこなそうとすると大きなストレスとなってしまいます。
完璧でなくていいのです。
“手を抜く”とはまた意味が異なりますが、介護者自身がすべてを背負い込む必要はありません。
「真面目で几帳面な性格」
完璧主義と似た傾向があり、真面目で几帳面な性格の人ほど“100点満点”を目指す傾向があります。
そして、介護が思い通りに進められないと、自分で自分を責めてしまうのです。
また、自分よりも介護を優先する人が多く、それによってストレスを感じやすく・心のバランスが取りづらくなってしまいます。
“真面目で几帳面=目の前のことに全力で取り組む”という人が多く、それはとても素晴らしいことですが、やはり言えることは「すべてを一人で背負い込む必要はない」です。
介護者だって人間です。
頑張り続けていれば、いつかは疲れ果ててしまいます。
肩の力を抜いて、できる限り休息を取れるように工夫してみてください。
「身近に頼れる人がいない」
ここまでに何度かお伝えしましたが、“介護を一人で抱え込む必要はありません”。
家族・知人・介護を仕事にしている人など、どんな人でも構いませんので「身近に頼れる人」を作っておくことはとても大切なことです。
身近に頼れる人がいないと、抱える負担が大きくなり、自分で自分を追い詰めてしまいます。
そして、結果的に「孤独感」を感じやすくなってしまいます。
孤独で何もかもを一人で抱え込んでしまうほどに、弱音を吐いたり・周囲に助けを求めたりすることができなくなってしまいます。
それが積もり積もって、介護うつに発展してしまう恐れがあるのです。
「経済的に不安がある」
経済的に不安があると、今後の生活に希望が持てないことに加え、常に先の不安を抱えたまま介護を続けていくことになります。
また、介護サービスの利用も難しい場合は、よりすべての介護を自分自身で背負わなくてはいけない状況に立たされてしまいます。
そうなると、余計にストレスや不安が蓄積されてしまい、結果として介護うつを発症してしまう恐れがあるのです。
ここまでにご紹介した内容は一例であり、これらが複合的に組み合わさって、ストレスや不安を蓄積させていく可能性もあります。
家庭状況はそれぞれで異なりますので、自身で解決の道を見つけていくしか方法がありません。
なんにせよ言えることは、“放置しておくと介護うつが発症する可能性が高まる”ということです。
一人で抱え込まず、できる限り誰かに相談をし、その上で解決方法を見つけ出してみてください。
もし介護うつになってしまったら、どうしたらいい?
介護うつ……というよりも「うつ病」は、心身ともに辛さを伴ううえに、完治するまでに時間を要する病気です。
そして、「休めば治る」「気の持ちよう」「病院に行くほどじゃない」と治療を後回しにしたり、自覚症状がないまま症状が進行するケースも多いため、症状が深刻化しやすいのも特徴なのです。
そのため、少しでも不安を感じたら、できるだけ早くに対処を打つのが得策かと思います。
まずは、「精神科・心療内科を受診する」ことをオススメします。
病院に行くことを拒む人もいますが、放置しておけばおくほどより深刻な状態となり、長期間苦しみや辛さを伴うこととなってしまいます。
「うつ病」はれっきとした“病気”だと考えてください。
「自分は大丈夫」と思うのではなく、医師による適切な診断と治療が必要不可欠なのです。
そのため、できるだけ早期に医療機関に受診することをオススメいたします。
そして、「周囲の理解を得て、助けを求める」のも大切です。
介護うつになりやすいのは、「1人ですべてを抱え込んでしまう」ことが多いです。
心身が疲弊しきってしまう前に周囲に助けを求め、今後の介護について見直す機会を作るようにしてください。
仕事と介護を両立している人は、「介護休業」を取得するのもいいかもしれません。
ちなみに、“周囲に助けを求める”というのは、家族だけに限った話ではありません(もちろん家族に相談することも大切です)。
中には「相談できる家族がいない……」という人もいるかもしれません。
その場合は、病院のカウンセリングで相談するのも一つの方法です。
方法は一つでありませんので、ぜひ自分に合った方法を模索してみてください。
まとめ
以上が、「介護うつ」に関するご紹介となります。
介護うつは、介護に携わる人であれば誰でも発症する可能性があります。
◆肉体的・精神的疲労
◆経済的負担
など、さまざまな要因があるため、できる限り自身の負担を軽減する方法を模索してみてください。
大切なのは、「一人で抱え込まない」「自分で自分を追い込まない」ことです。
また、「周囲との関わり」も非常に重要です。
家族に相談することはもちろん、介護サービスなどの利用も検討し、周囲と寄り添いながら一緒に介護生活を支えてみてください。
そして、もし精神的な不安を感じるようであれば、早期に専門医に相談し、介護うつの発症を防ぐもしくは治療してみてください。
(自身だけでなく、周囲の人が気付いてあげることも大切です)
うつの初期症状として判別しやすいのは、「食欲不振」と「睡眠障害」です。
「自分は大丈夫」と放置しておくと、症状はどんどん悪化していきますので、十分にご注意ください。