特に、看護師の新人教育で取り入れられることが多い、「プリセプター制度」。
最近では、介護業界でもこの新人教育制度を普及する動きが拡がっています。
これは、いったいどんな制度なのか。
一般的な新人教育と何が違うのか。
制度の役割や導入するメリット、教育者に求められるスキルについて、詳しくご紹介していきたいと思います。
「プリセプター制度」ってなに?
概要
これは、「先輩看護師が新人看護師に対して、マンツーマンで指導・教育・フォロー・ケアを行う制度」のことを指しています。
◆指導を受ける新人看護師:「プリセプティ」
上記のように呼称されます。
制度名は「プリセプターシップ」とも呼ばれており、新人看護師が臨床現場に立つ初期段階で活用することで高い効果を発揮することが期待されています。
(臨床=患者に接して診察・治療を行うこと)
また、冒頭でも記載した通り、近年は介護業界でもこの新人教育制度を普及する動きが拡がっています。
2010年4月から新人看護職員に対する臨床研修の実施が努力義務化されたため、さまざまな医療・介護施設でこの制度が採用されるようになったのです。
この新人教育を行う期間は、職場によって異なります。
ケースとしては、教育プログラムに合わせて、半年~1年くらいをかけて実施されることが多いとされています。
制度の「目的」について
看護師や介護士の仕事は、「思っていたのと違う」という、いわゆる「リアリティショック」を受けがちな職種です。
◆シフト制が思っていた以上にきつい
◆仕事内容と給与が割に合わない
◆人間関係に煩わしさを感じる
など、実力不足を痛感したり、技術以外の面で仕事へのモチベーションが低下したりといったケースが多いのです。
この制度の目的は、「リアリティショックを和らげつつ、業務に対する意欲を高め、早期離職を防ぐこと」にあります(技術面だけでなく、メンタル面もサポートする)。
明確な指導者を指定することによって、仕事や対人関係の悩みをきめ細やかにフォローするのです。
そうして、プリセプティの早期離職の防止・職場への定着を図ります。
制度を構成する「3つの手法」について
新人への研修としては、以下3つの手法が取られます。
→プリセプターや先輩職員が、職務を通して指導・育成する研修のこと
2.OFF-JT(Off the Job Training)
→職務現場での日常業務から一時的に離れて行う研修のこと。
(職場内の集合研修、外部研修やセミナーへの参加など)
3.SDS(Self Development System)
→職場内外での自主的な自己啓発活動の支援のこと。
(資格取得費用の免除や学習スペースの提供など)
「OJT研修」といえば、聞いたことがある人も、実際に研修を受けたことがある人も多いのではないでしょうか。
これは、「実践を通して、スキル修得を目指すための現場研修」のことを指しています。
修得した知識や技術をすぐに実践で活用できるというメリットがあり、医療・介護業界に限らず、さまざまな職場で取り入れられています。
ただ、OJTの難点は、「業務時間に行う時間的負担が大きい」や「指導者(プリセプター)によって指導する内容が差が出る」といった点が挙げられます。
それを補う方法として、「OFF-JT」……いわゆる「外部研修」があるのです。
プロの指導者が提供する研修を受けることで、普遍的かつ汎用的なスキルを得られるようになります。
もちろん、「SDS」も重要です。
看護業界も介護業界も、人材不足かつ多忙であることがほとんどで、思うように休みが取れない人も大勢います。
セミナーに参加したり・資格を取得してキャリアアップを目指したいが、休みが取れずなかなか時間を作れない。
そもそも、自費でセミナー参加や資格取得ができる経済的な余裕もない。
“意欲”はあっても“時間的・経済的な余裕がない”という人も大勢いるのです。
SDSは、特に上記のような人に効果的といえます。
「OJT」「OFF-JT」「SDS」、どれか一つに絞るのではなく、それぞれのメリットを上手く組み合わせて研修を行うことで、職員の成長を促進することができるのです。
制度の「種類」と「指導内容」について
勤務する職場によって内容が多少異なることもありますが、本制度は下記の3つに大別されることとなります。
②「プリセプターに加え、シニアプリセプターが付く」
③「プリセプターに加え、メンターが付く」
①が本制度の基本形であり、先輩と新人がともに業務を行いつつ、新人に対して“指導・教育・精神的なフォロー”を行っていきます。
②は、プリセプターに加えて支援・補佐役としてシニアプリセプターが付き、全体の指導・教育の進捗状況を監督します。
また職場によっては、「プリセプター→日常業務の指導・相談」「シニアプリセプター→実践的な技術指導」といったように、役割を分担することもあります。
③は、日常の業務や技術的な指導・教育をプリセプターが行い、精神的なフォローをメンターが行うというものです。
そして、「指導内容」についてですが、これは以下の4つを行うこととなります。
◆「看護・介護知識などの学習支援」
◆「技術習熟度の確認・評価」
◆「メンタル面のフォロー」
再度記載しますが、本制度は“スキルアップ”のためだけに行うものではありません。
大きな目的として、“早期離職の防止”と“職場への定着”があるのです。
どんな仕事でも同じことが言えますが、新人職員は慣れない環境の中で働くことに対して、精神的な負担や不安を抱えています。
そんな状況下で自分をサポートしてくれる人や相談できる人が身近にいないと、環境に適応できずに早期退職となってしまう可能性が高まってしまうのです。
そのため、スキル面だけでなくメンタル面もしっかりとバックアップし“職場の戦力”として定着させることが、本制度の大きな目的となるのです。
プリセプターに求められるものとはなにか?
必要とされる資格やスキルについて
まず、プリセプターとなるために、特別な資格やスキルが求められることはありません。
とはいえ、新人の“指導・教育・メンタル面のフォローをする”ということから、ある程度職務経験を有した職員が任命される傾向が高いといえます。
また、職場ごとに必須となる技術や知識は異なりますが、それぞれ一定の基準をクリアした職員を選ぶ場合がほとんどではあります。
そのため、職務経験が長いからといって、すべての職員がプリセプターに指名されるとは限りません。
尚、厚生労働省では「実地指導者」として、以下のような指導ができることが条件であると示しています。
◆後輩と良好にコミュニケーションがとれる
◆後輩がどのような状況にあるか見て、ともに問題解決を図れる
◆新人看護研修の個々のプログラムを作り上げることができる
◆後輩の臨床における実務の能力を適正に評価できる
このことから、「プリセプターに選ばれる=十分な人柄と指導能力を備えていると評価された証である」ともいえます。
抜擢されたことをチャンスと思い、新人教育と同時に、自身の実力向上も目指していくといいかと思います。
プリセプター自身の成長の機会でもある
制度の目的は、新人・後輩職員の教育のために設けられてはいますが、それを実施するプリセプターにも成長の機会を与えてくれます。
分かりやすく業務を教えるために仕事内容を見つめなおしてみたり、学んできたことを振り返ったりする機会も数多くあるはずです。
“人に教える”ということは、“自身の中に落とし込む(より理解する)”ことにつながります。
“知る”ことと“理解する”ことと“伝える”ことは、似ているようで違います。
例え、仕事内容を理解して自身が実践できたとしても、それを誰かに教えることとなれば、別のスキルが求められることとなるのです。
プリセプターとして教育を行うということは、「指導力」「コミュニケーション能力」「問題解決能力」など、自身のさまざまな実務能力の向上にも役立てることができるはずです。
学ぶべきことも多いので、せひ自身の成長のためにも役立ててみてください。
プリセプターになったら心がけておくべきこと
新人職員は、慣れない環境の中で、必死に仕事を覚えようと努力をしています。
プリセプターに任されることとなった場合、どういう点に気を付けて接していけばいいでしょうか。
挙げられる点としては、以下があります。
②新人がミスをしたら、しっかりとフォローしてあげる
③周りに相談したり助言を求めたりして、助け合って指導をする(一人で抱え込まないこと)
④自身も後輩と一緒にステップアップを図ろうという意欲を持つこと
特に大事なのは、①です。
人の成長は個々人によって異なり、伸びる早さも伸び悩むタイミングもそれぞれ違うのです。
人と比べず、自分たちのペースでじっくりと進めてみてください。
間違っても、「〇〇さんの方が覚えが早い」など、他の人と比較して“否定”してはいけません。
②ですが、ミスをした際に叱ることも時には必要ですが、ただ叱るだけでは人は成長しません。
下手をすれば、萎縮し、さらにミスを招きかねないので、適切にフォローしてあげることが重要です(ミスした時点で十分落ち込んでいる……)。
大切なのは、「同じ失敗を2度繰り返さないこと」です。
前向きに業務に取り組めるように、精神的な点も含めてフォローしてあげてください。
次に③ですが、プリセプターになったからといって、後輩の教育をすべて一人で背負い込まなくてはいけないわけではありません。
確かに、教育そのものはマンツーマンで行いますが、本来新人教育は現場の先輩たちみんなで行うものです。
先輩だからといって、すべてを一人で抱え込む必要はありません。
何かあれば周囲に声かけしたり、一人で解決できないことは相談したりして、“みんなで教育する”ということを意識しておくといいでしょう。
最後は④ですが、先輩だからといって、上から目線になってはいけません。
あくまで、“学ぶべきステージが違う”だけであって、“人に教える=自身にも成長のチャンスがある”ということなのです。
後輩を指導する際、自身もこれまでの業務を振り返りつつ、新たな気付きを得られるようにしていきましょう。
そうすれば、教育に関する自身のモチベーションを高めることにも役立てられると思います。
プリセプター制度の「メリット」「デメリット」について
プリセプティに対して教育・指導・支援することで、実力を底上げし・早期離職・職場への定着を期待できる。
プリセプターも、自身の成長の機会となる。
こう聞くと、良いこと尽くしで聞こえはいいかもしれません。
しかし、メリットがあればデメリットもあるのが世の常であり、この制度にもデメリットがあることをしっかりと理解しておかなくてはいけません。
プリセプティ・プリセプターの双方に、メリットもデメリットも存在します。
最後にこの項目にて、この点をご紹介しておきたいと思います。
プリセプティにとっての「メリット」「デメリット」について
まずは、プリセプティ側のご紹介です。
メリット・デメリットとしては、以下が挙げられます。
◆分からないことがあれば直接質問しやすい
◆技術を習得しやすい
◆実践時もサポートが入るため、精神的な負担が少ない
≪デメリット≫
◆教育担当者を選べないケースが多い
◆能力不足のプリセプターもいる
指導の基本は、先輩と後輩によるマンツーマンです。
そのため、付きっ切りで指導をしてもらえ、何かあればその場で質問・解決ができるため、技術も知識も身に付きやすいとされています。
また精神的なサポートもしてもらえるので、まさに“頼れる先輩”として、心強い存在になってくれるはずです。
ただ、人には“相性”というものがあります。
基本的に教育担当者は選べないことの方が多いので、相性が悪かったり、そもそも指導員としての能力が足りなかったりすると、逆に精神的な負担になりやすいというデメリットもあるのです。
この点は、実際に指導を受けてみないことには分からないので、注意しようにもどうすることもできません。
プリセプターにとっての「メリット」「デメリット」について
指導側にとっても、メリット・デメリットは存在します。
主な要素としては、以下が挙げられます。
◆自分が持つ技術や知識の再確認ができる
◆教えることで自分の能力向上も見込める
◆プリセプティが評価されると自分の評価も上がる
≪デメリット≫
◆通常業務以外の仕事が増え、負担が大きくなる
◆プリセプターへのサポート体制が整っていない場合がある
“指導者に選ばれる=新人を任せられると判断されている”という、組織から評価されているということを実感できることとなります。
また上記でもお伝えしたように、“人に教えること=自身の成長につながる”ことにもなるので、自身の知識や技術を高めるためにも役立てることができるはずです。
ただし、“新人を教育する=自身の作業量が増える”というデメリットもあります。
単純に指導するための時間が増えることとなりますし、指導計画を立てたり・評価を下すといった仕事も増えることとなるため、指導者側の負担が重くなることとなります。
特に、職場のサポート体制が不十分であれば、なおさらです。
また、“指導する”ということは、“責任を負う”ことでもあります。
そこまで重荷に感じることはありませんし、そもそも新人教育は職場全体で責任を持って行うことが前提ではあります。
しかし、責任感が強い人だと、どうしても精神的な負担が増大してしまう可能性があるのです(こういう点も、”成長の機会である”と考えるのも一つの方法ではありますが)。
人によっては、こういった点にも注意しておく必要があるかもしれません。
まとめ
以上が、「プリセプター制度」についてのご紹介となります。
マンツーマンで指導やフォローをする本制度は、新人職員の成長と定着化が期待できます。
特に未経験者にとっては、この制度を導入している法人の方が安心して働けるかもしれません。
ただし、メリットがあれば、当然デメリットも存在します。
それは、新人(プリセプティ)側だけでなく、先輩(プリセプター)側にとってもです。
どちらにとっても共通していえることは、“一人で問題を抱え込まないこと”です。
指導・教育・メンタルのフォローは、決して一人で行うものではありません。
新人はいろんな先輩を頼ってもいいのですし、先輩も周囲の人に助けを求めてもなんの問題もないのです。
教育は一緒に働いているみんなが手分けして行うものであり、プリセプターはあくまで“窓口”のような役割として考えておくといいかもしれません。
周囲の人たちと協力し合い、自身を含め、全員で成長できる機会を作り上げていきましょう。