脳は、人間のあらゆる活動をコントロールする「司令塔」の役割を果たしています。
呼吸や睡眠といった意識せずに行っている活動から、学ぶ・運動する・想像するといった高度な活動に至るまで、脳がそのすべてをコントロールしているのです。
しかし、年齢とともに脳の機能も少しずつ低下していきます。
これが「加齢による物忘れ」なのですが、これとは別に「認知症」という症状を引き起こす可能性があります。
両者の違いはなんなのか。
認知症が発症する原因とはなにか。
今回は、「認知症」について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
「認知症」ってなに?
概要
冒頭でも記載した通り、「脳」は人間の活動のほとんどをコントロールしている司令塔であり、それがうまく働かなければさまざまな活動がスムーズに進められなくなってしまいます。
「認知症」というのは、さまざまな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりして障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態のことを指しています。
ちなみに、認知症は“病名”ではなく“症状”です。
認知症を引き起こす原因疾患の種類は、100を超えるといわれています。
つまり、病名が決まっていない”症候群”であり、医学的には「まだ診断が決められず、原因もはっきりしていない状態」のことを指しています。
“原因がはっきりしていない”という点では、「風邪」にも同様のことがいえます。
風邪も、“病名”ではなく“症状”であり、原因がはっきり判断しきれていません。
病院などで渡される風邪薬などは、あくまで“症状を軽くしている(対症療法)”だけであり、その具体的な解決方法はまだハッキリしていないのです。
発症するとどうなるの?
なんらかの疾患により起こる「記憶障害」や「見当識障害」などの症状のことを、「認知症」といいます。
初期症状は、思考力や判断力の低下、物忘れなどです。
そして、認知症が進行すると、日常生活に必要な動作ができなくなっていきます。
この認知症の症状は、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。
前者は、脳の細胞が損壊を受けることで引き起こされる直接的な症状のことです。
◆見当識障害
◆遂行機能障害
◆失語・失行・失認識
などの症状があります。
一応、投薬治療によって進行を遅らせることはできるのですが、進行を止めることはできないとされています。
後者は、中核症状+本人の性格や周囲の環境などが影響して“二次的に引きこされる症状”のことを指しています。
◆行方不明
◆せん妄
◆幻覚
◆介護拒否
など、性格・環境・心理状態によって出現する可能性があります。
ただし、こちらは周囲の適切な対応やリハビリで改善する可能性もあります。
年齢を重ねるほどに発症する可能性は高まる
日本は、現在「超高齢化社会」に突入しており、高齢化の進展とともに認知症の人も増加しています。
年齢を重ねるほどに発症する可能性が高まり、今後も認知症の人は増え続けると予想されています。
ただし、“認知症=高齢者に発症するもの”ではなく、若者であっても認知症が発症する恐れはあります。
この65歳未満で発症する認知症のことは、「若年性認知症」と呼ばれています。
認知症は、誰にでも起こりうる可能性がある症状なのです。
認知症が発症する原因とは?
上述でもお伝えした通り、認知症は“病名”ではなく“症状”であり、原因となる疾患の種類は数多く存在します。
その数ある種類の中でも、“三大認知症”と呼ばれるものがあります。
それが、以下です。
◆「血管性認知症」
◆「レビー小体型認知症」
それぞれの特徴をご紹介していきましょう。
「アルツハイマー型認知症」とは?
認知症の原因疾患の多数を占めるもので、物忘れや同じことを何度も聞き返すなどの症状といった記憶障害からはじまり、身体機能の低下などを引き起こします。
また、行動・心理状態として、妄想や幻覚・夜間せん妄・行方不明などが起こることもあります。
ただし、詳細な原因はまだ明確に判明していません。
ただ、「アミロイドβ」というたんぱく質が脳に蓄積して神経細胞が減少し、脳が萎縮して起こると考えられています。
「血管性認知症」とは?
損傷部位によって症状に違いは見られますが、記憶障害や認知機能の低下などの症状が現れます。
これは、脳梗塞や脳出血などによって脳細胞が損傷を受け壊死し、その部分の機能が低下することで起こるものです。
原因によりますが、急に発症し、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら段階的に進行していきます。
また、認知機能に関連する症状が”まだら”にでるため、明確に理解している事柄と理解していない事柄が混在しており、“まだら認知症”と呼ばれることもあります。
「レビー小体型認知症」とは?
手の震えや転倒が増えるといった「パーキンソン病」のような症状が現れます。
また、「幻視」や、睡眠中に怒鳴ったり奇声をあげたりといった異常行動が発症する恐れもあります。
これは、脳に「レビー小体」と呼ばれるαシヌクレインというたんぱく質ができ、蓄積された場所の神経細胞を損壊することで起こります。
初期の記憶障害があまり目立たないため、“発見が遅れやすい”という特徴があります。
「前頭側頭型認知症」
ここまでにご紹介した三大認知症の次に発症しやすいのが、この「前頭側頭型認知症」です。
合わせて、解説しておきたいと思います。
これは、脳の「前頭葉」と「側頭葉」が病気の中心として進行していきます。
両者は、理性や感情などの人格的要素をコントロールする器官であり、これらがダメージを受けることによって、人格変化や自発性の低下・行動障害などの症状を発症してしまうのです(記憶障害よりも、人格変化の方が目立つ)。
初期症状は、意欲の低下や物忘れがあるものの目立ったトラブルがないため、「うつ病」などと間違われることが多いとされています。
ストレスとの関係性について
認知症の発症リスクといえば、「高血糖」や「高血圧」が有名です。
しかし、上記とは別に「ストレス」も原因の一つとなり得ます。
例えば、ストレスは“筋肉”をかたくし、“血行不良”を引き起こしてしまいます。
「血行不良になる=酸素や栄養が細胞に行き渡らなくなる」ということであり、脳の働きが低下してしまうのです。
また、ストレスは自律神経の働きを乱してしまう原因であり、「自律神経が乱れる=血流に悪い影響を与えてしまう」のです(血液の循環は自律神経の働きによって維持されているため)。
特に現代はストレスを感じる場面が非常に多く、副交感神経への切り替えがうまく行われないことが多いのです。
加えてもう一つ。
ストレスにより分泌される「コルチゾール」というホルモンの一種があります。
これが多い状態が続くと、アルツハイマー型認知症の原因物質と考えられる「アミロイドβ」というタンパク質の蓄積を引き起こしてしまうため、認知症のリスクが上がってしまうこととなります。
このように、ストレスも認知症を発症する原因となり得るため、十分な注意が必要なのです。
「認知症」と「老化による物忘れ」とは、なにが違うのか?
年齢を重ねると、多くの人が「あれ、なんだったかな……?」というように、人やものの名前などが思い出せなくなる「もの忘れ」が増えることがあります。
この「もの忘れ」と「認知症」は、似て非なるものです。
前者は、脳の生理的な“老化”で起こるもので、本人も自覚があります。
その程度は一部なものであり、ヒントがあれば思い出すことも可能です。
また、進行性はなく、日常生活に支障をきたすこともそうはありません。
しかし、後者は“脳の神経細胞の急激な破壊によって起こる”ものであり、高齢者にこそ発症しやすいものですが、どんな年代の方にも発症する可能性がある、いわゆる「病気」なのです。
物事全体がすっぽりと抜け落ちてしまい、ヒントを与えても思い出すことはできません。
また、進行性があり、いずれは日常生活にも支障をきたす恐れがあります。
まとめ
以上が、「認知症」についてのご紹介となります。
症状は、認知症の原因となる疾患によって異なってきます。
原因をしっかりと理解することで、よりよい認知症介護につながるのです。
また、「認知症」と「加齢による物忘れ」は、その意味合いがまったく異なります。
加えて、認知症とよく似た状態(うつ・せん妄など)や、「甲状腺機能低下症」など認知症の状態を引き起こす体の病気もいろいろとあるため、なにかあれば早期に適切な診断を受けることが大切かと思います。