歯の治療や予防を通して、身体全体の健康を守っている『歯科医師』という仕事。
『歯科医師過剰問題』として取り上げられるほどに、医師と医院の数が多くなっている現状ですが、今でも歯科医を目指すべく勉学に励んでいる人はたくさんいます。
- どうすれば歯科医師になれるのか?
- どんな学校に進学したらいいのか?
- 試験の合格率はどのくらいか?
上記のような点に加えて、就職を志す際に確認しておくべき『歯科医師国民健康保険制度』について、今回はお話していきたいと思います。
辿るべき道筋について
一般的な流れ
まず、歯科医師になるためには、以下の順序を踏んでいく必要があります。
②『歯科医師国家試験』に合格をする
③歯科医師資格(=免許)を取得する
④資格取得後に、研修施設の指定を受けた病院や診療所で、1年以上の臨床研修を行う
尚、④は必須事項であり、2006年4月から実施されることとなりました。
養成およびその後のスケジュールは、以下が分かりやすいかと思います。
そして、受験資格は上記①の課程を修めて卒業、もしくは卒業見込みの者に与えられます。
試験に合格できれば、歯科医籍に登録することで厚生労働大臣より免許状が送られ、開業医として独立することも可能となるのです。
他に受験資格を得る方法はないの?
歯科医師国家試験の受験資格ですが、上述以外の方法として、以下2つがあります。
・外国の歯科医学校卒業者もしくは歯科医師免許取得者で、一定の学力・技能の習得していると判断できる者
尚、上記の『歯科医師国家試験予備試験』の受験資格は、外国の医学校卒業者もしくは医師免許を得た上で、厚生労働大臣が認定した人が得ることができます。
医師とはどう違う?
教育年限は6年間と共通していますが、学部や教育内容がそもそも異なります(一部共通点も存在する)。
学部に関しては、「歯科医師⇒歯学部」「医師⇒医学部」を卒業することで、それぞれの職に就くことが可能となります。
教育内容については、基礎科目(解剖学・生理学・病理学など)は、同じ内容のものを学びます。
しかし、臨床科目では、それぞれの専門性に沿った科目を学んでいきます。
歯学部の場合、歯学の専門分野(歯科保存学・歯科補綴学・歯周病学・口腔外科学・歯科矯正学など)が中心となります。
ただし、内科・学科・眼科学などの医学部の科目も関連医学として学んでいくことにはなります。
試験について
試験の概要
歯科医師、そして歯科医師国家予備試験の試験概要は以下の通りです。
ちなみに、試験日および合格発表日ですが、第98回(2005年)までは、試験日⇒3月中旬・合格発表日⇒4月中旬に実施されていました。
しかし、冒頭でお話した歯科医師臨床研修が義務化されることとなったため、それに合わせて(円滑に進めるために)各日程が一か月近く早まることとなりました。
試験内容
それぞれの試験内容は、以下の通りです。
◆臨床上必要な歯科医学及び口腔衛生に関して、歯科医師として具有すべき知識及び技能
【歯科医師国家予備試験】
◆学説試験
・第1部試験:解剖学(組織学含む):生理学、薬理学、病理学、細菌学
・第2部試験:口腔外科学、保存学(保存修復学含む)、補綴学及び矯正学
◆実地試験
・口腔外科学、保存学(保存修復学含む)、補綴学、矯正学
肝心の合格率は……
歯科医師の合格率は、昔に比べて大きく減少しています。
近年の合格率は、65%前後であり、試験難度もやや難しく設定されています(この理由については別項目にて)。
厚生労働省で、合格率などのデータは閲覧することができますが、例えば2011年(104回)~2020年(113回)までの『受験者数』『合格者数』『合格率』をまとめて表にしてみると、以下のようになります。
特に、2016年は合格率の低さはもちろん、合格者数も初めて2000人を切る結果となってしまいました。
尚、上記の表は、新卒・既卒を含めた総数の数値です。
新卒者だけに絞ると、合格率が上昇します。
例えば、2020年(113回)に絞ってご紹介すると、以下の通りです。
・受験者数:1,995人
・合格者数:1,583人
・合格率:79.3%
学校別の合格率は……?
こちらも、厚生労働省にて詳細なデータが提示されています。
数が多いので、2020年(113回)に絞って、表にまとめてみました。
※厚生労働省による学校番号順に記載しております※
※新卒・既卒の総数となります※
参考:厚生労働省-第113回歯科医師国家試験の学校別合格者状況
最も合格率が高いのは、東京歯科大学の「96.4%」です。
東京歯科大学のホームページを見てみると、「20年連続、No.1」の合格率であることが確認できます。
現状の問題点
なぜ合格率は低下しているのか?
前述でご紹介した合格率の推移をご覧いただければ分かる通り、歯科医師の試験難度は昔に比べ大幅に高くなっています。
必修問題の総数が増加したり、計算問題・他選択肢形式の問題が出題されたり、法医学が導入されたりと、年々難易度は上昇しています。
これが、合格率を下げる原因となっているのですが……この背景は『歯科医師過剰問題』が影響しているのです。
歯科医師過剰問題とは?
名称の通りの意味ですが、これは歯科医師および歯科医院の数が大幅に増加し、需要と供給のバランスが成り立たなくなる社会問題のことを言います。
実は、歯科医院はコンビニの数よりも多いのです。
全国の歯科医師数は10万人を突破しており、歯科医師は開業医として自分の医院を構えることが多いため、医師の増加と共に医院の数も増えていきました。
この問題の発端は、1960年頃の「虫歯が社会問題」となり始めた頃まで遡ります。
なぜ、虫歯が社会問題化したのかというと、この頃の食文化が、粗食中心のものから欧米に近い食生活を取り入れるようになったからです(高度経済成長期)。
この当時は、歯科医師の数がまだまだ少なく、そもそも歯科医師を養成する大学自体が“国内で7校”しか存在しなかったのです(東京歯科大学・日本歯科大学・日本大学・大阪歯科大学・九州歯科大学・東京医科歯科大学・大阪大学)。
その後、国は歯学部の新設を推進し、養成学校の数が大幅に増加していくこととなります。
しかし、時代と共に医療技術は進化し続けていきました。それによって、虫歯の『治療』だけでなく『予防』の技術も大幅に向上していったのです。
おかげで、虫歯は激減。歯科疾患も、治療から予防中心の時代に変化していきます。
このことから、需要と供給のバランスがどんどん成り立たなくなってしまったのです。
数が多くなったのなら”制限”すればいいんじゃない?
その通りです。
だからこそ、国は歯学部の定員の削減を図ろうとしました。
しかし、大学側からすれば「定員を削減する=経営を悪化させる」自体を招く恐れがあります。
特に私立大学の場合は、受験料も重要な収入となります。
このことが原因で、定員の削減は(さほど)行われず、国の想定する事態に推移していません。
そこで次の手として動き出したのが「国家試験の合格基準を上げる」ことだったのです。
古くは、合格率が90%越えすることもあり「確認試験」と言われていたこともあるほどですが、現在は見る影もありません。
歯科医師国保とは?
概要
最後に、『歯科医師国保』……つまり『歯科医師国民健康保険制度』についてご紹介しておこうと思います。
社会保険には、様々な種類が存在し、歯科医師として就職する場合であっても、当然重要な要素です。
この歯科医師国保は、国民健康保険の一種であり、医院で働く従業員(歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科助手・受付など)はもちろんのこと、その家族までが加入できる医療保険制度となります。
ただ、この制度は、都道府県ごとに運営・管理する組合が複数存在します。そのため、開設する医院の場所によって、条件は大なり小なり異なります。
そして、対象となるのは以下の2つです。
・常時5人以上の従業員を雇用している個人診療所
どんなメリットがあるの?
まず、一般的な国民健康保険は、所得によって保険料が増減します。
しかし歯科医師国保の場合は、加入している組合によって金額の差異こそあれど、所得には影響されません(一部を除く)。
加えて、『保険事業』という福利厚生も用意されています。
主に、健康増進を促すもの(健康診断・予防接種・人間ドッグなど)が中心となりますが、中にはホテルの優待プランや温泉の割引などが受けられる組合もあります。
デメリットもあるんでしょ……?
まず、利用者としてのデメリットは、以下の2点です。
②勤め先は、保険料を負担する義務がない
②についてですが、通常の健康保険であれば、勤め先が保険料を半額負担することとなります。しかし、歯科技師国保の場合は、その義務がないのです。
もし勤務医として仕事を探している方がいれば、求人への応募の際に『歯科医師国保』と記載されているかを確認しましょう。
そして、記載があれば、保険料を負担してくれるのかどうかを確認しておくようにしましょう。
その他の注意点としては、下記が挙げられます。
・当国保は、4人までしか加入できない
特に後者は、勤め先によっては「自分で健康保険に入って下さい」と言われる可能性もあります。
この点も、就業前に必ず確認しておくようにしましょう。
結論……お得なの?
これについては、正直人それぞれかと思います。
・保険料の負担割合
・自分の扶養状況
上記のように状況によって内容が異なるため、得をする人もいれば、損をしてしまう人もいます。
これについては、求人に応募する際や面接時などに、加入している医療保険制度について質問をしてみるといいかと思います。
まとめ
ここまでにお話した通り、歯科医療の業界は厳しい現状にあります。
国家資格の難度の高さもそうですし、いざ免許を取れたとしても「働き先がない!」という可能性だってあるかもしれません。
ただ、では「歯医者という存在は今後無くなるのか?」と言われると、そんなことはありません。
『歯』そして『口内環境』は、人が食べ物や飲み物などを通して栄養を補充するために必ず必要とします。
それに、歯並びや噛み合わせが悪いと、身体全体へも悪影響を及ぼしてしまいます。
こういった点から、歯科医師は今後も必ず需要がある仕事です。
「数多くいる医師の中から、患者に選ばれる医師になるには?」これを考えて、自分なりの答えを見つけていくことが、今の歯科医師の人たちには必要なことなのかもしれません。