「超高齢化社会」に突入している現代では、高齢化が進み、要介護者の増加や介護期間の長期化などがみられるようになりました。
また、「老老介護」という言葉もあり、介護する側の家族も高齢化しているのが現状です。
このような状況を考慮し、“介護の負担を減らす”ために作られたのが「介護保険」という制度です。
◆保険料はいつから支払うものなのか
◆そもそも保険料は必ず支払わなければならないのか
◆どんなサービスが受けられるようになるのか
今回は、こういった点について、解説していきたいと思います。
「介護保険」ってなに?
概要
これは、「介護を必要とする方に費用を給付し、適切なサービスを受けられるようにサポートする保険制度」のことをいいます。
その目的は、「自立支援」や「介護する家族の負担軽減」のためです。
この制度は2000年4月からスタートしており、全国の自治体が運営主体となって、納められた保険料と税金で運営されています。
もともとは、市区町村などの自治体が主体となって行っていた「措置制度」というものがありました。
しかし、税金により成り立っていた制度のため、社会保障費の増加や財政状況が厳しくなったことから、各自治体の負担がどんどん増加していったのです。
そして、この状況を改善するために、1997年に「介護保険法」が制定され、その後2000年に本制度がスタートすることとなりました。
制度が生まれた「背景」について
この制度が生まれた理由は、“社会保障費の増加”や“財政状況が厳しくなった”ことに加えて、“家庭をめぐる状況が変化した”ことも含まれます。
高齢化によって高齢者が増加し、それに伴い“要介護者の増加”や“介護期間の長期化”がみられるようになったこと。
そして、“核家族化の進行”や“共働きの家庭が増えた”こと、さらに“介護する家族の高齢化”など、家庭状況にも大きな変化が訪れたのです。
これらが複合的に組み合わさり、結果として「自宅で高齢者を介護する」ことが難しくなってしまいました。
加えてもう一つ。
法律の整備が進んで、社会福祉法人や医療法人だけが行っていた介護事業に「民間企業」も参入できるようになりました。
これによって、“ビジネスとしての競争”によるサービスの質が向上し、より良い介護サービスを“利用者本位”で自由に選択できるようになったのです。
このように、少子高齢化や核家族化が進む現在の日本において、本制度は重要な社会保障の一つとなったとされています。
対象となるのは、どのような人なのか?
介護保険の対象者となるのは、以下の方々です。
◆第2号被保険者:市町村の住民のうち、40歳以上65歳未満の医療保険加入者
そして、受けられるサービスは本人の状態(要介護1~5か要支援1~2)によって異なります。
ちなみに、介護保険でサービスを受けるには、「自治体に申請して、要介護もしくは要支援認定を受ける必要がある」ため、念のためご注意ください。
「要介護」の認定を受けるには?
まず、「要介護」の認定を受けるには、“身体上または精神上の障害があるために、日常生活(入浴・排泄・食事など)に支障が生じていることが条件”となります。
もっと具体的にいうと、“日常生活の基本的な動作または一部について6か月間継続して常時介護が必要と見込まれる状態”です。
認定を受けるためには、以下の書類を必要とします。
●主治医意見書を依頼する医療機関などの名称・住所・医師名がわかるもの(診察券など)
●健康保険被保険者証(国保・社保・共済など) ※第2号被保険者のみ※
「要支援」というのは、“現時点では介護は必要ないが、一部支援が必要な状態”のことを指しています。
基本的な日常生活動作を、ほぼ自分で行うことは可能な状態です。
これは、以下の区分に分けられます。
◆「要支援2」:要介護認定等基準時間が32分以上50分未満またはこれに相当すると認められる状態
そして「要介護」というのは、“日常生活上の動作を自分で行うことが困難で、何らかの介護を要する状態”のこと指しています。
これは、以下の5つの区分に分けられます。
◆「要介護2」:要介護認定等基準時間が50分以上70分未満またはこれに相当すると認められる状態
◆「要介護3」:要介護認定等基準時間が70分以上90分未満またはこれに相当すると認められる状態
◆「要介護4」:要介護認定等基準時間が90分以上110分未満またはこれに相当すると認められる状態
◆「要介護5」:要介護認定等基準時間が110分以上またはこれに相当すると認められる状態
要支援1→2、要介護1→2→3→4→5と徐々に症状が重くなっていき、要介護5になると、介護なしで日常生活を送ることがほぼ不可能となってしまいます。
「介護保険証」ってなに?
これは、「介護保険に加入している被保険者に交付される保険証」のことです。
交付の対象者は以下のように被保険者の区分によって異なります。
◆第2号被保険者:特定16疾病により要介護認定等を受けた方
ただし、要注意点として、介護サービスを利用するには別途「要介護認定」などを受ける必要があり、介護保険証のみでサービスは利用できません。
尚、これには有効期限はありません。
もし仮に紛失してしまった場合は、市区町村の介護保険担当窓口で再交付の手続きを行う必要があります。
再発行を行うためには「再交付申請書」と「身分証明書」が必要で、もし被保険者自身が申請することが難しいのであれば、本人以外の方が代行することも可能です。
「公的介護保険」と「民間の介護保険」の違いについて
介護保険には、「公的」と「民間」の2種類が存在します。
「公的介護保険」=国などが定めたもので、40歳から支払うことが義務付けられています(介護保険制度に基づいている)。
対して「民間の介護保険」は、“公的な介護保険を補うこと”を目的に、民間の保険会社が提供している保険のことです。
こちらに加入するかどうかは、任意で決めることができます。
両者の主な違いをまとめると、以下のようになります。
【加入】
・40歳以上は自動的に加入
【給付対象】
・第1号被保険者は要介護度に応じて支給
・第2号被保険者は特定疾病の人にのみ支給
【保険料】
・第1号被保険者は市区町村単位で徴収
・第2号被保険者は医療保険の保険料と合算して徴収
【給付方法】
・現物給付(介護サービス)
≪民間介護保険≫
【加入】
・任意
【給付対象】
・被保険者に支給。給付条件や給付額は保険会社によって異なる
【保険料】
・各保険会社に支払う
【給付方法】
・現金
“強制”か“任意”かの違いもありますが、それ以外の最たる違いとして、公的介護保険が“現物支給(介護サービス)”であるのに対し、民間介護保険は“現金”が直接支給される点が挙げられるでしょうか。
老後の生活に不安がある人にとっては、民間介護保険を合わせて活用するのも一つの手段かと思います。
介護保険料の支払いは”強制”なの?
民間の方は任意で加入するかどうかを決めることができますが、公的介護保険は強制であり、介護保険法に基づき40歳から支払うことが国民に義務付けられています。
例えば、会社員や公務員の場合は給料から天引き、自営業者の場合は、国民健康保険料と合わせて納付されることとなります(被扶養配偶者は、原則として納付義務はありません)。
そして、65歳以上の第1号被保険者の場合は、“年金受給額”によって支払い方法が変わります。
◆18万円未満:普通徴収(口座振替や役所・コンビニなどでの支払い)
そして、40歳~64歳の第2号被保険者の場合は、“職業”によって支払い方法が分かれます。
◆自営業 :国民健康保険と併せて徴収
40歳以上であれば介護保険料の支払いは義務となりますが、年齢や職業など、自身の状況によって支払いの方法は変わることとなるのです。
介護保険で受けられる「介護サービス」について
上記の通り、「要介護」もしくは「要支援」に認定されると、指定されたサービスを介護保険で利用できるようになります。
大まかにまとめると、以下の5つです。
◆「地域密着型サービス」
◆「居宅介護支援」
◆「施設サービス」
◆「介護予防サービス」
順に補足を加えていきます。
「居宅サービス」
これは、“自宅に住みながら介護を受けることができるサービス”のことを指しています。
居宅サービスには実にさまざまな種類が存在し、大別すると以下の3つになります。
●「通所サービス」 :デイサービス(通所介護)・デイケア(通所リハビリ)
●「短期入所サービス」:ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)
他にも、「介護タクシー(介護保険タクシー)」と呼ばれる通院などの乗降介助のサービスを受けられたり、福祉用具の購入やレンタルにかかる費用を補助するサービスなどもあります。
「地域密着型サービス」
こちらは、介護が必要になった状態でも、“できる限り住み慣れた地域で生活を続けていけるように支援するサービス”のことを指しています。
例えば、以下のようなサービスが挙げられます。
●夜間対応型訪問介護
●地域密着型通所介護
●療養通所介護
●認知症対応型通所介護
●小規模多機能型居宅介護
●認知症対応型共同生活介護
●地域密着型特定施設入居者生活介護
●地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
●看護小規模多機能型居宅介護
ただし、原則としてお住いの市町村のサービスしか受けることができないという点には、注意が必要です。
「居宅介護支援」
こちらは、利用者が適切な介護サービスを利用できるように、「ケアプラン」と呼ばれる介護サービスにおける利用計画書を作成するサービスのことをいいます。
また、この仕事を専門に行うスタッフのことを、「ケアマネージャー(介護支援専門員)」といいます。
上記でもご紹介した通り、介護サービスには実にさまざまな種類が存在します。
そんな中で、利用者本人や家族の希望を伺いつつ、適切なサービスを適切に利用できるようにするのがケアマネージャーの仕事です。
ちなみに、ケアプランが作成された後も、「計画に基づいてサービスが実施されているか?」「より良い介護サービスを提供するにはどうしたらいいか?」などを考え、各種介護サービス提供事業者との連絡・調整役なども行ってくれます。
「施設サービス」
これは、「介護保険施設」へ入居することをいいます。
●介護老人保健施設
●介護療養型医療施設
●介護医療院
上記が、介護保険施設に分類されます。
「介護予防サービス」
ここまでにご紹介した内容はすべて「要介護認定」された方が利用できるサービスです。
そして、介護予防サービスは、「要支援認定」された方が利用できるサービスとなります。
その目的は、“高齢者を介護の必要のない自立した状態まで回復させること”です。
例えば、施設に通ってのリハビリを行ったり、ホームヘルパーの訪問サービスを利用したり。
また、自宅に手すりやスロープを取り付けて、生活に支障が出ないように住宅改修する工事にも介護保険を利用することができます。
ちなみに、上記で「地域密着型サービス」についてご紹介しましたが、介護予防サービスにも地域に密着したものが存在します。
「民間施設」でも介護保険サービスが利用できる場合もある
介護保険サービスは、民間が運営しているところでも利用できる場合があります。
それは、民間施設が「特定施設入居者生活介護」の指定を受けている場合です。
該当するのは、「介護付き有料老人ホーム」や一部の「サービス付き高齢者向け住宅」、「軽費老人ホーム」などが挙げられます。
尚、有料老人ホームで“介護付き”と名乗れるのは、上記の指定を受けている施設のみです。
それ以外は、“住宅型”や“健康型”に分類されることとなります。
介護保険サービスを受ける際の「注意点」について
介護保険サービスを利用する際には、サービスごとに利用料が発生します。
その中で、注意しておくべきことが2つあります。
まず一つは、「自己負担額は収入によって変わる」ということです。
利用料の自己負担額は、65歳以上の利用者の場合、収入に応じて1~3割負担の3段階に分けられることとなります。
(40歳~64歳の第二号被保険者は、収入に関わらず1割負担となる)
自己負担額は、介護負担割合証にて確認ができるので、記載してある内容を確認してみてください。
そしてもう一つは、「利用限度額が設定されている」という点です。
在宅介護サービス・居住系サービス・グループホーム利用時には、要介護度によって利用の上限額が設定されており、上限額を超えて利用する場合は全額自己負担となってしまいます。
利用内容によっては、介護費用が高額になる可能性もありますので、念のためご注意ください。
尚、介護保険施設に入所する場合は、要介護度別に施設サービス費が設定されているため、利用限度額の設定はありません。
まとめ
以上が、「介護保険制度」についてのご紹介となります。
時代や少子高齢化に応じて、介護保険サービスの内容や目的も変化していきます。
そして、今後も時代やニーズに合わせて変化していくことでしょう。
現代は、家族だけで介護をすることは難しく、介護者の負担も相当に大きくなります。
介護保険を上手く利用することで、少しでも負担を減らすことができるはずです。
ぜひ、利用者とその家族が本人らしい日常生活を送れるように活用してみてください。