近年、『健康』のニーズが非常に高まっており、現代社会では数多くの健康に関する商品が販売・様々な取り組みが行われています。
それは、私生活だけでなく、仕事においても同様です。
皆さんは、『健康経営』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
長時間労働の常態化に加え、低賃金・低待遇などの過酷な労働環境(他にも、パワハラやセクハラなど様々)によって、うつ病などの精神疾患……果ては過労死や自殺などの問題が引き起こされ、社会問題にもなっています。
本来、仕事というのは、自身の生活を豊かにしていくために行うものであり、「健康で、元気に働ける企業」が企業としての当たり前の姿です。
しかし、現代の日本はその当たり前の環境が実現しにくい世の中であり、その現状を変えるために用意された手段の一つが『健康経営』なのです。
今回は、この健康経営について、詳しくお話していきたいと思います。
そもそも『健康な状態』とは何か?
そもそも『健康』とは、“心身ともに”健やかな状態であることをいいます。
また、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態を指すことを『健康』といい、決して「病気あるいは虚弱でない=健康な状態」という訳ではありません。
特に現代は、ストレス社会と言われており、精神的なストレスにより心身が疲弊してしまう人が大勢います。
精神の疲弊が続けば、いずれ身体にも異常をきたす恐れがあります。
それを未然に防ぐために、食生活を改善したり・運動をしたり・趣味などの好きなことに没頭したり・十分な睡眠をとったり……と、心身ともにリフレッシュする必要があるのです。
しかし、冒頭でもお伝えしたように、近年は『長時間労働の常態化』という点が特に問題視されており、これにより十分なリフレッシュを取れず、ストレスを溜め込んでしまうことも少なくありません。
この点について、近年より注目を集めているのが『健康経営』であり、「健康で元気に働ける企業」を実現できる世の中にするため、政府も推進している施策の一つなのです。
『健康経営』とはどんな施策なのか?
概要
『健康経営』のことを端的に表現するのであれば、これは「企業が、従業員の健康を非常に重要視すること」です。
ただし、それは「休みはしっかりとりましょう」「残業せずに定時で帰りましょう」「年に1回、健康診断は必ず受けましょう」と言った、表面的・最低限の施策だけを行っていればいいという訳ではありません。
経済的な視点で捉え、具体的に、そして戦略的に実践することが求められます。
実際問題、定時で帰宅させたとしても自宅で仕事をする(せざるを得ない)人や、休みの日にも仕事に取り組む人も大勢います。
健康診断を受けたとしても、その結果に対して会社側が何もしなければ「ただ健康診断を受けただけ」であり、自分自身で何かしらの改善を行っていくしかありません(もちろん会社側だけの問題ではない場合もあるが……)。
日本には数多くの企業が存在します。
その中には、“ブラック企業”と呼ばれる過酷な労働環境の中で仕事をさせる企業もあれば、“ホワイト企業”と呼ばれる従業員の健康を考えた上で事業に取り組む会社も存在するのです。
しかし、悪い噂に対して、良い噂というのは中々に世間に広まることがありません(良い行いをしている人は、自分の行いをわざわざ公言しないため)。
そこで、優良な健康経営を行っている企業を『見える化』することで、「〇〇の企業は優良な会社なんだ」と(様々な観点から)社会的評価を受けることができるようになったのです。
加えて、経済産業省では下記2点も推奨しています。
- 健康経営銘柄
- 健康経営優良法人認定制度
事項から、それぞれの詳細をご紹介していきたいと思います。
健康経営銘柄
平成26年度から創設された『優良経営銘柄』は、端的にいうと「社員の健康を考え、具体的に実践できている優良企業」であることの証明となります。
これは、東京証券取引所の上場企業33業種から選定されます(基本的に、1業種につき1企業が選定される)。
経済産業省と東京証券取引所が共同で選定しており、選ばれた会社は「従業員を大切にしている企業」として、世間的に広く認知される(アピールできる)こととなります。
健康経営優良法人認定制度
『健康経営優良法人認定制度』は、平成28年度に創設されました。
これも『健康経営銘柄』と同じく、「従業員の健康を考え、具体的施策を実践している優良企業」であることを認定する制度です。
この2つの大きな違いは、選定対象にあります。
『健康経営銘柄』の選定対象が上場企業だったのに対し、『健康経営優良法人認定制度』は上場していない企業も選定の対象となるのです。
こちらに認定された企業も、当然『優良企業』として、世間的に広く認知・アピールできることとなります。
尚、この制度には、規模の大きな法人を対象とした『大規模法人部門』と、中小規模法人を対象とした『中小規模法人部門』の2つの部門が存在します。
この大規模法人部門の中でも、特にレベルの高い上位500社は『ホワイト500』と認定されます。
そして、中小規模法人においては、特に優れた取り組みを行っている会社は『ブライト500』として認定されます。
この『ブライト500』は、上記に加え、地域において、健康経営についての発信を行っていることも条件となっています。
実は、それぞれで『役割』が異なる
ご紹介してきた通り、『健康経営銘柄』『健康経営有料法人(大規模法人部門 / 中小規模法人部門)』と、規模によって認定される名称が異なります。
「結局は、健康法人に積極的に取り組んでいる優良法人を決めるだけでしょう?なぜ、部門を分ける必要があるの?」と疑問を感じた方もいらっしゃるかもしれません。
その疑問はもっともであり、優良法人を決めるだけであれば、部門を分ける必要性はさほどありません。
これを行う理由は、それぞれで求められる役割が異なるからです。
- 健康経営銘柄
健康経営の効果が、いかに生産的+企業価値に効果があるかを分析し、積極的に発信していく役割がある。
- 大規模法人部門
グループ企業全体、および取引先・地域の関係企業・顧客・従業員の家族などに、健康経営の考え方を普及拡大していくという役割がある。
(その中で、特にモデルケースとなるべく上位500社を『ホワイト500』に認定している)
- 小規模法人部門
自身の会社の健康課題に合う取り組みを実践することで、事例の発信者として、地域における健康経営を促進する役割がある。
(その中で、特にモデルケースとなるべく上位500社を『ブライト500』に認定している)
やはり、企業規模が大きい会社であるほど、世間に与える影響は大きくなります。
とはいえ、大企業だけでは「自分の職場には関係のない話だ……」と、その存在を自分事として受け入れられない場合もあります。
- 健康経営銘柄に選定された企業が『アンバサダー』として実際に得た効果を広く発信し
- 大規模法人が『トップランナー』として、グループや地域に影響を及ぼし
- 中小規模法人が『各地域に住まう一人ひとり』にその効果を浸透させていく……
こうすることで、社会全体の健康投資を増大させることが可能となるのです。
どうすれば『優良法人』に認定されるのか?
選定には以下の基準をクリアする必要がある
まず、前述でご紹介した優良法人に選ばれるためには、以下の3つをクリアする必要があります。
- 健康経営度調査に回答した企業の、“上位20%”に入ること
- 健康経営の必須項目を全て満たすこと(法令違反の有無や社内の体制づくりなど)
- ROE(自己資本利益率)の直近3年間の平均が0%以上であること
上記3つの条件を全て満たした企業の中から、(その業種内で)もっとも健康経営の度合いが高い企業が選出されることとなります。
ちなみに、上述でもお伝えした通り、認定されるのは1業種につき1社が基本です。
そして、もし業種内で基準をクリアする企業が存在しない場合は、その業種において『非選定・該当なし』という扱いになってしまいます。
健康経営に取り組む企業は、年々増加している
『健康経営』への取り組みは、会社で働く従業員にとっても、企業にとってもメリットがあります(メリットについては後述にて)。
そのため、年々注目度が増しており、これからも健康経営に関するニーズは増加していくものと考えられています。
下の画像は、経済産業省が実施している、『健康経営度調査』の回答企業数です。
これは、各企業の取り組み状況や、その経年変化を分析することを目的した調査です(調査の項目数は70個ものボリュームがある)。
結果はご覧の通り、年々そのニーズは増加傾向にあります。
特に、平成30年度は1800社もの法人が調査への回答を行っており、恐らく今後も増加していくものと見られます。
回答項目が非常に多く、決して片手間でできる作業ではないにも関わらずの回答数です。
実は、この調査は健康経営銘柄の選定にも使用されています。
加えて、「必要性は感じるが、取り組みの方法が分からない」「何から始めればいいのだろう?」といった悩みを持つ企業に対しての、ガイドラインとしての活用方法もあります。
そのため、必要性を感じている企業にとっては、時間を割いてでも回答していくべき調査と言えるでしょう。
具体的にどういう取り組みをすればいいの?
結論から言うと、「具体的な取り組み方法は会社によって異なる」です。
例え同じ業種であったとしても、仕事内容・福利厚生・従業員の悩みや取り組むべき課題は、会社によって千差万別なのです。
他企業の取り組みを見て、『参考にできること』はあったとしても、『全く同じことをする』というのは、物理的に不可能です。
そのため、「他企業がどういう取り組みをしているのか?」を参考にしながら、自社内の課題を調査・それに合わせた施策を実践。その結果を確認しつつ、試行錯誤を繰り返していく……これがベストなのではないかと思います。
政府も推進している施策であるため、前述でご紹介した健康経営度調査など、参考にする情報を入手するのは比較的容易です。
後は、それをどう自分の会社に落とし込んでいくか……かと思います。
尚、参考までに、以下に取り組みの事例を簡単にご紹介しておこうと思います。
- 運動・ストレッチなど、体を動かす時間を作る
- メンタルヘルス研修などの、健康に関する研修やセミナーを開催する
- 検診制度の見直しを行い、個別検診などで食事や運動の指導をする
- 仕事内容・勤務時間・休日・有給消化率などを見直す(具体的に改善する)
余談ですが、例えば①の運動についてですが、スポーツジムと法人契約を結ぶことも有効な手段の一つです。
従業員の健康管理はもちろんのこと、法人契約にすることで経費として計上することも可能となり、節税対策にもなります。
この他にも会社ごとに様々な取り組みが行われているので、気になる方は色々と調べてみて下さい。
健康経営を取り入れるメリットとは?
人材不足の深刻化
従業員にとっては、働きやすい環境に整備されていくことから、メリットが多い健康経営。
しかし、企業側としてはどうでしょうか?
ここまでにご紹介してきた通り、会社が健康経営を具体的に取り入れていこうとすると、相応の手間と時間……そして費用も発生します。
「健康な状態が良いのは分かるけど、時間やお金を割いてまで取り組む理由ってなんなの?会社にとってどんなメリットがあるの?」と感じる方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。
実は、健康経営は企業にとっても先行投資を行ってでも実践するメリットがたくさんあります。
そもそも、大前提として、「企業の人材不足は深刻な状態にある」といえます。
理由の一つは、これまでにお伝えした通り。端的にいえば“労働内容・時間と対価が釣り合っていない”ことが挙げられます。
給与や福利厚生の充実は、モチベーションを上げるための重要な要素の一つです。
これが労働内容・時間と釣り合わなければ、いずれ仕事に対するモチベーションが下がり、もっと条件の良い別の会社に再就職するために「退職しよう」となってしまいます。
そうなれば、抜けた穴は別の従業員が埋めていかなくてはならず、一人ひとりの仕事量は増加する……。
結局はこれの繰り返しで、「人が育たない」「仕事が回らなくなる」「業績が悪くなる」といった問題に発展する可能性も高まります。
この負のスパイラルから抜け出すために、健康経営を取り入れていく必要があるのです。
では、事項からメリットについてお話していきましょう。
従業員の働きやすい環境=生産性が向上する
体調が芳しくない時に無理に仕事を頑張っても、当然ながら仕事の効率は悪くなる一方です。
しかし、健康経営を取り入れることで、従業員にとって働きやすい環境が整備されることとなり、それが社員のモチベーションアップに繋がります。
そうなると、集中力も高まり、生産性が向上することとなります。
現在の日本は少子高齢化が進んでいることから、労働人口そのものが減少しています。
だからこそ、限られた人材で、効率よく働くことが求められるのです。
人手不足の解消・定着率が向上する
健康経営を行うということは、「うちの会社は働きやすい環境を整備していますよ」と大々的にアピールできるということです。
それは、採用活動時はもちろんのこと、従業員の定着率向上にも一役買ってくれます。
実は、仕事を探している人がもっとも注目するポイントは『福利厚生の充実』なのです。
そして、定着率を上げる際にも、福利厚生の充実は必要不可欠な要素の一つです。
人材を確保でき、さらに定着率も上がれば、優秀な人材に育てることができます。
それが、結果として業績アップに繋がっていくのです。
医療費の負担を軽減できる
「なぜ医療費の負担を軽減できるの?」と疑問に思われた方もいるかもしれません。
単純な話、“心身ともに健康になる=病院に行く回数が減る”からです。
病院で診療を受ける際には当然保険を使いますが、その健康保険は企業が負担しなければいけません。
保険料は、診療を受ける人が多くなればなるほど、負担額も大きくなります。
実はこの金額はかなり大きく、これが影響して赤字になってしまう企業もあるくらいです。
「体調管理は個人の問題だ」と思う人もいるかもしれませんが、企業側からも積極的に健康維持に関わった方が、結果として業務の効率化・業績アップに繋がる可能性が高まると言えるでしょう。
企業価値が高まる=信用・信頼される
例えば、健康経営銘柄や健康経営優良法人に認定されたとしましょう。
それは、”従業員を大事にする会社”と世間一般に認識され、結果として企業のイメージアップに繋がります。
求職者からの印象が良くなることはもちろん、現在勤務している従業員も安心して仕事に取り組むことができます。
また、他の企業や金融機関からも信頼され、評価されやすくなります。
総じて、社会的な価値が高まるのです。
確かに健康経営を実践したとしても、すぐに効果が現れるわけではなく、はじめのうちは多大な時間と費用を使うこととなるかもしれません。
しかし、それが軌道に乗れば、結果として多くの面でメリットを得ることができるかと思います。
信用・信頼は、一朝一夕で生まれるものではありません。
先行投資として、健康経営に取り組んでみるのもいいのではないでしょうか。
2020年度に認定された企業は?
はじめに
2021年3月4日、『健康経営銘柄2021』と『健康優良法人2021』として、多くの会社が認定されました。
本記事の最後に、選定された企業について簡単にご紹介しておこうと思います。
ちなみに、2020年は新型コロナウイルスの影響があり、予定していた施策を実行に移せなかった企業が数多く存在します。
例えば、「健康経営の一環として社内で運動イベントを開催する予定だったが、中止せざるを得なかった」などの場合です。
上記イベントの他にも、緊急事態宣言が発令していた際などはスポーツジムも営業を自粛していた時期などもありました。
そもそも経営そのものに大きな痛手を受けた企業も多く、様々な企業が活動方針の変更などを迫られた年でもあります。
このような点を踏まえ、2020年度の認定基準および診査には、救済処置としていくつかの配慮がとられています。
また、コロナウイルスの流行に対して、「具体的に取り組んだ施策」や「組織体制を整備して、計画的に行った取り組み」なども、評価の対象となっています。
※この項目は、経済産業省のWEBサイトを参考にさせていただいております。
より詳細な情報をご覧になりたい方は、リンクを貼っておりますので、そちらを参照下さい。
『健康経営銘柄2021』に認定された企業は?
まず、こちらに認定された企業は、29業種48社です。
数が多いので、一覧(業種・企業名)を画像にしてまとめております。
初選定となる企業が全16社存在しています。
上場企業が対象ということもあり、「名前だけでも聞いたことがある」という企業も多いのではないでしょうか。
『健康経営優良法人2021』に認定された企業は?
こちらは今回が第5回目となり、多数の企業が認定されています。
- 大規模法人部門:1,801社
- 中小規模法人部門:7,934社
数が膨大なため全てを紹介することはできませんので、代表として認定証を授与された2社をご紹介させていただきます。
大阪信用金庫(ホワイト500)
大阪市天王寺区上本町に本店を置く信用金庫です。
設立されたのは1920年2月12日で、大阪にお住いの方であればその名を知らない人は、数少ないのではないでしょうか。
尚、大阪信用金庫のホームページには、【「ホワイト500」の認定を初めて取得しました。】として、その取り組み内容が公開されています。
国際建設株式会社(ブライト500)
国際建設株式会社は、昭和22年10月に山梨県甲府市に設立した総合建設会社です。
山梨県甲府市を基盤とする、甲信および首都圏エリアを中心に業務を行っており、現在は『山梨県/東京都/神奈川県』に事業所を展開されています。
こちらも、具体的な取り組み内容の記載はないものの、会社HPの『新着情報』にて健康経営有料法人2021に認定された旨が記載されています。
まとめ
前項でご紹介した有料法人認定ですが、『2022』の認定要件も既に発表されています。
経済産業省のホームページに詳細な記載がありますので、関心がある方はご確認いただければと思います。
最後に。
『健康』というのは、仕事であれプライベートであれ、人々が生活していく上で非常に大切です。
「病は気から」と言われますが、現代はその『気』……つまりメンタル面で疲労が溜まってしまう人が数多くいらっしゃいます。
気持ちの疲れは身体の疲れをさらに強め、そのままにしておくといずれ病気にも発展する可能性があるため、絶対に放置していてはいけません。
『健康経営』を通して労働環境が良くなり、働く人たちが少しでも働きやすい世の中になっていくことを願っております。