以前に「児童発達支援・放課後等デイサービスってどんなところ?」という記事を記載しました。
これらは、「障害や難病を抱えている子どもたち(就学児、未就学児)への支援を行う施設」であり、そこには様々な職員さんが勤務しています。
その職種の中の一つに、「児童発達支援管理責任者」という職種があります。
障害児支援において必要不可欠なこの職種……。
実は、資格を得るためには、複雑な条件をクリアしなくてはいけません。
- どんな施設に勤務し、どんな仕事をしているのか?
- 仕事に就くために必要なことは何か?
- お給料はどのくらいもらえるのか?
など、今回は、この職種について詳しくご紹介していきたいと思います。
障害児支援において必要不可欠な「児童発達支援管理責任者」とは
児発管の「役割」と「仕事内容」
障害児の保育や療育に関する専門職の一つである「児童発達支援管理責任者」。
略して、「児発管」と呼ばれることもあります。
※この記事では、以下「児発管」と表記します※
児発管の役割を端的に表現するのであれば、“事業所(現場)における、リーダー的存在”となります。
メインとなる仕事は、以下が挙げられます。
◆現場職員への指導や助言
◆施設を利用する児童やご家族への支援
◆保護者との面談
児発管の勤務先は複数存在しますが、上記で挙げた仕事内容は、どの職場においても同様に行います。
その他にも、事務作業や雑務などを行う場合もありますが、これは職場によって内容は異なります。
例えば、必要な教材の準備や手配を行ったり、利用する子どもたちを送り迎えする送迎ドライバーを担当することもあります。
なんにせよ、利用する児童やご家族・一緒に働く職員にとって、何かあった時にサポートしてくれる“頼れる存在”であることに間違いはありません。
ちなみに、「管理者」という立場の職員も、施設を運営する上で欠かすことのできない職種の一つです。
名称に同じ“管理”と付いていますが、以下のように管理する対象が異なります。
- 管理者=“事業所全体”を管理する立場
- 児発管=“現場”を管理する立場(利用者・職員・サービス提供など)
また、障害児支援を行う施設において、児発管は“必ず、1名以上の配置(常勤)”が義務付けられており、“管理者との兼務”が可能です。
ただし、兼務可能なのは「管理者」のみで、例えば「児童指導員」や「保育士」など、他の職種は兼任ができません。
「個別支援計画書」って何?
児発管の代表的な仕事であり、もっとも重要な業務の一つです。
なぜなら、「個別支援計画書を作成できるのは児発管のみ」であり、「利用する児童への支援および療育は、この計画書に基づいて行われる」からです。
障害児支援施設の利用対象者は、障害や難病を抱えている児童であり、専門的な知識とサポートを必要とします。
また、心と体の状態、そして取り組むべき課題は、児童一人ひとりで大きく異なるため、必要な支援内容も児童一人ひとりで変わってきます。
この「個別支援計画書」とは、このような“児童一人ひとりに合わせて作成される、支援の方向性・内容が定められた資料”なのです。
当たり前のことですが、この計画書は児発管一人で作成するものではありません。
●保護者の意見を伺い、ニーズに照らし合わせながら目標を立てる
●児童の通う学校園とも、可能な限り連携をする ※教育支援計画※
児童・ご家族・学校園の先生ともしっかりと話し合いながら、状況やニーズに合わせた目標を立て、その目標を達成できるように援助の方針を決めていきます(状況に応じて、さらに細かい支援内容も組み込んでいく)。
「教育支援計画」って何?
上記で記載した「教育支援計画」というのは、障害のある幼児・児童・生徒一人ひとりのニーズを把握し、長期的な視点で支援していくという考えのもとに、学校園などの教育機関が中心となって、関係機関と連携・的確な教育を行うための計画のことを言います。
「障害のある子どもを地域社会の中に生きる”個”として、社会全体が支援していく」という理念を背景としており、子ども一人ひとりに応じた支援を地域社会の支援体制の中で生涯にわたって行うことを基本としています。
上記「個別支援計画書」もこの教育支援計画と密接に関係しており、児童の通う学校(教育支援計画書)と可能な限りの連携を行い、実施していくことが求められています。
「サービス管理責任者」とは違うの?
「サビ管」と「児発菅」の業務内容はほぼ同じ
障害福祉サービスの中には、児発菅と同じように、サービス全体の管理や個別支援計画の作成をする業種として「サービス管理責任者」が存在します。
(略して、”サビ管”と呼ばれる)
結論から言うと、「サビ管」と「児発菅」の仕事内容はほとんど同じです。
では、なぜ名称が異なるのか?
こうなったのは、2012年4月に行われた法改正が理由であり、以下の2つが挙げられます。
支援対象の”年齢層”が違う
◆児発菅:対象は「子ども」
支援対象となる年齢層を端的に伝えるのであれば、上記のようになります。
例えば、サビ管は、「就労移行支援」や「就労継続支援」など、成人した大人が通う事業所に勤務しています。
対して、児発菅は、「児童発達支援」や「放課後等デイサービス」などの、子供(就学児・未就学児)が通う事業所に勤務します。
なぜこのように分けられているのかと言うと……。
そもそも障害児を対象とした施設や事業は、「障害者自立支援法」で定義されたもので、元々は“非営利事業”として行われていました。
その後、2012年4月に定められた「児童福祉法」によって、これらが一元化され、その体系も新たに再編されることとなりました。
その際に、「障害者の支援=サビ管」「障害児の支援=児発菅」と、対象によって必要となる職種(資格)が分けられることとなったのです。
要件を満たすために必要な”研修”が違う
「サビ管」にしろ「児発菅」にしろ、要件を満たすためには“研修”を受けなければなりません。
この研修内容が、両者で少し異なるのです。
受けるべき研修は、大きく以下の2つで共通しています。
② サービス管理責任者研修or児童発達支援管理責任者研修
そして、上記②の部分も「共通講義」に関しては同じ内容のものを受けることとなります。
研修内容が異なるのは、この後の「分野別研修」です。
サビ管の場合は、「介護・地域生活(身体)」「地域生活(知的・精神)」「就労」のいずれかの分野別研修を受講しなければいけません。
対して児発菅は、「児童発達支援管理責任者」の分野別研修を受講する必要があります。
このように、分野別研修にて専門分野の研修を受けることによって、それぞれの資格を得ることが可能となります。
なぜ、このような少々ややこしい分け方がされているのかと言うと、元々2012年の法改正以前に個別支援計画をしていたのは“サビ管のみだった”からです。
法改正前の分野別研修では、”児童”という分野は、サビ管の分野別研修に含まれていました。
しかし、改正によって「児発菅」という児童福祉に特化した職種が誕生したことから、”児童”の分野を「児童発達支援管理責任者研修」へと変更したのです。
いずれはまた法改正がされるかもしれませんが、現在の研修はこのような運用方式をとっています。
児発管が働く場所はどんなところ?
“児童福祉に関する現場”と一言でいっても、その活躍の場は幅広く存在します。
大きく分けると、以下の2つです。
- 障害児“通所”施設
- 障害児“入所”施設(福祉型もしくは医療型)
通所施設というは、日帰りで通う施設のことで、施設の職員が車で送迎してくれます。
そして、入所施設というのは、施設に入居して職員の介助や支援を受けながら生活をする場所です。
この入所施設はさらに、「福祉型」と「医療型」の2つが存在します。
通所・入所ともに、以下のように様々な施設があります。
別項でも記載した通り、児童福祉施設には、1名以上の児発管(常勤)が必須となります。
共働きの世代も年々増加しており、障害の有無に関わらず「子どもたちへの支援」へのニーズは、どんどん高まっています。
これに伴い、児童発達支援や放課後等デイサービスの数も増えており、そうなれば児発管の必要性も当然増加していきます。
児発管は、今後もなくなることのない仕事の一つといえるでしょう。
どうすれば「児発管」になれるのか?
大きく”2つの条件”を満たす必要がある
児発管になるためには、大きく以下の2つをクリアする必要があります。
- 実務経験の要件
- 研修の修了
この①が特に複雑で、しかも2019年4月の法改正によって必要となる実務経験が変更され、さらに複雑化することとなります。
必要要件が変更された理由は、「質が低いor適切でない事業所をなくす(減らす)ために、必要な基準を上げる必要があった」からです。
“単なるお預かり施設”と化し、本来行うべき業務をしない放課後等デイサービスなども存在し、実際に指摘を受けることがいくらかあったのです。
このことから、“質を担保する”という目的で、改定が行われました。
ただ、要件こそ複雑ではありますが、「実務経験を加算できる機関が増えた」というメリットも存在します。
例えば、児童福祉施設に係る事業などです。
保育所や幼稚園で勤務してきた方や教員免許状の保有者なども要件に加わったことで、より専門性の高い人たちが働きやすい環境となったのです。
次に、各要件について、細かくご紹介していきたいと思います。
必要な実務経験について
まず、必要な実務経験は、大きく以下の3つに分けられます。
◆5年以上の「直接支援業務」
◆有資格者として、それに係る実務経験を5年以上+3年以上の「相談」or「直接支援」業務
勤務できる事業所は多様に存在し、どういうルートで実務経験を積んでいくかは人それぞれですが、どれを選んだとしても、5年以上の実務経験を積む必要はあります。
5年以上の「相談支援業務」とは?
これは、下表に記載された施設において5年以上+高齢者分野以外での相談支援業務に携わった期間が3年以上、必要となります。
(高齢者分野は、赤文字で記載)
5年以上の「直接支援業務」とは?
こちらも、相談支援業務の時と同じく、下表に記載の機関で5年以上(※)+高齢者分野以外での直接支援業務に携わった期間が3年以上、必要となります。
(高齢者分野は、赤文字で記載)
(※)社会福祉主事任用資格者等でない場合は、8年以上の実務経験を必要とします。
有資格者として、それに係る実務経験を5年以上+3年以上の「相談」or「直接支援」業務とは?
下表に記載されている資格を保有し、且つそれに係る実務経験を5年以上積みます。
それに加え、上記でご紹介した中で“高齢者分野を除く機関”で、相談もしくは支援業務に従事した期間を3年以上、必要とします。
ただし、実務経験に含まれる業務の範囲は、都道府県によって独自の基準が設けられている場合もあります。
この点については、各都道府県のホームページなどを事前に確認してから進めていくようにしてください。
研修について
上でご紹介した実務経験の要件を満たすことに加え、児童発達支援管理責任者に関する研修も受講しなければいけません。
ここまでにもご紹介した通り、研修に関しても法改正が加えられており、現在は以下3つの研修が存在します。
- 「基礎」研修
- 「実践」研修
- 「更新」研修
基礎研修が修了+実務要件を満たせば「管理者」にみなされますが、正式に児発管として配置されるには、実践研修を修了する必要があります。
また、実践研修は、基礎研修修了後から3年以内に研修を終えなくてはいけません。
「更新研修」とは?
上記新体系の研修は平成31年度(2019年)の法改定からであり、改定前の研修は1回限りで、”更新の機会”というものを設けていませんでした。
しかし、障害福祉施設のニーズが高まり、多くの事業所が開設していく中で、児発管およびサビ管の質の担保は必要不可欠な要素となります。
この「更新研修」とは、実践研修修了後“5年ごと”に受講する必要があり、もし定められた期間内に更新研修を受けなかった場合は、“資格が喪失”してしまいます。
もし資格を失ってしまった場合、児発管(もしくはサビ管)として再配置されるには、実践研修から受け直さなくてはいけません。
※ただし、基礎研修の受講および実務経験要件などを再度満たす必要はない※
加えて、もし年度内に更新研修を受けることができなかった場合、実践研修の修了証書が失効してしまいます。
さらにもう一つ。
平成30年度(2019年)以前……つまり、改正前の研修を受けた人は、令和5年度末(2024年3月末)までに更新研修を受けなければ、資格が失効してしまいます。
資格の修了年度は、人によって様々であり、当然ながら更新のタイミングも人それぞれです。
資格の更新ができず失効してしまっては元も子もないので、自分の研修履歴を確認し、更新時期を明確に把握しておくことをオススメします。
児発管の働き方について
雇用形態や勤務時間は?
児発管の働き方についてですが、これは勤務する事業所によって様々です。
まず雇用形態は、正社員だけでなく、契約社員やアルバイト・パートなどで募集をかけている事業所もあります。
雇用形態が変われば、勤務時間や休日も変わってきますし、そもそも施設が開いている時間も事業所によって様々です。
そのため、「どのような施設で、どのように働くか?」は、自分である程度選択することが可能です。
「正社員として、ガッツリ働きたい」
「子育ても落ち着いてきたので、パートとして仕事と家庭を両立して働きたい」
「子どもや家族の面倒を見たいので、アルバイトとして時間に融通を聞かせて働きたい」
前項でご紹介した通り、児発菅は5年以上の実務経験と研修を必要とするため、誰でも簡単に取得できる資格ではありません。
資格を持っていれば、障害児福祉サービスの職に就く際にはかなり有利となるため、比較的自分のライフスタイルに合わせた事業所を選びやすくなると言えるでしょう。
お給料はどのくらい?
これも勤務する事業所によって千差万別ではありますが、正社員であれば“平均月収:25万円前後”ほどが目安となります。
あくまで目安なので、これより少ないこともありますが……、少なくとも月収20万円を切るところは基本的にありません。
また、事業所によっては上記に加え、資格手当などの各種手当や残業代、賞与なども支給されますので、さらに収入を増やすことも可能です。
アルバイト・パートの場合は「時給制」となりますが、こちらは“平均時給:1,300円前後”が目安となります。
やはり、“管理者”という立場と、“誰にでも(すぐに)なれる職種ではない”という関係から、他の福祉サービスの職種に比べて、給与額は高めに設定されています。
例えば、正社員で勤務する「児童指導員」や「保育士」の場合、平均月収は“20万円前後”がベースと言われています。
※あくまで平均値です※
他の職種に比べ給与水準が高く、経験年数や未所持の資格取得を目指すなどで、さらにキャリアアップを図ることも可能です。
また、通所型の児童福祉サービスの場合は、基本的に“夜勤”がありません。
もちろん施設によりけりではありますが、児童発達支援・放課後等デイサービスの場合、勤務時間は日中であることがほとんどです(施設によっては”~20時まで”など、夜が遅めの施設もある)。
給与水準も高めで、勤務時間などの労働環境も比較的良く、自分のライフスタイルに合わせて勤務形態を選べる……という点で、他の福祉職から転職を検討する人も多いと言われています。
とはいえ、何度も言うように“条件は事業所によって様々”なので、もし児発菅のお仕事をお探しの方は、必ず条件などを確認し、気になる点があれば施設に質問をするようにしましょう。
まとめ
法改定によって、児発管となるための要件も複雑化しています。
ただし、長い実務経験こそ必要なものの、その対象となる機関が増加したことによって「児発管になりやすい環境となった」のも事実です。
障害に関する理解が世間的に広まっており、児童福祉という点のニーズも年々増加し続けています。
確かに少子化時代と言われてはいますが、今後も児発管の仕事が早々になくなるようなことはありません。
最後に。
児発管の仕事は、「仕事量が多い」と言われることがあります。
確かに、児童一人ひとりに寄り添った個別支援を行い、保護者や教育機関とのやりとり、職員の指導からサービス全体の管理など……やるべきことはたくさんです。
ただ、言い方を変えると、「やりがいのある仕事」ともいえます。
長い実務経験の中で培ってきた専門知識を活かすことができ、児童一人ひとりに適したサポートを行うことで、同じ職場に働くスタッフ・児童・保護者など、周りの人たちから頼りにされる存在へとなれるはずです。
また、実際に児発管として仕事をしていく中で、「自分がサポートした子ども達の成長する姿を見れることは、すごく嬉しいし、そこにやりがいを感じる」という方は、たくさんいらっしゃいます。
現在は、児発管だけでなく、児童指導員や保育士の求人も増えてきていますので、関心がある方は是非色々と情報を調べてみてください。