厚生労働省によると、65歳以上の高齢者のうち認知症により何かしらの要介護認定を受けている方は全国に約117.5万人いるとされています。
また、18~64歳の方の中にも若年性認知症と診断を受けている方は約3.6万人いるとの研究結果もあります。
認知症は誰にでも起こる可能性があります。決して他人ごとではありません。
そこで今回は、認知症とは一体どのような症状なのか、そしてその原因や認知症を疑ったときの相談先について徹底解説して参ります。
1.認知症とは何か
一般的には「ボケる」と言われてきたました。
兼ねてから「痴呆」「ボケ」という表現が差別用語として問題視されてきたことから、平成16年頃から国が改称したことで「認知症」という表現が広く使われるようになりました。
第1章では、認知症について
- 認知症とはそもそも何か
- 通常の私たちがする物忘れと、認知症の記憶障害の違いは何か
- 症状の主な種類について
以上3つのポイントについて、分かりやすく解説していますのでご覧ください。
1-1.認知症とは、認知機能が低くなっている状態
何らかの病気を原因として脳が悪影響を受け、生活上私たちが無意識でしている“見当をつける能力”が失われてしまっている状態になります。
具体的には、
- 直前のことをすぐに忘れる
- 体験したことが無かったことになる
- 日時がわからなくなる
- 自分がいる場所が分からなくなる
- 近くにいる人が誰か分からなくなる、どう対応したらいいか分からなくなる
以上のような症状があります。
このように、認知症になると場所や時間などに関する「見当をつける能力」を失ってしまいます。
見当をつける能力を失ったところに記憶障害が重なるので、周囲の方が困るような様々な言動を起こしてしまうのが認知症です。
1-2.一般的な物忘れと、認知症の記憶障害の違い
特に高齢者の方が物忘れをすると、ふと認知症かもと疑ってしまうかもしれません。
ですが通常私たちがする物忘れと認知症の記憶障害は異なります。
通常の物忘れは「記憶が部分的に欠けている」状況に対し、認知症の記憶障害は、「記憶が抜け落ちている」状態だからです。
通常の物忘れについては本人も「忘れている」という自覚がありますが、認知症の記憶障害の場合はエピソードそのものが抜け落ちてしまうので「忘れている」ということ自体がわからなくなってしまいます。
物忘れによって認知症を疑う場合は、
- エピソード記憶そのものが無くなっていないか
- 「忘れている自覚」があるのか
この2点に着目して観察するようにしましょう。
1-3.代表的な症状
認知症であればどなたにでも起こりうる「中核症状」
生活している環境や生活の状況によって差が出る「行動・心理症状(周辺症状)」
2つの症状の違いは、以下の表をご覧ください。
【「中核症状」と「行動・心理症状(周辺症状)」の違い】
中核症状 | 行動・心理症状 | |
概要 |
|
|
主な症状 |
|
|
対応策 | 服薬治療により進行を遅らせることは可能だが、限界がある。 | 環境調整や行動障害の原因を探ることで改善が期待できる。 |
「中核症状」はほぼすべての認知症患者に発生しますが、「行動・心理症状」の原因は本人の想いとは反した周囲の環境のミスマッチが原因であることが多いです。
原因を探りながら周囲の環境や支援者の対応を見直すことによって
認知症は改善する可能性があります。
2.認知症の種類は主に4種類
認知症は脳の機能が障害されることによって発症する「病気」です。
様々な疾病によって認知症が引き起こされます。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
次に、上記4つの認知症の原因や主な症状についてご紹介していきます。
2-1.アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、日本人の認知症の中で最も割合が高い認知症です。
「アルツハイマー病」は脳に異常なタンパク質が蓄積することによって脳全体が萎縮していくことが原因です。
稀に若年層でも発症する場合があります。
前のことは覚えていても、新しいことを覚えるのが難しくなります。
だんだんと今は何時なのかや自分はどこにいるのかなどの感覚が無くなったり
今まで出来ていたことが出来なくなったりします。
現代の医学では完治させることはできませんが、早期発見・早期治療により病気の進行を緩やかにすることが期待できます。
アルツハイマー型認知症は、発症の原因が明確に解明されているわけではありません。
早期から対応することが大切なので、物忘れが気になりだしたら「物忘れ外来」や「脳神経外科」等の専門医に相談することをおススメします。
2-2.脳血管性認知症
脳血管性認知症とは、脳出血や脳梗塞などの後遺症によって発生する認知症です。右半身若しくは左半身の麻痺を伴います。
脳の血管が損傷することで血流が遮断されてしまい、脳細胞が死んでしまった状態です。
そもそもの原因である、脳出血や脳梗塞などの生活習慣病を正して予防することが大切です。
主な症状は、障害された脳の場所によって異なります。
原因疾患によって受けた脳の損傷によって症状が異なり、脳血管障害を繰り返すことによって段階的に進行します。
脳全体が機能不全になるわけではないので患者自身にも意識があり、葛藤や悲しみを感じながら過ごしている方も多いという特徴があります。
脳血管性認知症は、生活習慣病を予防することによって防ぐことが出来る認知症です。
発症しないようにするためには生活リズムや食生活を見直し、日頃から健康を意識することが重要です。
2-3.レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、レビー小体という特殊なたんぱく質が脳に溜まって細胞を破壊してくことによって発生する認知症です。
パーキンソン病と併発する場合が多く、女性よりも男性に多い特徴があります。
症状としては、
- 手足が小刻みに震えて動かしづらくなるパーキンソン症状
- 立ち眩み・動悸・冷や汗などの自律神経症状
- 存在しないものが見える幻視
- 一日の中で認知症状の度合いが異なる日内変動
等があります。
レビー小体型認知症の場合は、明確な脳の萎縮や組織の死滅がないため、CTやMRIといった検査では発見が難しく診断まで時間を擁するという特徴があります。
早期発見・早期治療のためには周りの人が病状を正確に把握し、専門医へ的確に報告することが重要です。
2-4.前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉が異常なタンパク質の蓄積によって萎縮していく病気です。
脳全体が委縮するアルツハイマー型認知症と異なり、脳の前頭葉と側頭葉に限って萎縮していくという特徴があります。原因は完全に解明されていません。
理性をコントロールする前頭葉や言葉を司る側頭葉が障害されるため、症状としては理性的な行動が出来ずに警察沙汰を起こしてしまったり、言葉が出にくくなったりします。
人格が変わったようになり、周囲の人間が困ってしまうことがあります。
物忘れや時間や場所の感覚といった中核症状はあまり出ないので、病気と気付かれづらいこともあります。
前頭側頭型認知症は対応が難しい病気ですが、周囲の人間が病状を理解して先回りした環境整備を行うことにより、行動・心理症状を抑えることが出来る病気でもあります。
介護の際は認知症の専門施設を利用するのも安心できるポイントです。
3.まとめ
認知症とは、様々な認知機能の低下を引き起こす病気です。
記憶障害や「時間」「場所」「人間関係」等に見当をつけて行動することが難しくなる中核症状と、生活環境や周囲の状況によって様々な困りごとが生じる行動・心理症状があります。
認知症の対応には、早期発見・早期治療が非常に重要です。
気になる症状が続いた場合は、「物忘れ外来」や「脳神経外科」を受診して専門医に相談することを強くおススメします。