重度傷病者に対して、医師の指示のもとで“特定行為”の治療を行うことができる「救急救命士」。
前回の記事で仕事内容やその歴史についてのご紹介をさせていただきました。
今回は、この「救急救命士にはどうすればなれるのか?」と言った点について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
「救急救命士」になるために必要な条件はなに?
まず、この仕事に就くために必須となるのは、「救急救命士」という国家資格となります。
もし学生の頃から「救急救命士になりたい」と考えている方がいらっしゃれば、高校卒業後に以下の学校に進学するのがベストです。
②4年生大学の救急救命士養成を目的とした学科・コースを選択する
どちらかで救急救命士という仕事について学び、国家資格に合格することで、“救急救命士という資格”を得ることができます。
ちなみに、少し余談となるのですが……。
救急救命士の国家資格が誕生したのは「1991年(平成3年)」からです。
そのため、1991年(平成3年)8月15日時点で「看護師免許」を取得していた人もしくは「看護師養成所に在籍し、その後看護師となった人」は、手続きを行うことで救急救命士の国家試験受験資格を得ることが可能です。
今から30年ほど前の話になりますので、現在の人からすると全く関係のない話となるかもしれませんが、一応ご紹介しておきます。
「消防士」と「救急救命士」の関係性について
以前の記事にてご紹介した通り、救急救命士の勤務先は「消防署」であることがほとんどとなります。
もちろん、中には「自衛隊」「海上保安庁」「医療機関」「警察」などで働いている人や、特殊な例としては「テーマパーク」「介護タクシー会社」などで勤務をしている人もいます。
しかし、その母数は非常に少なく、求人募集が掛かることも稀です。
救命救急士のニーズは増加傾向にあるため、例えば「介護施設」など、今後も勤務先の幅は広がる可能性もあるかもしれません。
しかし、現状は消防署以外の求人募集率は低いため、多くの救急救命士が消防署に勤務することとなります。
そして、この「消防署」に勤務するためには、救急救命士とは別にもう一つの重要な試験に合格しなければいけません。
この項目にて、「消防士と救急救命士の関係性」について、ご紹介していきたいと思います。
「消防士採用試験」に合格しなければいけない
消防署で勤務する場合、救急救命士の国家資格を取得しただけでは、消防署の救急救命士として勤務することはできません。
「消防士採用試験」に、別途合格しなければいけないのです。
消防士という仕事ですが、かなりの人気があり、採用試験の倍率は非常に高いことが特徴に挙げられます。
たとえば東京消防庁では、以下の4つの区分で試験が行われます。
◆「Ⅱ類:短大卒程度」
◆「Ⅲ類:高卒程度」
◆「専門職」
年度や区分によって若干の変動はありますが、高い時の倍率は“20倍”や“30倍”を超えることもあります。
ちなみに参考までになりますが、2019年度の東京消防庁 職員採用の「受験者数/合格者数/倍率」の合計は以下のような結果が出ていました。
◆受験者数:12,477人
◆最終合格者数:884人
◆倍率:14.1倍
かなり難度の高い試験だということは、上記の数値をご覧いただければ一目瞭然かと思います。
ただし、救急救命士という仕事は専門を国家資格を必要とする「専門職」でもあります。
そのため、自治体によっては“救急救命士資格取得者を優先的に採用する枠を設けている”ところもあります。
もし、救急救命士+消防署勤務を希望されるのであれば、上記のような自治体を探して受験してみるのも良いかもしれません。
「消防士」→「救急救命士」になるルートも存在する
ここまでにご紹介してきたのは、「”救急救命士”から”消防士”になるルート」でした。
しかし、逆のルートも存在します。
つまり、すでに消防機関で「消防隊員」として勤務をしている人が、救急救命士になるルートのことです。
実は、救急救命士の試験受験者の約半数は、上記のルートだと言われています。
このルートの場合は、“救急隊員として5年以上または2000時間以上救急業務を経験したうえ”で、“6カ月以上の講習を受ける”ことで、受験資格を得ることが可能となります。
救急救命士になるには、どんな学校に通えばいいの?
話を戻して、今度は「救急救命士になるために通う学校」についてご紹介していきたいと思います。
「救急救命士養成校」とは?
1分1秒を争う重度傷病者の特定行為にあたる救急救命士は、文字通り“人の命を預かる仕事”です。
その仕事に就くためには、ただ「国家試験に合格すれば良い」というだけではなく、正しい“医療知識/技術/体力”を身に着けた上で試験に臨まなくてはいけません。
その知識・技術を学び、体力をつけるための学校が「救急救命士養成校」なのです。
この養成校において、定められた単位を修得することは「救急救命士法」で義務付けられています。
また、上述でご紹介した「消防士から救急救命士になるルート」で資格を取得するにしても、6ヶ月以上の講習を受けなくてはいけません。
通うべきは大学?短大?専門学校?
養成校に指定されているのは、以前は「専門学校」が多かったのですが、近年では大学に救急救命士養成コースが開設されるケースも珍しくはありません。
「大学と専門学校(短大)のどちらに通うのが良いのか?」についてですが、これは人それぞれで異なるかと思います。
後述でご紹介しますが、勉強する内容そのものは“どんな学校に通っても基本的に同じ”です。
では、何が違うのか?
それは「通う年数」と「最終学歴」です。
「専門学校(短大)」の場合、基本は2年制となるため、大学よりも短い年数で卒業ができます。
なので、「一日でも早く救急救命士として働きたい!」という人は、専門学校を選択するのが良いかもしれません。
加えて、大学に比べて通う年数が短いため、学費も(大学に比べれば)抑えることができるでしょう。
ただし、2年の間で多くのことを勉強する必要があるため、学校生活は多忙となる可能性は高いかと思います。
対して「大学」の場合は、4年という長い年月をかけて救急救命士に関する勉強を進めていくこととなります。
そのため、専門学校や短大に比べれば、比較的ゆったりと勉強を進めていくことが可能となります。
加えて、「最終学歴=大学卒」となるため、“昇給しやすい”というメリットにも繋がります。
上述でもお伝えしたように、救急救命士の勤務先は消防署が多く「消防署勤務=公務員」という扱いになります。
公務員の場合、最終学歴によって給与が異なるため、大学卒の方が給与面は高額なものとなるはずです(初任給も高めに設定されている)。
ただし、4年間大学に通うため、学費は高額になりますし職に就くまでの年月は専門学校よりも長くなってしまいます。
このように、それぞれに一長一短があるため、自分に合った学校選びをするのがベストなのではないかと思います。
ちなみに、学科の名称ですが「救急救命科」とされていることが多いです。
ただ、学校によっては「心理学科」「保健医療科」「スポーツ保健学科」などでも必要な科目を履修できる場合があるため、気になる方は学校選びの際に色々と調べてみてください。
学費はどのくらいかかるの?
もちろん学校によって掛かる費用は異なるため、おおよそ……にはなりますが、専門学校と大学では以下ほどの学費が発生すると言われています。
◆専門学校:250万円~400万円
◆私立大学:700万円前後
あくまで目安ではありますが、それでも専門学校と私立大学では倍ほどの開きがあります。
再度申し上げますが、「どんな学校に通うか?」は、人それぞれです。
それぞれにメリットとデメリットがあるので、「専門学校の方が良い」「大学の方が良い」などと決めつけることは絶対にできません。
是非、様々な情報を調べて、自分に合った学校を選択するようにしてください。
どんなことを勉強するの?
上記で、“勉強する内容は、どの学校に通っても基本的に同じ”とお伝えしましたが、その理由は「学習内容は厚生労働省が指定している」からです。
そのため、大学・短大・専門学校のどんな学校に通っても、同じ科目・範囲を履修することとなります。
大まかに説明すると、以下のようなものを学びます。
◆専門基礎分野(人体の構造と機能、疾患の成り立ちと回復の過程、健康と社会保障)
◆専門分野(救急医学概論、救急症候学・病態生理学、疾病救急医学、外傷救急医学、環境障害学・急性中毒学)
◆臨地実習 (シミュレーション、臨床実習、救急用自動車同乗実習など)
加えて、体力が必要な仕事でもあるため、「体力をつけるためのトレーニング」や「スポーツ実習」などが設けられる学校も多数存在します。
国家試験の内容や合格率について
次に、救急救命士の国家試験の内容や合格率について、ご紹介をしていきたいと思います。
試験内容について
まず、試験内容は大まかに以下から出題されます。
◆臨床救急医学総論
◆臨床救急医学各論(一)(臓器器官別臨床医学)
◆臨床救急医学各論(二)(病態別臨床医学)
◆臨床救急医学各論(三)(特殊病態別臨床医学)
そして、以下の基準を全て満たせば合格となります。
- 必修問題:満点の「80%以上」の得点率
- 通常問題:満点の「60%以上」の得点率
特に出題される問題については、医学に関する知識がないと意味が分からないと感じる方もいるかと思いますが、参考程度にご覧いただければ幸いです。
いつ・どこで試験は行われるの?
まず、試験の日程についてですが、これは「毎年3月の中旬頃」に行われます。
願書申し込みの受付期間は「1月上旬~下旬」までで、合格発表は「3月下旬頃」に行われています。
ちなみに、受験料は「30,300円」かかります。
最後に、受験地についてですが、これは「北海道・東京都・愛知県・大阪府・福岡県」の5か所で行われることとなります。
他の試験に比べて、受験料が少し高いイメージがあるのと、受験地が5か所しかない点には注意をしておいてもいいかもしれません。
受験者数・合格率はどのくらい?
実は、救急救命士の国家試験合格率は、それほど低くはありません。
以下は、2016年~2020年の間の「受験者数・合格者数・合格率」をまとめた表になります。
近年だと85%以上の合格率となっており、国家試験の中ではかなり高めの合格率となっています。
ただし、“合格率が高い=試験の難易度が低い”という訳ではありません。
合格率が高い理由は、「大学・短大・専門学校などで、しっかりと勉強したうえで試験に臨むから」です。
仮に「消防士から救急救命士になるルート」であっても、一定の実務経験に加え6か月間の講習が義務付けられています。
特に消防士から救急救命士になる人の場合、“消防士として現場を経験している”ことから試験にかなり有利に挑むことができます。
やはり「実践(現場)に勝る勉強はない」という感じです。
このように、基礎から応用まで救急救命士のことをしっかりと勉強した上で試験に臨むため、合格率が高くなっているのです。
「人の命を預かる仕事」に携わるための資格が、誰にでも簡単に取れるわけはないのです。
まとめ
ここまでにお伝えしてきた通り、救急救命士になるためには2つのルートのどちらかを選択する必要があります。
◆消防士として一定数勤務したのち、講習を経て資格を取得するルート
何度かお伝えしてきた通り、現時点の救急救命士の勤務先は「消防署」が多いです。
そのため、どちらのルートであっても「救急救命士」とは別に「消防士採用試験」にも合格しなければいけません。
合格率で行くと、救急救命士よりも消防士採用試験に合格する方が難易度は高いです。
(消防士はそれだけのニーズがある仕事)
「救急救命士の国家試験にさえ合格すればOK……という訳ではない」ということだけは、注意しておいた方がいいかと思います。
また、どのルートを選択するかはもちろん、「どんな学校に通うか?」も人それぞれで異なります。
履修する科目は基本的に一緒なので、自身の目的に合った学校を選択し通うようにしましょう。
試験の合格率は高くはなっていますが、それでも“簡単に合格できるものではない”という点にも注意が必要です。
こういった点をしっかり意識して、自分に合った方法で是非「救急救命士」を目指してみてください。
尚、次回以降では、「救急救命士の給与・福利厚生・勤務形態」や「救急救命士に適性のある人とは?(向き・不向きなど)」についてもご紹介していければと思います。