保育の形態やサービス内容は、時代とともに多様化が進んでいます。
保護者のニーズに合わせた新しい保育のあり方が次々と登場しており、その一つには「家庭的保育事業」が挙げられます。
従来の集団保育とは異なる事業ですが、今回はこの内容について詳しくご紹介していきたいと思います。
「家庭的保育」ってなに?
概要
これは「少人数を対象としたきめ細やかな保育サービス」のことをいいます。
以前の記事でご紹介した「小規模保育園」の、さらに少人数で行われるサービスのことです。
正式名称は「家庭的保育事業」といいますが、通称「保育ママ制度」とも呼ばれています。
また、この家庭的保育を提供する保育者のことは「家庭的保育者」といいます。
「保育士」とは、また違って意味合いとなるので、使い分けには十分注意しましょう。
どういう目的でスタートしたの?
これは、2010年に「児童福祉法の保育事業の一環」として位置づけられた事業です。
定められた目的は、以下の2つが主な理由となります。
◆「地域の保育基盤の充実」
待機児童は、特に都市部に多くいるのが現状です。
そして、都市部は従来の保育園(定員20名)の要件を満たせるだけの施設スペースを確保するのも難しいとされています。
このことから、「小さなスペースでも保育を提供できるように」と誕生したのです。
(目的については、小規模保育園と同じである)
ちなみに、2015年に施行された「子ども・子育て支援新制度」では、“地域型保育給付の対象事業”にも含まれています。
このことから、地域の保育ニーズに対応した事業として、重要な役割を担っている制度となるのです。
「経営基準」について
この事業を営むには、健全な保育を提供できるように、以下のような“経営基準”が定められています。
◆子どもの人数 :1人~5人
◆保育時間 :原則8時間(延長保育も有り)
◆保育場所 :家庭的保育者の居宅やマンション
◆保育場所の条件:3人まで→9.9㎡(3人以降は1人につき3.3㎡を加算する)
◆設備 :一定以上の採光・照明・換気設備・一定の広さの庭(庭がない場合は近隣の公園などを活用する)
小規模保育園との最大の違いは、「預かる子どもの人数」と「保育場所」でしょうか。
小規模保育園の場合、預かる子どもの人数は“6人~19人”(A・B・Cの形態によって人数は異なる)でした。
対して家庭的保育の場合は“1人~5人”とさらに少なくなっています。
また、家庭的保育事業を営む場合の多くは、「家庭的保育者の自宅」が利用されることが一般的となります。
ただし、一定の経営基準を満たすために、自宅の改装やリフォームを行わなければならない場合もあります。
(自治体によっては一定の条件を満たせば、開設準備費や事業を継続的に運営するための補助金を受けることができる)
ちなみに子どもの年齢は、どちらも同じ「0歳~2歳」となります。
この理由は、「待機児童の多くが、0歳~2歳である」からです。
待機児童数についてですが、これは厚生労働省にて統計が取られており、以下のようになっています。
◆利用児童数:151,362人
◆待機児童数:1,227人
≪1・2歳児≫
◆利用児童数:958,288人
◆待機児童数:9,603人
≪3歳児以上≫
◆利用児童数:1,627,709人
◆待機児童数:1,609人
≪全年齢の総計≫
◆利用児童数:2,737,359人
◆待機児童数:12,439人
この事業の目的の一つは「待機児童問題の解消」が挙げられます。
そのため、もっとも待機児童数が多い「0歳~2歳」の乳幼児に絞っているのです。
3歳を過ぎるとどうなるの?
小規模保育園と同様に、家庭的保育事業も「満3歳で卒園」となります。
その後は、どうなるのでしょうか?
これは、満3歳で卒園する子どもに適切な教育と保育の場を確保するため、以下のような施設と連携する必要(義務)があるのです。
◆幼稚園
◆認可保育園
◆ナーサリールーム
◆企業主導型保育施設
など
連携施設は、「保育内容の支援」「代替保育の提供」「卒園後の進級先の確保」などの支援を行います。
ただし、地域によっては「周囲に保育施設が存在しない」というところもあるかと思います。
この点については、令和6年度までは努力義務とする“経過措置期間”が設けられています。
ただし、あくまで“努力義務”であり、“期間限定”である点には注意が必要です。
令和6年度以後は、各種施設と連携を取っていかなくてはいけません。
預ける「メリット」とは?
次に、この施設に預ける「メリット」について、ご紹介したいと思います。
まずは特徴を端的にお伝えすると、以下のようになります。
◆「手厚い保育が受けられる」
◆「保護者と密なコミュニケーションが取れる」
◆「保育所と同じ料金で利用できる」
順に捕捉を加えていきましょう。
「家庭的な保育が受けられる」
上項でもお伝えした通り、家庭的保育の利用人数は「1人~5人」となります。
従来の保育園や小規模保育園よりもさらに小規模での運営となるため、より「家庭的な保育」を行うことが可能なのです。
また、他の保育施設とは異なり“家にいる感覚”があるため、なじみやすい環境で安心して一日を過ごすことができます。
「手厚い保育が受けられる」
原則として、1人の家庭的保育者が預かることのできる子どもの人数は「3人以内」と決められています。
(補助者を雇用する場合は5人以内となる)
そのため、ほぼマンツーマンに近い状態で保育を行うことが可能となるのです。
一人ひとりの発達の状態や興味・関心、体質や体調などにきめ細やかな対応をとることができ、子どもの成長に合わせた保護者のサポートを行う事ができるというわけです。
「保護者と密なコミュニケーションが取れる」
預かる子どもの人数が少ない=保護者とも密なコミュニケーションを取ることができます。
また、少人数での運営となるため、基本的に「家庭的保育者は同じである」という点もメリットに挙げられれ、子ども一人ひとりの状況をより正確に細かく共有することが可能となるのです。
子どもの成長に合わせて「これから何に気をつけるべきか」や「自宅での対応の仕方」など、保護者に対してのサポートも行えることも大きなメリットの一つとなるでしょう。
従来の保育園の場合、お迎えか担当保育士との連絡ノートなどで我が子の状況を把握するのですが、家庭的保育事業ではきめ細やかな保育だけでなく情報共有も非常にしやすいことが特徴となります。
「保育所と同じ料金で利用できる」
これは利用する市町村によって異なる場合もありますが、基本の支払いは「保護者の所得に応じて」となり、保育園と同じ料金で利用することができます。
「保育園と同じ?なら、保育園に通わせた方がいいんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、家庭的保育の最大の特徴は「家庭的環境の中で、マンツーマンに近い保育を受けられる点」にあるのです。
従来の保育所の場合、児童数+年齢層も幅広いため、なかなか個々人に合った保育は提供しづらくなります。
「マンツーマンに近い保育を、保育所と同じ料金で受けられる」のは大きなメリットの一つとなり得るのです。
実際、この事業は、保護者の満足度が高い傾向にあります。
なぜかというと、以下のようなメリットがあるからです。
◆安全に十分配慮された空間かつ、家庭に近い環境で保育できる
◆異年齢保育のため、子どもたちが兄弟のような関係を築ける
◆1対1に近い形態のため、保護者に対するサポートも手厚い
0歳~2歳の子どもは、保護者の援助が必要な時期であり、これからの人生の基盤にもなり得る重要な時期でもあります。
自分の子どもをできるだけアットホームな雰囲気の中で育てたいと考える保護者は多いのです。
このことから、あえて家庭的保育事業を選ぶ保護者は増えているのです。
預ける「デメリット」とは?
この記事の最後に、預ける「デメリット」について、ご紹介しておきたいと思います。
当然、メリットがあればデメリットも存在し、その内容は以下のようになっています。
◆「施設によって保育の質に差がある」
◆「子ども・保護者と家庭的保育者との相性」
◆「保護者への負担が増える可能性がある」
◆「家庭によっては延長保育が必要な場合がある」
これも、順に捕捉を加えていきましょう。
「預けられるのは3歳まで」
上項でも記載した通り、家庭的保育事業を利用できるのは「0歳~2歳」となっています。
そのため、3歳以降も保育施設を利用する場合は、近隣の保育施設へ転園しなければいけません。
確かに、連携施設が設けられているところもあります。
しかし、(令和6年度までは)周囲に保育施設が存在しない場合、無理に連携施設を確保しなくてもいいというルールも存在します。
そのため、地域や施設によっては、「別の保育施設を探さなくてはいけない」というデメリットが発生してしまうのです。
それに、転園するということは、子どもにとってもストレスとなる場合があります。
新しい施設・新しい環境の中で、改めて人間関係を構築していくことになる……子どもにとっては不安でしょうがないかと思います。
こういった点に、注意しておかなくてはいけないと思います。
「施設によって保育の質に差がある」
冒頭でもお伝えした通り、家庭的保育事業で仕事をする人は「家庭的保育者」であり「保育士」ではありません。
中には、国家資格である「保育士免許」を取得していたり、保育の実務経験がある人もいるかもしれませんが、全員が全員そういうわけではないのです。
「家庭的保育者」というのは、一定の研修を受ければ誰でも取得できる資格です。
そのため、運営している人や施設の立地によって“保育の質に差が生じる”可能性があるのです。
施設を選ぶ際は、慎重に吟味し何度か実際に見学することをオススメします。
「子ども・保護者と家庭的保育者との相性」
少人数であるが故に、子ども自身や保護者の方と職員との相性が問題となる場合があります。
小さく・閉鎖的な空間であることから、トラブルが生じた際にはこじれてしまう可能性も否定はできないのです。
もしもの時のため、第2・第3の預け先を調べておくのもいいかもしれません。
また、施設を実際に利用するのは、“保護者”ではなく“子ども”です。
子どもが、自身の成長のために一定期間過ごす場所となるので、保護者は慎重に施設選びをするようにしましょう。
「保護者への負担が増える可能性がある」
保護者にとって負担となる可能性があるのは、「お弁当やおやつを持参しなければいけない」というパターンです。
従来の保育園の場合、副食費が保育料の中に含まれているので、栄養バランスの取れた給食やおやつなどが提供されることとなります。
しかし、家庭的保育は“自治体によって”お弁当やおやつを持参させる場合もあるのです。
ただし、家庭的保育事業は「保育園で調理した食事であれば、提供してもよい」ということにもなっています。
そのため、すべての施設がお弁当やおやつの持参が必須というわけでもないのです。
この点は事前にしっかりと確認をとっておくようにしましょう。
「家庭によっては延長保育が必要な場合がある」
最後は、「家庭環境によっては延長保育が必要なこともある」という点です。
保育日や保育時間は基本的に「保護者と職員との間で決められる」ことが多いです。
現在の環境は共働きの家庭も多いため、保護者の仕事事情や家庭環境によっては「延長保育」「土曜日などの休日保育」を希望する場合もあります。
この点を、「どうやって家庭的保育者と折り合いをつけていくか?」が重要となってくるのです。
(家庭的保育者にとっても評判の悪影響ともなるため)すべてを断られることはないかとは思います。
しかし、すべて保護者の希望通りに事が運ぶとも限りません。
(場合によっては家庭的保育者の負担が重くなってしまうため)
この点について、どう折り合いをつけていくか?が重要となってくるかと思います。
まとめ
以上が、「家庭的保育の目的・施設の条件・メリット・デメリット」についてのご紹介となります。
どんな物事にも同じことが言えますが、必ずメリット・デメリットの双方が発生することとなります。
特に、「0歳~2歳」の重要な時期を預けることとなるため、より慎重になる人も多いと思います。
我が子を預けても安心と思える場所かどうかは、実際に自分の目で確認するのが最善といえるかと思います。
ちなみに、保育料は市町村によりけりではありますが、基本的には「各家庭の収入に基づいて利用者の負担額を決める」こととなります。
つまり、他の(認可)保育園などと同じように保育料が決められることがほとんどなのです。
“従来の保育園”か“小規模保育園”か“家庭的保育事業”か……。
どれを選択するかは、家庭環境や状況によりけりかと思います。
ぜひ、家庭環境や状況に合った施設を選択できるよう、知見を広げ・見学なども利用して、自分たちになった施設を選んでみてください。