「障害者手帳」とは、何らかの障害によって“自立が困難な方”や“日常生活に支援を必要とする方”に対して、自治体から交付される手帳のことです。
しかし、種類や申請の手続きが複雑であり、そもそも「所持することでどのような制度やサービスが利用できるのかが分からない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、この「障害者手帳」について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
「障害者手帳」とはなにか?
冒頭でもお伝えした通り、これは“障害のある方”に交付される手帳のことを指しています。
「手帳を持つ=障害者としての証明となる」ということになり、「障害福祉サービス」を受ける場合や「障害者雇用枠」で仕事を探す際にも必要となるのです。
障害者手帳には「3つの種類」が存在する
はじめに
この手帳には、以下3つの種類が存在します。
2.「身体障害者手帳」
3.「療育手帳」(※)
(※)自治体により名称が異なる場合がある
いずれの場合であっても「障害者総合支援法」という、障害がある方の支援を定めた法律の対象となっています。
ただし、それぞれに基になる法律が存在し、目的も定められています。
そして、申請自体は各都道府県に出すこととなりますが、対象の疾患に当てはまらないと発行は認められません。
この項目にて、“各手帳の詳細”と“等級”について解説していきます。
1.「精神障害者保険福祉手帳」について
基になる法律は「精神保健福祉法」であり、社会生活・日常生活を送る際に制約がある人の支援や自立の目的で交付されることとなります。
ちなみに、更新は2年おきに行う必要があり、更新の際には新たな診断書の提出が必要となります。
そして、対象の疾患となるのは、以下です。
◆統合失調症
◆うつ病
◆そううつ病などの気分障害
◆てんかん
◆薬物やアルコールによる急性中毒又はその依存症
◆高次脳機能障害
◆発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等)
◆その他の精神疾患(ストレス関連障害等)
【発達障害】
◆広義の「発達障害」
等級は、日常生活における支障の程度や症状の種類によって「1級~3級」に区分されることとなります。
ちなみに、すべての精神疾患が対象ではありますが、手帳の申請を行うには「その精神疾患で初めて診察を受けてから6ヶ月以上が経っていること」が要件となります。
2.「身体障害者手帳」について
基になる法律は「身体障害者福祉法」であり、以下のように身体に疾患がある人が対象となります。
◆聴覚障害
◆平衡機能障害
◆音声・言語・そしゃく機能障害
◆上肢・下肢・体幹障害
◆心臓障害
◆じん臓障害
◆呼吸器機能障害
◆ぼうこう又は直腸機能障害
◆小腸機能障害
◆肝臓機能障害
◆免疫(ヒト免疫不全)機能障害
目的は、「就学や就労を含む日常生活の場で、身体障害のある人の支援や自立」です。
尚、等級は障害の症状や生活への影響から「1級~7級」まであります。
1級に近づくほど障害の程度が重く、1級から6級までの障害のある方が身体障害者手帳の交付対象となります。
ただし、7級の障害単体では交付の対象となりません。
「7級の障害が2つ以上ある」や「7級のほかに6級以上の障害がある」という場合に、交付の対象となります。
3.「療育手帳」について
こちらは、児童相談所もしくは知的障害者更生相談所において、「知的障害がある」と判定された方に交付される手帳です。
ただし、基となる法律はなく、全国で一律の基準もありません。
地方自治体の裁量が強く影響するものとなっています。
この手帳は「療育手帳制度について(昭和48年9月27日厚生省発児第156号厚生事務次官通知)」のガイドラインに基づいているものとなり、地域によって名前もさまざまに異なることとなります。
例えば、東京都や横浜市だと「愛の手帳」、青森県や名古屋市だと「愛護手帳」、所沢市や狭山市だと「みどりの手帳」などです。
尚、等級は(自治体によって細分化しているところもあるが)基本的には“重度”と“それ以外”に区分されています。
「申請方法」について
上記でご紹介した「精神障害者保険福祉手帳」と「身体障害者手帳」は法律に基づいて交付されるため、指定医による診断書が必要となります。
申請は、各市区町村の「障害福祉窓口」で行うこととなります。
(申請書はフォーマットがある場合もあるため、事前に障害福祉窓口で確認しておきましょう)
後は、以下を用意します。
◆申請する本人の写真(縦4cm×横3cm)
◆マイナンバーが分かるもの ※「精神障害者保健福祉手帳の場合)
尚、15歳以上の方は「本人」が、15歳未満の方は「保護者」が申請に行くこととなります。
また、代理人による申請もできますが、代理権の確認書類(委任状や申請者本人の健康保険証など)+代理人の身元確認書類(個人番号カードや運転免許証)が必要となるため、注意が必要です。
発行までの期間は、「身体障害者手帳」が申請から約1ヶ月ほど、「精神障碍者保健福祉手帳」の場合は申請から2ヶ月ほどとなります。
最後に、「療育手帳」についてですが、これは各市区町村の「障害福祉担当窓口」で申し込みをすることとなります。
まずは、知的障害判定を受ける予約を行い、判定後に必要な書類(申請する本人の写真+印鑑など)を用意し、面接を行います。
発行期間は、申請から約1ヶ月ほどかかります。
(郵送で本人に通知される)
手帳を持つ「メリット」とはなにか?
手帳を持つことで受けられるメリットはたくさんあります。
例えば、以下のような点です。
2.就職・転職で「障害者採用枠」に応募できる
3.就労でさまざまな機関のサポートを受けられる
4.所得税や住民税の「障害者控除」を受けることができる
5.「自動車税」「軽自動車税」「自動車取得税」の控除を受けることができる
それぞれ、順に解説を加えていきます。
メリット1.各種福祉サービスが受けられる
まず、受けられる控除やサービスについては、手帳の種類によって異なることとなります。
また、障害の種類や等級によっても変わるため、対応はさまざまです。
例えば、身体障害者手帳を所持していることで受けられるサービスの種類には、以下が挙げられます。
◆国税や地方税の控除または減免
◆補装具購入費の助成または支給
◆障害者の生活支援を目的とした住宅リフォーム費の助成
◆公共交通機関など各種運賃や通行料の割引
◆郵便料金、NHK受信料、公共施設入館料など一部公共料金の減免または無償化
※あくまで一例です※
また、手帳の種類や等級だけでなく、所得状況や自治体などによっても受けることができるサービスは変わってきます。
そのため、詳細はお住まいの自治体のホームページや障害福祉窓口などに確認をしてみてください。
メリット2.就職・転職で「障害者採用枠」に応募できる
手帳を取得することで、就労に関してもさまざまな支援や配慮を受けることができます。
その一つに、就職・転職時に「障害者雇用促進法」に基づく企業の「障害者採用枠」を活用できることができます。
障害者求人で働くことによって、「働きやすくなる」というメリットがあるのです。
メリット3.就労でさまざまな機関のサポートを受けられる
上記に加え、以下のようなさまざまな場面で、専門の機関によるサポートを受けることができるようになります。
◆職業訓練支援
◆就職活動支援
◆定着支援
◆転職支援 など
これらは、企業への就職だけでなく、在宅での就業を希望する場合にも受けることができます。
ちなみに、代表的な支援機関としては、以下が挙げられます。
●障害者就業・生活支援センター
●地域障害者職業センター
●自治体などから指定を受けた一般相談支援事業者
など
こういった機関が相互に連携し、障害者の就労支援にあたっているのです。
メリット4.所得税や住民税の「障害者控除」を受けることができる
これは、「納税者本人」「配偶者」「扶養親族に障害がある」場合の所得控除の制度になり、金額は以下のように分けられています。
◆特別障害者:所得税40万/住民税30万
◆同居特別障害者:所得税75万/住民税53万
尚、より困難が多い場合は「特別障害者」として通常よりも高い控除を受けることができます。
ただし、この障害者控除を受けるには、会社員の方は年末調整で「扶養控除等の申告書」を提出することが要件となります。
(個人事業主や年末調整対象外の方は、確定申告の際に申告する必要がある)
この詳細については、お住まいの税務署に確認を取ってみてください。
メリット5.「自動車税」「軽自動車税」「自動車取得税」の控除を受けることができる
これは、「手帳を所持している本人が運転する場合」もしくは「本人と生計を共にする方が、障害のある方の通院・通学・通勤などのために運転する場合」に、受けられる可能性がある控除となります。
詳細は各都道府県や市区町村によって異なりますので、こちらもお住まいの自治体に相談してみてください。
「デメリット」は存在するのか?
デメリット……といえるかは分かりませんが、いくつかこれに近いものはあります。
一つは、「申請や更新などに手続きがかかる」という点です。
上項でも記載した通り、申請から交付までは“1ヶ月~2ヶ月”ほどかかります。
それに、交付されるまでに申請や更新の際には、特定の書類や写真も用意しなければいけません。
そしてもう一つは、「障害者手帳を活用した障害者雇用の場合、(一般雇用と比べて)待遇や昇進の面で悪くなる可能性がある」という点です。
あくまで可能性の話であり、(一般雇用であっても)”自身の経歴や努力次第”ということに大きな違いはありませんが、この点にも念のため注意しておいた方がいいのかもしれません。
ただし、手帳を持っていることを企業に開示することは“義務ではない”です。
実際に、障害者手帳を持ちながら一般雇用で働くという選択肢もあります。
まとめ
以上が、「障害者手帳」についてのご紹介となります。
人によっては「障害者手帳を持つことで、周りの方に障害があることが伝わるのでは……?」と不安を感じる人もいるかもしれません。
しかし、自分から言い出さない限りは、伝わることは基本的にはありません。
また、「手帳を取得することは任意である」ため、申請をしていないのに送られてくることもありません。
加えて、“手帳を返納する”こともできます。
メリット・デメリットを含め、受け取り方は人によって変わります。
もちろん、この記事内でご紹介した内容も、人によって見方は違ってくるはずです。
ここで挙げた項目を参考にして、「申請すべきかどうか?」「自身にとってのメリット・デメリットは何か?」を考えて、申請を行うかどうかを判断してみてください。