現在の日本は「超高齢化社会」に突入しており、今後ますます介護のニーズは高まっていくことが予想されています。
しかしニーズに反して、介護業界は職員(人材)の確保が難航しているのが現状です。
それはなぜか。
介護業界の仕事は、「キツイ・大変・給与が低い」といったイメージが定着してしまっているからです。
そこで、人材を確保する(定着率を上げ、離職率を下げる)ための施策の一つとして作られたのが、「介護職員処遇改善加算」という制度なのです。
今回は、この制度について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
「介護職員処遇改善加算」ってなに?
介護士としてすでに勤務している人は、給与明細表に。
介護の仕事をお探しの方(就職・転職など)は、求人情報を閲覧した際に……。
それぞれ「手当」の項目に、「処遇改善手当」というものが記載されているのを目にしたことはないでしょうか。
この手当が、ここでご紹介する「介護職員処遇改善加算」という制度に関連してきます。
この制度のことを端的にいうと、「キャリアアップの仕組みを作ったり、職場環境の改善を行ったりした介護施設や事業所に、報酬という形で介護職の給与を上げるためのお金を支給する」というものです。
介護の仕事は、非常に大変であり、体力も使います。
しかし、他の医療職と比べても「賃金が低い」といわれています。
「仕事内容・仕事量と、給与が釣り合っていない……」
このことから介護士になる人が少なく、仮に介護士になったとしても、仕事の大変さから早期に退職をしてしまう人が多いのです。
ただ、冒頭でもお伝えした通り、現在の日本は「超高齢化社会」に突入しており、年々高齢化が進んでいます。
“人生100年時代”なんて言葉も出てきています。
「どうすれば、介護士の離職率を下げ、定着率を上げることができるのか?」
「どうすれば、介護士不足を解消できるのか?」
この問題……つまり、「介護職員の処遇を改善するためにはどうすればいいか?」に対してできた制度が「介護職員処遇改善加算」なのです。
ちなみに、この制度(手当)は介護士だけに設けられたものではありません。
例えば、
◆生活支援員
◆保育士
◆訪問支援員
などの「障害福祉サービス」に従事する職員も対象としています。
※「障害福祉サービス」については、以下記事を参考にしてください※
手当が支給される「流れ」について
この手当が支給されるまでの流れは、以下のようになります。
↓
2.上記の計画を実施し、都道府県や市町村などの自治体に「報告書」を提出する
↓
3.”介護職員のためになる取り組みを行っている”と認められた事業所に、報酬として「給料の上乗せ費用」が支給される
↓
4.事業所で勤務している職員に「処遇改善手当」を支給し、給与がアップする
つまり、言い方を変えると「すべての介護事業所で、この手当が支給されるわけではない」ということです。
「介護士の処遇改善の取り組みを行っている事業所で、それが国から認められた施設のみもらえることができる」のです。
職場によっては、同じような業務内容であっても手当がつくところとつかないところがあります。
処遇改善手当は“義務”ではなく、あくまで“権利”という点に注意が必要となります。
このことから、就職・転職をお考えの方は、「手当がつくのかどうか?」を事前に調べておいた方が良いかと思います。
ちなみに、この制度で事業所が取得したお金は、“介護職員に賃金として還元することが義務付けられている”こととなります。
もし仮に、「不正に受給していた場合はどうなるの?」と不安を感じる人もいるかもしれません。
しかし、事業所は「介護職員処遇改善実績報告書」を自治体に提出しなければいけません。
このことから、不正はできないようになっているのです。
手当が支給される「条件」とは?
上項でも記載した通り、この手当はどの事業所でも支給されるものではありません。
事業所側としては「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」の2つの条件をクリアしなければならないのです。
まず、「キャリアパス要件」は、以下の3種類があります。
◆Ⅱ 資質向上を図るために計画を策定。研修を実施もしくはその機会を設ける
◆Ⅲ 昇給する仕組みもしくは、基準を作り定期的に昇給を判定する仕組みを設ける
そして、「職場環境等要件」というのは、“賃金改善以外の処遇改善の取り組みを実施する”ということです。
つまり、「職場環境の改善などを行う」ということです。
手当の支給に条件はある?支給方法は?
次に、処遇改善手当の支給方法についてです。
結論から言うと、この手当の支給方法については、これといった決まりはなく、基本的には各事業所に任せていることとなります。
そのため、正社員(正規雇用)のみに支給しているところもあれば、アルバイト・パート・派遣社員などの非正規社員に対しても支給している事業所があります。
また、資格の有無も問われません。
有資格者でも無資格者でも、支給している事業所は手当を支給しているのです。
ただし、一つだけ注意点があります。
支給対象となっているのは、「介護職に従事していること」「実際の現場で介護業務に従事していること」となります。
つまり、「看護師」や「栄養士」など他の職種に従事している場合は、対象外となるのです。
また、「ケアマネージャー」や「生活相談員」などの、直接介護に携わらない人も対象外となります。
(法人代表者、施設管理者、サービス管理責任者なども加算の対象外となる)
また、以下のような事業所も、加算の対象外となります。
◆訪問リハビリテーション
◆福祉用具貸与
◆特定福祉用具販売
◆居宅療養管理指導
◆居宅介護支援
◆介護予防支援
この手当は、あくまで「介護業務に従事している人」が支給対象となっているため、それ以外の事業所・職種は対象外となってしまうのです。
この点には、十分注意しておきましょう。
「特定処遇改善加算」との違いはなに?
「仕事内容・量に反して、給与が安い」という理由から、なかなか介護職員の人手不足は改善されません。
それに、「長い間1つの事業所で働いても、なかなか給与がアップしない」といったイメージを持つ方も多く、長らく“リーダー職の定着率”が問題視されていたのです。
そこで、国は「特定処遇改善加算」という制度を、2019年10月より新たに設けました。
これは、「技能や経験がある介護職員に対しての処遇改善を目的に創設されたもの」となります。
基本的な条件としては、「介護福祉士の連続経験年数が10年以上であること」が挙げられます。
ただし、「勤続10年以上」というのはあくまでも指針であり、必須事項ではありません。
例えば、同じ職場で10年以上働いていなくても、他での経験が認められたり、所持しているスキルが評価されたりすれば、この制度の対象となる場合があります。
(経験や技能や職場内でのバランスを考慮して、加算対象となる人は事業所単位で裁量しても良いとされている)
このことから、上記でご紹介した制度(手当)とは異なるものとなります。
ただし、完全に別物というわけでもなく、支給は上乗せする形で支払われることとなります。
処遇改善手当の「今後」について
介護職員への処遇改善は、2009年からはじまり、拡充されてきました。
ただ、これら制度は「介護職員の人材確保、定着率・離職率といった問題に対する処置である」という一方で、「各事業所の経営努力や労使間の交渉を行うべき」といった指摘もあります。
加えて、介護職員の処遇改善処置は“保険料の負担増”にもつながることとなります。
2022年2月~9月までは“補助金”、2022年10月以降は“介護報酬での対応”となりますので、現場の事務負担が増えることとなるのです。
このことから、負担軽減のために事務手続きを工夫する必要がありますし、介護報酬での対応は利用者負担が増える可能性があり得ます。
大別すると、
◆利用者負担増
◆保険料負担増
といった点(対策)が、今後の重要なポイントとなるのです。
確かに、人材確保・定着率を考えれば、処遇改善は重要なテーマの一つとなります。
とはいえ、これからもずっと介護報酬だけで対応していくのは難しいともいえます。
今後も、処遇改善手当は継続されますが、この点(どう財源を生み出していくか?)に対してどう対応していくかが、今後の課題となるかと思います。
まとめ
以上が、「介護職員処遇改善加算」についてのご紹介となります。
この制度は、介護者の賃金を上げるための制度の一つであり、介護職に従事している人の給与に大きく影響してくる重要なものです。
実際、この制度が導入されてから、介護業界の給与や職場環境は、徐々に改善されつつあることも事実なのです。
ただし、すべての介護事業所に支給されるものではなく“一定の条件を満たさなくては支給がされない”ということと、“職員にどの程度還元されるかは事業所に一任されている”といった点には、注意しておかなくてはいけません。
「介護職=処遇改善手当が支給されるもの」と考えていると、いざ就職や転職をしたときに、「就職先の事業所では手当が支給されなかった」と後から気づいてしまう可能性もあるかもしれません。
「介護職員処遇改善加算をたくさんもらえる職場は、働きやすい」ということでもありますので、就職・転職時には“支給の対象かどうか?”もしっかりと確認を取っておいた方がいいかと思います。