現代の日本は高齢化社会であり、健康寿命も年々長くなっています。
これに伴って、定年後も働く意思のある高齢者が増加しており、政府も“60歳以降も働き続けられる社会”を目指して法改正を進めています。
今回ご紹介する「再雇用制度」は、定年後も働き続けられる制度の一つです。
制度の内容やメリット、注意点などについて、ご紹介をしていきたいと思います。
「再雇用制度」とはなにか?
求人情報を見ていると、「再雇用制度」の有無が記載されていることがあります。
この制度は、「退職した労働者の希望次第で、企業が新たに労働契約を結ぶ制度」のことを指しています。
この制度には、以下2つの種類が存在します。
一つは、定年を迎えた従業員を再び雇用する「定年後再雇用制度」。
そしてもう一つは、ジョブリターンやアルムナイ(※)など、「転職や家庭の事業で離職した人を再雇用する」……いわゆる「出戻り」と呼ばれるものです。
(※)アルムナイ:自社の離職者やOB・OGのこと
現在の日本は少子高齢化が顕著であり、定年を迎えた世代の活躍の場を広げることが急務となっています。
以前は“労使協定で定めた基準によって限定する”と定められていたのですが、2013年(平成25年)に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が改正されて、希望者全員が対象となったのです。
「定年後再雇用制度」とはなにか?
2013年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が改正されて以降、多くの企業で定年を迎えた高齢者の再雇用が進んでいます。
まず、上記の法改正によって「60歳未満の定年」が禁止されることとなりました。
加えて「高齢者雇用確保措置」が定められ、以下3つの改善措置のうち1つを実施することが企業に義務付けられたのです。
②65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度など)の導入
③定年の廃止
今回ご紹介する「定年後再雇用制度」(再雇用制度)は、上記②の「継続雇用制度」の一つとなります。
ちなみに、上記で挙げた改善措置を行わなければ法令違反となり、指導・勧告の対象となります。
また、指導・勧告を行っても改善されない場合は、企業名公表の罰則が科されることとなっています。
「勤務延長制度」との違いについて
上記でご紹介した通り、継続雇用制度には「再雇用制度」と「勤続延長制度」が存在します。
この2つの最大の違いは、“退職手続きをするかどうか”にあります。
まず「再雇用制度=再び雇用する」という意味であり、従業員をいったん退職扱いにして退職金を支払った後に、新たに雇用契約を交わすこととなります。
このため、再雇用時には従業員の雇用形態や労働条件が変更されるのが一般的となります。
対して「勤務延長制度=勤務期間を延長する」という意味であり、定年になっても退職扱いにはならず雇用を継続することとなります。
そのため、賃金をはじめ職務内容が大きく変わることは基本的にありません。
(退職金の支払いは延長期間の終了後となる)
両者にはこのような違いがあります。
ちなみに、再雇用制度は希望する従業員全員が対象であり、自社で継続的に働くことはもちろんグループ会社などで働くことも認められます。
「高齢者就業確保措置」との違いについて
上記でご紹介した「高齢者雇用確保措置」の適用範囲は、65歳までとなります。
これに加え、2021年4月1日に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正され、そこで追加されたのが「高年齢者就業確保措置」というものになります。
この制度の目的は、“70歳までの高年齢者の就業機会を確保すること”です。
(「70歳定年法」「70歳就業法」と呼ばれることもある)
ただし、あくまで”努力義務”であり、定年を70歳までに引き上げるものではありません。
就業機会を確保する措置は以下の5つです。
◆定年廃止
◆70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度など)の導入
◆高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
◆高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に「事業主が自ら実施する社会貢献事業」もしくは「事業主が委託・出資する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入
ちなみに、定年を延長する国は日本だけでなく世界的にも増えつつあります。
日本でも、今後定年年齢がさらに延長される(70歳までの就業も義務化されるなど)ともいわれているため、企業側はなるべく早期に方針をまとめておくのが賢明かとも思います。
制度が誕生した理由とは?
冒頭で、「健康寿命が長くなり、定年後も働く意思のある高齢者が増加している」とお伝えしました。
これも、確かに再雇用制度が誕生した理由の一つにはなるかと思います。
しかし、制度が誕生したもう一つ重要な理由があります。
それは、「年金の支給開始年齢が引き上げられている」という点です。
2000年(平成12年)の法改正によって、老齢厚生年金の支給開始年齢が60歳→65歳に引き上げられました。
そのため、60歳の定年後に無収入になる人が多くなり、それを解決するために「高年齢者雇用安定法」が生まれたのです。
制度を導入するメリットとは?
企業側が制度を導入するメリットとしては、以下が挙げられます。
2.「知識やスキルを活用できる」
3.「コストを抑えることができる」
4.「人手不足を解消することができる」
順に補足を加えていきたいと思います。
メリット1.「顧客との関係性を維持できる」
担当者を変更すると、新たな担当者と顧客との間で問題(リスク)が生じる可能性があり得ます。
例えば、顧客満足度の低下や契約の終了などです。
「定年した社員を再雇用する=顧客担当を変更しなくてすむ」ということにつながるため、引き続き顧客との良好な関係を維持することができるようになるのです。
メリット2.「知識やスキルを活用できる」
定年まで勤務した社員は、会社にとって非常に貴重な人材となります。
なぜなら、長きにわたって培われた経験やスキルにもとづくノウハウ、専門知識を十分に持っているからです。
また、積み上げてきた顧客との人脈も貴重な財産であり、そこから新たなビジネスへの発展につながる可能性もあるでしょう。
定年した社員を再雇用することで、こういった知識・スキル・人脈などをうまく活用することができるようになるのです。
加えて、熟練者が社内に残ることにより、その技術を後続の従業員に継承できるという点もメリットとなります。
メリット3.「コストを抑えることができる」
事業経営というのは「人」で成り立っています。
そのため、社員が退職すれば、その分人材を補充しなければいけません。
しかし、「新規採用する=採用コストや教育コストなどの”コスト”が発生する」こととなります。
それは、費用はもちろん時間や既存社員の仕事量の増加にもつながることとなります。
また、せっかく新規採用したのに、早期に退職されてしまうなどのリスクも発生するかもしれません。
しかし、定年した社員を再雇用すれば、採用コストを削減でき、教育コストも抑えることができます。
もちろん長きにわたって勤務してくれた社員が「合わないから早期に退職する」ということもありません。
これらのことから、総じて“コストを抑える”ことが可能となるのです。
メリット4.「人手不足を解消することができる」
少子高齢化である現代は、どこの企業も人手不足が顕著です。
また、上記の通り新規採用を行ったとしても、その新入社員が主戦力となるには大なり小なりの時間がかかることでしょう。
しかし、定年を迎えた社員を再雇用すれば、「有用な労働力が確保できる」というメリットにつながります。
ちなみに、再雇用制度の場合は“退職後に再度労働契約を結ぶ”こととなるため、再契約した労働条件によって賃金を見直すこともできます。
正社員よりも人件費を抑えることにも期待できる場合があるのです。
制度導入のデメリットとは?
上記で説明した内容を見ると、企業側からすればメリットばかりのように感じるかもしれません。
しかし、メリットがあれば当然デメリットも存在します。
実際、制度の導入に対して懸念する声も聞かれるのです。
その理由は3つあります。
2.「高齢者は新しい価値観や視点に対応しづらい」
3.「肉体的な衰えによって、作業の進行に遅滞が起こる可能性がある」
順に補足していきましょう。
デメリット1.「世代交代が行われない」
一つは、「世代交代が行われない」ということ。
いくら定年の上限が上がったとしても、一人の社員が未来永劫ずっと働き続けることはできません。
いずれは、定年退職を迎えるときがくるのです。
しかし、再雇用制度や雇用延長制度などに頼りすぎると、いつまで経っても世代交代が行わず、人材育成やキャリア形成に弊害が出て企業の将来性にも影響する可能性があるのです。
デメリット2.「高齢者は新しい価値観や視点に対応しづらい」
そしてもう一つは、「高齢者は新しい価値観や視点に対応しづらい」という考え方もあります。
社会のニーズは時代とともに変化します。
若者のニーズに敏感に対応しやすいのは、やはり同世代の若者となります。
このことから、現代社会に必要とされるサービスや商品開発に支障が出る可能性もあるのです。
デメリット3.「肉体的な衰えによって、作業の進行に遅滞が起こる可能性がある」
最後は、「肉体的な衰えによって、作業の進行に遅滞が起こる可能性がある」です。
特に、介護や保育の業界は体力を必要とする仕事であり、年齢とともに日々の業務がより大変なものになっていく可能性があります。
もちろん、裏方を任される場合も多くはなるでしょうが、人手不足の現代では(状況によっては)現場に赴かなければならない場合もあるかもしれません。
そういったときに、職員の年齢層が高すぎると、いざというときに現場が機能しないこともあり得るのです。
制度導入時の「注意点」について
再雇用制度導入する際の注意点としては、以下が挙げられます。
2.業務内容
3.給与待遇
4.健康管理
再雇用というのは、「一度退職をしたうえで、再度雇用契約を結ぶ」ということであり、再雇用時にこれまでとは条件が異なる場合もあり得ます。
例えば、雇用形態が「嘱託社員」「パート」「アルバイト」などになり、それに合わせて給与や待遇が(以前に比べて)悪くなってしまう。
再雇用した際の所属により、元部下が上司になる……などです。
これにより、再雇用したはいいものの、その社員のモチベーションが低下する可能性もあり得るのです。
実際、定年後に再雇用された人の中には、賃金や待遇について「想定外(不満がある)」と感じている人もいるようです。
契約内容に、企業と従業員の両方が納得できなければ、それこそトラブルや士気低下を招く要因にもなりかねません。
再雇用契約の段階で、雇用契約の内容や社内体制を十分に整えてから進めていくことが、トラブル回避のためにも重要になってくるかと思います。
また、最後の「健康管理」についてですが、年齢が上がればどうしても体力は衰えるものであり、これまでと同じような働き方ができなくなってしまう人も多いかと思います。
「社員それぞれの体力に応じた職を用意する」や「勤務日数や勤務時間を見直し、健康を維持できる勤務形態を導入する」などして、健康管理にも十分気を配っていく必要があるといえます。
まとめ
以上が、「再雇用制度」についてのご紹介となります。
高齢化が進み、定年後も働くことを希望する人は増加傾向にあります。
会社側としても、専門知識・技術・スキルを持った働く意欲のある高齢者が、定年を機に会社を去るのは大きな損失にもなります。
そのため、再雇用制度は、企業側にも従業員側にもメリットがある制度といえるのです。
しかし、注意しなければいけない点も多々あります。
再契約時の内容に企業側と従業員の双方が納得できなければ、トラブルや士気低下を招く要因にもなってしまいます。
また、社員の高年齢化が進めば、社会のニーズについていけずに社会に取り残されていく可能性もあるかもしれません。
大切なのは、「企業の中で制度を確立し社員数を充実させつつ、技術や知識を継承できる若者も育てていくこと」だと思います。
少子高齢化は年々深刻化しており、新たな若手人材を確保することが難しくなっていることも事実です。
しかし、若手の存在が事業の存続に大きな影響を与えることも、また事実なのです。
継続的な企業の成長を考えるならば、高齢者と若い世代それぞれのプラス面をバランスよく取り入れていく採用を目指していくべきだと考えます。