「認知症」というのは、“脳の神経細胞の急激な破壊によって起こるもの”であり、特に高齢者に発症しやすい病気です。
症状は、原因となる疾患により異なり、その種類は数多く存在します。
この認知症の発症リスクを減らすには、普段からどういった点に注意すればいいでしょうか。
また、もしご家族など身近な方に認知症の可能性がある場合、どう対応すればいいでしょうか。
今回は、“認知症の予防法・対処法”について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
尚、“認知症の症状・原因”については、以下記事にてご紹介しておりますので、以下を参照いただければ幸いです。
年代別に見る認知症の予防について
はじめに
認知症は特に高齢者の方に発症しやすいものであり、“加齢”を止めることは絶対に不可能です。
誰にでも起こり得る可能性があるものの、しかし日頃の生活次第である程度予防することも可能ではあります。
どんな病気にも言えることですが、予防法を知り日頃の生活に取り入れることは、非常に大切なことです。
「認知症になるのは仕方がない」と諦めるのではなく、予防するための行動を取ることを意識してみてください。
また、認知症とそうでない人の境界線は非常に曖昧であり、少しでも違和感や不安を感じたら、すぐに予防を開始することをオススメします。
早め早めに行動することが、予防につながるのです。
では、具体的にどのような行動を取ればいいのか。
以下より、年代ごとにその予防法について解説していきたいと思います。
「20代~30代」
「そんな若い時期から予防しなけれいばいけないの?」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、認知症の中には20代~30代ごろからゆっくり進行することもあるのです。
若いときからしっかりと予防をしておくことで、将来の重症化を防ぐことにも役立ちます。
大切なことは、「動脈硬化を予防する」ことです。
なぜなら、認知症の原因の一つに「動脈硬化」が挙げられているからです。
これによって脳血管が脆くなると、脳に重大なダメージが加わる恐れがあり、結果として認知症のリスクが高まってしまいます(動脈硬化は、早い方は10代から始まっている)。
この主な原因となるのは、「運動不足」「喫煙」「飲酒」「乱れた食習慣」が挙げられます。
理想は生活習慣全般を見直すことなのですが、その中でもまず“適度な運動”を心がけてみてください。
適度な運動を取り入れることは、動脈硬化のリスク軽減に役立ちます。
そして、“生活習慣全般を見直すこと=規則正しい生活を習慣化させること”も大切です。
“習慣”とはいわば“癖”であり、その癖は年齢を重ねるごとにどんどん蓄積されていきます。
規則正しい生活を癖づければ、認知症はもちろん生活習慣病などにもかかりづらくなりますし、その逆に不規則な生活を続けていれば、それが悪循環となって将来さまざまな病気へのリスクが高まってしまいます。
そしてもう一つ、「自身で考える力を養うこと」も重要です。
新しいことにチャレンジする、困難にぶつかったときに考え解決に導く……など、自分なりに考えて工夫することで、脳内の神経ネットワークが多く作られるのです。
体と同様に、脳も使用しなければどんどん劣化していきます。
若いころから規則正しくかつ自立した生活を送ることで、認知症はもちろん、将来のさまざまな病気の予防にも役立てることができるのです。
「40代~50代」
この年代になると、「生活習慣病の予防」にも気を配るようにしましょう。
生活習慣病は、認知症のリスクを高める要因となり得ます。
特に注意すべきは、「高血圧」と「動脈硬化」です。
どちらも脳血管に負担をかけることから、認知症を誘発する恐れがあります。
尚、高血圧の原因はさまざまではありますが、特に“過剰な塩分接種”には注意しておきましょう。
塩分は血管を収縮させる作用があるので、摂りすぎると慢性的に血圧が高くなってしまいます。
後は、糖質・脂質の摂りすぎにも要注意。
結論として、上述でもご紹介した“規則正しい生活”が予防に役立つのです。
「60代以降」
年齢を重ねるごとに認知症の発症リスクは高まり、特に60代以降の方は注意しなければいけません。
結論としては、やはり「規則正しい生活を送ること」が重要です。
上述でも記載した通り、習慣はどんどん積み重なっていきます。
これまでの食事・運動・喫煙・飲酒の習慣の積み重ねが、歳を追うごとに顕著に表れてくるのです。
だからこそ、歳をとってから困ることがないように(リスクを軽減するためにも)日々の生活習慣を正しくする必要があるといえます。
特に、運動不足と喫煙は、認知症の発症に深い関わりがありますし、他の病気も誘発しやすいので注意が必要です。
尚、早ければ早いに越したことはありませんが、“やらないよりは良い”で、歳をとってから生活習慣を見直しても決して無駄ではありません。
少しでも不安を感じるならば、できるだけ早くに生活習慣の改善を図ってみてください。
また、「認知症かも……?」と少しでも不安を感じてきた場合は、できる限り早めに医療機関を受診するようにしてください。
発見・治療が早ければ早いほど、その後を進行をゆるやかにできるかもしれません。
また、「最近物忘れが増えたな……」と感じるなら、まずはかかりつけ医に相談してみるでもいいでしょう。
予防の際の5つのポイントについて
認知症予防をうまく生活に取り入れておくと、万が一にも認知症になったとしても、症状の進行をゆるやかにできる可能性があり生活の質を保つことができます。
そのためのポイントは、以下の5つです。
②「適度な運動を心がける」
③「達成感を味わう」
④「他者と交流する」
⑤「無理なく継続する」
順に、補足を加えていきます。
ポイント①「生活習慣病を予防・治療する」
認知症の原因は複数ありますが、その中でも「アルツハイマー型認知症」や「脳血管性認知症」は発症の原因となりやすいものです。
これらは、「糖尿病」や「脳血管障害」などの生活習慣から引き起こされる病気との関連性が強く、これらの予防や治療が、間接的な認知症予防につながるのです。
すでになんらかの生活習慣病にかかられている人は、適切な治療を受ける。
そうでない人は定期診断を受けるなどして、生活習慣病の予防に励んでみてください。
ポイント②「適度な運動を心がける」
ここまでにお伝えした通り、運動は認知症予防や生活習慣病予防の一つの手段として非常に大切なものです。
そもそも、“体を動かすことができる=脳が正常に機能している証拠”にもなります。
つまり、“運動することで脳を刺激することにつながる”のです。
できるかぎり、運動を長く継続していくことをオススメいたします。
尚、年齢を重ねると体が思うように動かず、運動量が低下してしまう場合もあると思います。
その場合は、自分のできる範囲で構いませんので、体を動かす習慣を作ってみてください。
散歩をするだけでも大丈夫です。
ただし、「体を動かすのが億劫だから……」「腰や関節などが痛いから……」といって、運動をしないことは返って逆効果となってしまいます。
そのまま体を動かさなくなると、どんどん痛みが増していきますし、余計に症状が悪化してしまいます。
そうすると、余計に生活の幅が狭まってしまう原因となってしまうのです。
「きちんと栄養を摂取して筋肉を維持する」「適度に体を動かし、運動する習慣を作る」
体のメンテナンスをしっかりと行い、健康寿命を高めていく工夫をしてみてください。
ポイント③「達成感を味わう」
どんな物事にも言えることですが、「成果が見えないものに漠然と取り組む」ことは、なかなか長続きしません。
“成果が出る=達成感を味わう”ことにつながり、それが長く継続するためのコツとなるのです。
そのため、「記録や作品として残す」などをして、“自身のこれまでの取り組みが目で見えるような工夫をする”と良いかと思います。
ポイント④「他者と交流する」
人間は、“社会的動物”と言われており、決して一人で生きていくことはできません。
「他者との交流がなによりも脳を刺激し、生活のゆたかさをもたらしてくれる」のです。
年齢を重ねると、人や社会と接する機会はどんどん希薄になっていきます。
だからこそ、自分から積極的に人と関わる時間を設けていく必要があるのです。
◆同じ取り組みをする仲間と交流する
◆共同作業を行う
◆多くの人に成果を発表する機会をもつ
このように、人と接す機会を作る工夫を行っていくことが大切です。
ポイント⑤「無理なく継続する」
もっとも大切なことは、「本人が無理なく続けられること」です。
仮にどれだけ効果がある予防法であっても、本人が嫌がってしまえば長続きしませんし、返ってストレスになってしまいます。
また、高価な材料が必要だった場合、これも長続きすることは難しくなるはずです。
「本人が”楽しい”と感じることを続け、(周囲を含め)それを継続できるよう環境を整えること」これが、最大の予防法となるのです。
認知症予防に効果的な食事について
効果が期待できる食べ物とは?
生活習慣を改善する上で欠かせないのが、「食生活の改善」です。
認知症予防(というより食生活の改善)に役立てられる食べ物としては、以下が挙げられます。
②「野菜・果物」:ほうれん草・小松菜・人参などの緑黄色野菜や、イチゴ・キウイ・桃などの果物など
③「大豆」 :豆腐・納豆・味噌など
まず①ですが、青魚には不飽和脂肪酸の一種である「DHA」や「EPA」が含まれています。
前者は「アミロイドβ」の築盛を防ぐ働きがあり、アルツハイマー型認知症の予防に有効とされています。
そして後者は、血液をサラサラにして血栓を防ぐ作用があり、脳血管性認知症予防に有効とされています。
次に②ですが、野菜や果物には、細胞を元気に保つ働きをする「抗酸化物質」が含まれています。
特に、以下3つのビタミンを一緒に取ると効果的とされています。
◆ビタミンA:にんじんやほうれん草など
◆ビタミンC:ブロッコリーやいちごなど
最後に③ですが、大豆には認知症予防に効果があるとされる「イソフラボン」が含まれています。
加えて、「アミロイドβ」を分解する働きがある「ポリフェノール」という優れた抗酸化物質が含まれています。
大豆は味噌汁などにも含まれており、無理なく続けられる食材の一つといえるでしょう。
ただし、塩分の摂りすぎには注意してください。
食事の「取り方」について
次に、食事を取る際のポイントについて、2点ご紹介します。
一つは、「過剰摂取は避ける」ということです。
食べ過ぎは生活習慣病の原因にもなりますし、高血圧・高血糖・内臓脂肪型肥満などは、認知症のリスクを高めることが分かっています。
そしてもう一つは、「バランスよく食事をすること」です。
認知症の予防に効果的だからといって、一定の食材のみを摂取し続けると栄養が偏ってしまいます。
◆高血圧の原因となる「塩分」は控えめにする
◆筋肉や脳の働きを維持する「タンパク質」を摂る
何事もやりすぎは良くありません。
また、低たんぱくや低栄養は、認知症を含めた多くの疾患の引き金となり得ます。
仮に1日3食きちんと食事を取っていたとしても、主食がほとんどを占めている食生活では、肉や魚などのたんぱく質も、さまざまな栄養素も摂れていないことになるため、実質、低たんぱく・低栄養の状態になることも少なくありません。
限られた食材だけで済ませようとせず、バランスの良い食生活、そして適度な量を意識してみてください。
認知症の治療法について
結論からいうと、残念ながらまだ認知症を根本的に治療できる薬は開発されていません。
ただ、認知症の進行を遅らせたり、日々の生活の改善を目指したりすることは可能です。
例えば、「アルツハイマー型認知症」と「レビー小体型認知症」の中核症状については、薬物療法で改善が期待できます。
残念ながら進行を止めることはできませんが、進行速度を抑制することはできます。
「血管性認知症」には効果の認められる薬はありませんが、脳卒中の再発予防として高血圧などの治療を行うこととなります。
また、認知症の症状は、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。
後者は、中核症状+本人の性格や周囲の環境などが影響して“二次的に引きこされる症状”のことを指しています。
(不安・抑うつ、行方不明、せん妄、幻覚、介護拒否など)
こちらに対する治療は、脳を活性化して残された脳の機能を維持したり、不安や脳槽などの症状を軽減したりを目的として非薬物療法を主体として行います。
その種類はさまざまに存在しますが、例えば以下など挙げられます。
◆音楽療法
◆アニマルセラピー など
加えて、症状によっては、抗精神病薬や抗うつ剤、睡眠薬などの向精神薬や漢方薬などを利用することもあります。
なんにせよ、認知症を根本的に治療できる薬はまだ開発されておらず、治療はあくまで「進行を遅らせる」「日々の生活の改善を目指す」ために行われることとなります。
とはいえ、治療可能なものもありますので、「認知症かも……?」と少しでも不安を感じるようであれば、絶対にそのまま放置せずにすぐに医師に相談することをオススメいたします。
まとめ
以上が、「認知症の予防・治療法」についてのご紹介となります。
結論としては、認知症を根本的に治療できる薬はまだ開発されておらず、治療はあくまで「進行を遅らせる」「日々の生活の改善を目指す」ために行われます。
また、予防は「効果が期待される」と言われる方法もありますが、「決定的な予防法はまだ見つかっていない」とされています。
生活要素以外にも多くの要因が関係してくるため、簡単には結論が出せないことが多いようなのです。
ただ、だからといって、なにもしなければ症状は重症化してしまう恐れがあるため、放置しておくことは厳禁です。
大切なのは、“規則正しい生活習慣を確立すること”と、“少しでも不安があれば医師に相談すること”です。
それは、認知症の予防だけでなく、生活習慣病の予防にも役立てることができるはずです。
人は、必ず歳を取ります。
そして、年齢とともに体も精神もどんどん衰えていきます。
こればかりは、どれだけ医療が発展しても止めることはできません。
しかし、若いころから正しい生活習慣を身につけておけば、健康寿命は引き延ばすことができます。
つまり、「これまでの生活の集積が、認知症や生活習慣病を退ける」ことにつながるのです。
“若いから大丈夫”ではなく、“若いうちから基盤を作っておく”ことを意識し、長く健康に過ごせるよう工夫してみてください。