介護施設にはさまざまな種類が存在し、施設によって入居条件やサービス内容が異なります。
その介護施設の一種に、「養護老人ホーム」というものがあります。
「特別養護老人ホーム(特養)」と非常に名称が似ていますが、この2つの違いはなんなのでしょうか。
今回は、「養護老人ホーム」の特徴について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
「養護老人ホーム」とはなにか?
概要
この施設は、「さまざまな理由で在宅生活が困難な高齢者の”社会復帰”を目指す施設」のことを指しています。
厳密にいうと、“養護老人ホーム=介護施設”ではありません。
“入居者が将来的に自立した生活を送れるように、サポートを行う施設”なのです。
特に、経済的に困窮している高齢者を受け入れる場所とされています。
そのため、食事や健康管理などのサービスが提供されることはありますが、基本的には介護サービスを受けることはできません。
もし入居後に介護が必要となった場合は、訪問介護などの外部サービスを利用しなければいけないのです。
(施設によっては、介護保険を利用して介護サービスを受けられる施設もある)
また、“自立した生活を送れるように支援する=社会復帰を促す”ことを目的とした施設であり、長く利用することはできません。
「特別養護老人ホーム」との違いについて
名称だけで見れば“特別”が付くかだけの違いですが、両者は入所基準も目的も大きく異なることとなります。
先に両者の特徴をまとめてみると、以下のようになります。
◆養護老人ホーム :生活環境・経済的に苦しい高齢者を養護し、社会復帰を目指す場所
◆特別養護老人ホーム:中~重度の要介護の認定を受けた方が、介護や生活支援を受けて居住する場所
【入所基準】
◆養護老人ホーム :65歳以上+自分の身の回りのことは自分でできること
◆特別養護老人ホーム:65歳以上+要介護3以上
※特例として65歳未満の方が入所できる場合もある
【サービス内容】
◆養護老人ホーム :食事の提供や健康管理などの自立支援
◆特別養護老人ホーム:身体介護中心の自立支援
もっとも異なる点は、“目的”にあります。
前者の場合、生活面・経済面で困窮している高齢者を擁護し、社会復帰ができるように支援します。
そのため、入所基準が“自立している”ことであり、介護サービスは原則として提供されないのです。
しかし特別養護老人ホームの場合は、常時介護を必要とする在宅生活が困難な高齢者の方が、介護サービスを受けながら安心した生活を送ることを目的としています。
そのため、原則として要介護3以上の認定を受けた高齢者が対象となり、介護サービスも受けることができるのです。
両者は名称こそ似ているものの、その目的は大きく異なり、それによって入居条件もサービス内容も異なることとなります。
尚、「特別養護老人ホーム」については、別の記事にて詳細をご紹介しておりますので、以下を参照ください。
施設への「入所理由」と「入所基準」について
入所する理由は?
入所の理由として挙げられるのは、以下の3点です。
◆介護施設への入所待ち
◆経済的な理由
例えば、独居による生活への不安によって施設へ入所するなどです。
高齢で身寄りがなく一人暮らしをしている場合、日常生活に不安を感じる方は多いと思います。
施設内では、食事のときの声掛けや入所中の見守りを受けることができるので、安心して暮らすことができるのです。
他にも、「次の介護施設への入所待ちをしている場合」や、「自宅で介護を受けているが、介護者が体調を崩してしまい自宅での生活が難しい場合」などもあります。
介護施設は数多く存在しますが、利用希望の方が多く待機者数も一定数います。
また、在宅介護を受けていても、介護者自身が体調を崩したりなんらかの理由で一時的に介護ができない状態(状況)に陥るかもしれません。
そういったときに、本施設を利用するという選択肢があるのです。
加えて、経済的な理由から入所する人もいます。
養護老人ホームは、他の施設と比較すると低額で利用でき、また経済状況に応じて費用が免除になることもあるのです。
費用面での柔軟に対応してくれるため、経済的な生活環境などの事情で他の施設への入所が難しい場合は、本施設への入所を検討してみるのもいいかもしれません。
入所の基準について
上述でも記載しましたが、対象となる方は原則として「65歳以上+身の回りのことは自分できる人」となります。
病気がない、介護の必要もない、自分のことは自分でできる“自立した方”が対象となるのです。
ただし、年齢に関しては65歳未満の方でも入所できる例外もあります。
また、「生活保護受給者」も入所が可能です。
“生活保護を受給している人=低所得者や日常生活を送る所得が不十分”であり、その条件に当てはまるのです。
老人福祉法の改正によって、「身体上もしくは精神上」という入居基準の指針から、「環境上の理由および経済的理由」に変わったため、より生活困難な高齢者のための指針へと変更されたのです。
どのようなサービスが提供されるのか?
原則、介護サービスは提供されないが……
まず、入所条件が“自立していること(身の回りのことは自分できること)”が条件であるため、原則として介護サービスは提供されません。
もし介護サービスの利用を求めるのであれば、訪問介護など外部のサービスを別途依頼する必要があります。
では、どのようなサービスが受けられるのか。
結論としては、「日常生活に必要な基本的なサービス」となります。
例えば、食事や入浴、定期的な健康診断などがこれに該当します。
他にも、社会復帰を目指すための相談サービスや、生活の質を向上するための行事・レクリエーションなども行われています。
ただ、“介護サービスが提供されない”ではありますが、少しずつ変化もしてきています。
というのも、高齢化や重度化が進み、介護が必要な入所者が増えているのも現状なのです。
中には、要介護認定を受けていたり、認知症の方も増えてきているのです。
そのため、施設の約半数が「特定施設入居者生活介護」の指定を受け、介護サービスを提供しています。
どのような職員が働いているのか?
施設で働く職員は、以下が挙げられます。
◆生活相談員
◆調理員
◆栄養士
◆看護師
◆医師
◆事務職員
◆機能訓練指導員
◆介護支援専門員(ケアマネージャー)
養護老人ホームは“介護施設ではない”ため、介護職員の配置は義務付けられていません。
その代わり「支援員」と呼ばれる職員が働いており、入居者15名ごとに1名の割合で配置がされています。
もちろん、入居施設であるため、夜間であっても対応してくれます。
どのくらいの費用が掛かるのか?
まず、施設利用料は“前年度の収入”によって決定されます。
1ヶ月の費用は、0円~多くても14万円以内とされています。
これは、前年度の収入により段階的に分けられており、本人が支払う場合は“39段階”、扶養者が支払う場合は“18段階”の中から決定されることとなります。
例えば、本人が支払う場合は、以下のようになります。
◆40~42万円未満:10,800円
◆144~150万円未満:81,100円
これは、税金・社会保険料・医療費などが控除された金額です。
また、被災もしくは生活保護法の適用を受けた場合は、利用料が減額または免除となります。
ただし、上記金額で決定……というわけではなく、そこから健康状態なども加味されて、最終的な金額が決まるのです。
ちなみに、一般的な介護施設のように初期費用として「頭金」や「敷金」はかかりません。
入所までの流れについて
入所までの一連の流れを簡単にご紹介すると、以下のようになります。
↓
②「入所申し込み」
↓
③「入所審査」
↓
④「入所可否の審査」
↓
⑤「決定・入所」
ここまでにご紹介した通り、施設への入所には“条件”があります。
基準を満たしたうえで、市区町村によって行われる審査にクリアしなければいけないのです。
そして、入所申し込みが完了したあとに、対象者の実態を確認するための審査が行われることとなります。
その後、入所の適否を判定し、合格すれば入所することができるのです。
ちなみに、審査基準・入所判定委員会の開催頻度は、自治体によって異なります。
開催日に合わせて入所申し込みの期限も自治体によって定められているので、入所を希望する際はご注意ください。
施設入所への「メリット」「デメリット」について
一見するとメリットが多いように感じる本施設ですが、今後の課題や問題点も少なくはありません。
特徴をしっかりと理解し、入所を検討してみてください。
「メリット」について
施設入所の最大のメリットは、「経済的支援を受けられる」という点にあります。
施設の目的が“経済的な理由により生活の難しい高齢者を受け入れる施設”であるため、他の施設に比べて大幅に低額で利用することができるのです。
生活保護法が適用されると費用が減額・免除となりますし、経済状況によっては月額利用料が徴収されないこともあります。
そのため、費用面ではかなり柔軟に対応してくれることとなります。
もう一つのメリットは、「緊急時の対応体制が整っている」という点が挙げられます。
夜間や緊急時にも対応してもらえるため、不安は大きく軽減されることとなるはずです。
特に、一人暮らしの高齢者はいざというときに頼れる人が身近にいないため、心配や不安を抱えている人は多いです。
この点を解消できるのは、大きなメリットといえます。
「デメリット」について
最大のデメリットは、「希望通りに入居できるわけではない」という点です。
入所を希望していても、必ずしも入所できるわけではありません。
その可否決定は市区町村によって行われるため、入所のハードル自体が自治体によって差があります。
仮に困窮度が同じであっても、自治体の基準によって、認められる場合と拒否される自治体もあるのです。
さらに、“運営費の予算”という問題から、入所措置を控える自治体も少なからず存在しています。
地域によっては、入居までのハードルが極端に高い場合もあるということを意識しておいた方がいいかと思います。
そしてもう一つの注意点は、「入居中に退去を迫られることもある」という点です。
例えば、以下のような場合、強制的に退去させられる可能性があります。
◆「入院などの理由で、一定期間施設での生活が難しくなった」
◆「介護保険法に基づく施設サービスの利用が可能になった」
本施設は、あくまでも“一時救済用の施設”であり、“長期間の利用を目的とはしていない”のです。
入居後に退去されられることを「措置はずし」といいますが、いつまでも養護老人ホームを利用することはできず、退去を命じられて再度困難に立たされる可能性もあるのです。
この点には、十分注意しておいた方がよいかと思います。
まとめ
養護老人ホームは、入所のハードルこそ高いものの、金銭的な理由や環境から生活できない高齢者を救済できる可能性がある施設なのです。
「他の施設に入居できない高齢者」が対象となっているので、生活に困窮している人のセーフティーネットとなっており、高齢者の貧困問題を解決するために欠かせない場所となっています。
ただし、“運営していくための予算が確保されない”など、さまざまな課題を抱えていることも事実です。
需要は高いのですが、全国的に施設数は少なく、今後も増加の傾向が見られない点も課題となっています。
超高齢化時代に突入している現代では、一人ぐらいの高齢者も年々増加していますが、定員数の少なさから「入所要件を満たしていても入所できない」人も増えているのです。
今後もこの状況がすぐに一転することはそうはないので、利用を検討している方は「条件を満たしているか?」を含め、早め早めに相談をして検討を進めてみてください。