保護者から子どもを預かり、子どもの成長をサポートする「保育士」という仕事。
保育士は女性の勤務率が非常に高く(全体の約9割)、中には子育てをしながら働く「ママさん保育士」という方もいます。
この「子育て」と「保育」は、“子どもの世話をする(面倒を見る)”という点では意味合いは同じように感じるかもしれません。
しかし、実際に子育てと保育の両方を経験したことがある方なら分かるかと思いますが、“保育”と”子育て”は、似ているようで様々な違いがあります。
今回は、この“2つの違い”、そして“子育ての経験を保育に活かせるポイント”などについて、詳しくお話をしていきたいと思います。
最大の違いは「関係性」である
保育士としての「責任」がある
「子育て」と「保育」の最大の違いは、“子どもとの関係性”にあります。
子育ては、“自分の子どもを育てること”を指しており、関係性は「親と子」になります。
対して保育は、“保護者から預かっている子どものお世話をすること”が目的であり、その関係性は「保育士と園児」となります。
極論を言ってしまうと、対象となる子どもが”他人”かどうかということです。
もちろん保育士の方々は、園児に対して深い愛情をもって接しているため、「他人の子どもだから愛情を持って接することはない」といった、冷たいものではありません。
ただ、「保育=仕事」であり、保育士としての“責任”があるため、“子どもとの向き合い方”が自分の子どもとの接し方とは少し異なるということです。
何か問題があっては、子どもだけでなく、その保護者や関係者の方々にも迷惑を掛けてしまう……。
だからこそ、常に気を配り(遣い)ながら、子どもと接していく難しさがあるのです。
子どもからしても「見え方」が違う
関係性の違いを感じるのは、大人だけではありません。
それは子ども側にも同じことが言えます。
子どもにとって、自分に接してくれる先生(保育士)は「先生=赤の他人」です。
当たり前のことですが、“親”ではなく、“親”として認識している訳でもありません。
子どもは、子どもらしい一面として「わがまま」や「いたずら」そして「甘える」と言ったことをしますが、意外と“親”と“他人”とで、その内容を使い分けていたりします。
つまり、“親”だからこそできる「わがまま」「いたずら」「甘える」があるということです。
特に、初めのうちは子ども側も保育士の先生と接することに緊張を覚えたり、おとなしかったりもするでしょう。
そこから、一緒に様々なことを経験して、子どもは少しずつ“先生に対して心を開いていく”のです。
その他の「違い」について
前項でご紹介した通り、大人にとっても子どもにとっても、“親”か”他人”かという関係性の違いで、接し方は変わってきます。
そして当然ながら、関係性以外でも「保育」と「子育て」には様々な違いが存在します。
この項目にて、それらをまとめてご紹介していきたいと思います。
子供と接している「時間」について
保育所で子どもの面倒を見る場合、基本は“子どもを預かっている時間帯”のみ、子どもと接することになります。
あくまで“保育=仕事”であり、保育士が家庭内の事情にまで深く関わることは、よほどの問題がない限りはあり得ません。
対して「子育て」の場合は、“四六時中、子どもの面倒を見る”ことになります。
家事をしている時も仕事をしている時も、子どもに何かあればすっ飛んでいきます。
そして、夜泣きなどは代表的な例ですが、夜中就寝している時間帯であっても、子どもに何かあれば子どもを“あやす”必要もあります。
「育児に休みはない」と言われる所以はこれであり、これが「子育ては大変だ」と言われる理由の一つなのです。
「協力体制」があるかどうか
「保育」という仕事は、保育士が一人だけで行う訳ではありません。
同じ職場の先生同士で、助け合い・支え合いながら、子どもたちと接していくこととなります。
中には、保育経験が豊富な“ベテラン保育士”もいるでしょう。
そういった人たちと、コミュニケーション・連携・相談などを行いながら“集団で”多くの子どもたちと接していきます。
対して「子育て」の方は、“家庭内”での関わりが基本となってくるため、基本は「自身/配偶者/両親」のみの狭い関わりが中心となってしまいます。
つまり、人によっては「子育て=孤独感を感じやすい」傾向があるのです。
もちろん「ママ友」など、家庭外での友人関係も築いていくことになるでしょうが、ママ友に子どもや家庭内の全てをさらけ出す人は早々いません。
保育士として仕事をしていた人で、産休・育休で社会との繋がりが希薄になり、孤独感を強く感じ、子育てに行き詰ってしまうことも少なくはないのです。
「大勢」か「一人」か
これは、“大人側”ではなく“子ども側”のお話になりますが……。
保育所は、子どもにとって“初めての集団生活を行う場”となります。
友だちを作る場でもあれば、お手本となる先輩のような存在もいれば、いわゆる“ライバル”のような関係の知人もできることでしょう。
そうなると、子どもにとっては「友だちや親・先生に良いところを見せたい(褒められたい)」と躍起になったりするものです。
(運動会や学芸会などの催しものは良い例ですね)
対して、“子育て=家庭内”の場合、子どもにとっては「お手本となる人がいない」状態となります。
「兄弟」や「姉妹」がいたとしても、年齢や性別が違えば動き方は大きく異なります。
- お手本(参考)にできる人がいない
- 張り合う相手がいない
このように、「どうしたらいいのか分からない」と悩む子どもも大勢いたりします。
加えて、子どもにとって「家」と「保育所」では受け取り方の違いがあります。
これは大人にも言えることですが、「家=休む(のんびりできる)場所」であり、「保育所(大人でいう職場)=良いところ見せる(成果を出す)場所」となるのです。
「家だと、宿題や勉強を全然しない」と頭を抱える親御さんもいらっしゃるかと思いますが、これはある種、家=リラックスして休める環境と子どもが安心している証明なのかもしれませんね。
「子育て」と「保育」どっちの方が大変なの?
子育てにしろ保育にしろ、それぞれに悩みはあります。
なので、一概に「○○の方が大変である」とは言い辛い状況なのは確かです。
ただ、子育ても保育もどちらも経験している人からすると……「子育ての方が大変」という人は多いかなと思います。
「保育=仕事」なので、それで収入を得ている以上、責任をもってやらなければいけない“仕事”があります。
しかし、子育てには”終わり”がありません。
それに、少し誤解を招く言い方になってしまうかもしれませんが、「自分の子どもをどう育てるか?」は、”親が決めること”なのです。
共働きが当たり前になっている現代では、「家のこと・仕事・子育て……全てをやるのは大変……」と、頭を抱える親御さんは非常に多いです。
保育士の仕事は「業務量が多い」ことでも有名なため、「仕事で疲れて帰ってきて、自分の子どもの面倒も見るのは大変……」と感じてしまう人も、現実的にいらっしゃるのも事実だったりします。
この点については、「無理をしないこと」が最善策かと思います。
一旦退職して、子育てに専念するも良し。
育休・産休を活用するも良し。
「育児短時間勤務制度」を利用して、自分の子どもの子育てに重きを置くのも良し。
現代は多様な働き方ができる時代なので、自分の置かれている状況に合わせて、働き方を変えていくのも一つの手段ではないかと思います。
尚、この時に「一人で抱え込まない」ことが重要です。
配偶者・両親・職場の先輩や同僚・知人などなど……、悩みを誰かに打ち明け・相談しながら話を進めていくと、自身の負担軽減にもなりますので、必ず悩みを一人で抱え込まずに誰かに相談することをオススメいたします。
「保育」や「子育て」の両面で”活かせること”
“意識”や“環境”と言った点で、「保育」と「子育て」の意味合いは大きく異なります。
しかし、「子どもの面倒を見る」という点で、両者の知識や経験が大きく役立つこともあります。
現役で子育てをしながら勤務するママさん保育士や、既に子育てを終えている保育士などは、保育所でも非常に重宝され大きな戦力となっているのも事実です。
「どういった経験が役立っているのか?」
この項目にて、ご紹介していきたいと思います。
1.子どもとの接し方に慣れている
保育所が預かる子どもは、乳幼児~小学校入学前(5歳児)までです。
年齢層も幅広く、またこの年頃の子どもは年齢によって“子どもとの向き合い方”も大きく変化します。
「成長の度合いに合わせた子どもとの接し方」は、保育士にとっての最重要の課題となるのです。
こういう時、保育や子育ての経験があれば(慣れていれば)、対応も比較的スムーズに行うことが可能となります。
(特に、2歳ごろから始まることが多い「イヤイヤ期」の接し方は、知っているのと知らないとでは大きな差が出ます)
また、“やってはいけないことの分別を付けさせるため”に、時には子どもに対して叱ることもあるかと思います。
そういった時にも、経験が非常に役に立ちます。
ただ“叱ればいい”のではなく、“なぜやってはいけないのか?をしっかりと理解してもらう”必要があるからです。
声量・言葉遣いなどにも気を配りながら、適切に・しっかりと子どもの心に届くような伝え方をする必要がありますが、それは経験の有無によって伝え方にも大きな差が出ると言えるでしょう。
2.保護者の気持ちに寄り添いやすい
こちらは子育て経験のあるママさん保育士であることが前提となってきますが、子育ての経験があると「保護者の気持ちを理解し・寄り添いやすくなる」というメリットが挙げられます。
なぜなら、「自分が子育てという大変さを経験(理解)しているから」です。
ここまでにお伝えした通り、子育ては“孤立”しやすく、“悩みを相談しにくい”もしくは“どう解決(対処)したらいいか分からない”状況に陥りがちです。
保育士は、「知人」ではなく「先生」なので、知り合いには相談しにくいことも打ち明けやすいでしょうし、既に子育てを終えている保育士さんであれば適切なアドバイスをもらえることもあります。
“悩みを相談しやすく・親しみやすい存在”であるのが保育士の利点でもあると思います。
保育士・保護者が、陥りやすい”罠”について
最後に、保育士の方にお伝えしておきたいことがあります。
それは、「保育士はあくまで”先生”であり、”保護者”ではない」ということです。
真面目な保育士ほど陥りやすいのが、「この子の保護者は、どうしてきちんと子育てをしない(子どもと向き合わない)のだろう……?」と感じてしまうことです。
これは、子育ての経験がない人+保育に一生懸命な人ほど、強く感じてしまう傾向があります。
保育士さんの中には、保護者にとって「辛い……」と感じてしまうようなことを平気で伝えてしまう人もいます。
そして、それは「子育て経験がない保育士」ほど、その傾向が強いと言われています。
ここまでにお伝えしたように、“保育”と”子育て”は似て非なるものです。
「保育」には保育の楽しさや大変さがあり、同時に「子育て」にも独特の大変さや楽しさがあります。
だから、子育ても経験している保育士さんの方が、“保護者の気持ちに寄り添いやすく・共感を得やすい”のです。
ただし、だからと言って「子育ての経験がないと、一人前の保育士になれない……ということはありません」。
大切なのは、”相手のことを理解(共感)する”ことです。
確かに、“体感することでしか得られない経験”というのもあります。
でも、見たり聞いたりすることで「子育てってどういうものなのか?」ということをイメージしたり知ったりすることもできるはずです。
保育士が考える「保護者にやってほしいこと」と、保護者が「子育てでできる範囲のこと」は、内容が微妙に違っていたりします。
家庭環境というのは、家庭ごとに様々ですからね。
お互いのことを、できる範囲で良いので“理解する”ことで、このすれ違いはある程度防げるのではないかと思います。
保育士との”向き合い方”について
逆に、保護者側の方々にもお伝えしておきたいことがあります。
ここまでにお伝えしてきた通り、保育士には大きく分けて2つのタイプの方がいます。
②「保育士(その人)なりの、子育てについてのアドバイスをしてくる人」
②が、上記で挙げたものです。
確かに、保育士の言うことを受け入れることも大切なことではあります。
しかし、家庭事情は家庭によって様々なので「アドバイスを受け入れたくても受け入れられない」ものもあるのではないかと思います。
ですので、「保育士のアドバイスだから……」と全てを受け入れる必要もありません。
時には受け流すことも大切で、親なりの・親としての“自分たちのやり方”というものを確立させていくのも必要なことではないかと思います。
これも、「保育」と「子育て」の大きな違いの一つと言えるのかもしれません。
まとめ
ここまでにご紹介してきた通り、“子どもの面倒をみる”という点では共通している「保育」と「子育て」ですが、その内容・意味合いには大きな違いがあります。
そして、どちらにも楽しい点・悩む点・大変な点があります。
どちらにしても、「子どもを思う気持ちや姿勢」には共通するものがあるはずなので、それぞれの良いところを活かしあうこともできるはずです。
もし保育や子育てで迷いが生じた時は、相談できる範囲で色々な人の意見を聞いてみてください。
そして、自分に合ったやり方で、子どもと向き合ってみてください。