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「潜在保育士」ってなに?潜在保育士が職場復帰をしない”3つ”の理由

この記事は約11分で読めます。

近年、保育業界で特に問題視されている「待機児童問題」

この問題が発生する原因の一つに、“保育士不足”が挙げられます。

そして、保育士不足が顕著となっている原因には、「潜在保育士」の存在が大きく影響しています。

この、「潜在保育士」とは一体何か?

そもそも、“保育不足となる原因は一体何なのか?”

今回は、この点について詳しくご紹介していきたいと思います。

「潜在保育士」ってなんなの?


まずは、「潜在保育士とはなんなのか?」という点からご紹介していきたいと思います。

“潜在”の意味は、「表面には現れず、内に潜んで存在すること」を言います。

そして、「保育士」の仕事に就くためには、「保育士免許」が必須となります。

これは国家資格であり、保育の養成校に通ったのち“保育士試験”に合格することで得ることができます。

そう、「潜在保育士」というのは、「保育士免許を取得(登録)しているのに、保育に関連する施設で働いていない(就業していない)人」のことを指しているのです。

ただし、後述で詳しくご紹介しますが、潜在保育士となってしまうには“相応の理由”が存在します。

そのご紹介をする前に、現在の保育士の登録人数について触れておこうと思います。

「保育士」の登録者数と「潜在保育士」の数について

保育士になるには、保育士免許を取得するだけではなく「保育士としての登録」を済ませなければいけません。

これは、資格の保持を証明し、保育士として働くために必ず行う手続きのことです。
(この手続きに関することは、別の記事にて詳しくご紹介したいと思います)

そして、“保育士の登録者数”“保育の仕事に従事している人の数”は、厚生労働省にて情報が公開されています。


出典:厚生労働省-保育士の現状と主な取組(令和2年8月24日)

令和2年8月時点での数値としては、保育士登録者数は“約154万人”おり、そのうち保育関連の仕事に充実している人は“約59万人”と記載されています。

つまり上記以外の“約95万人”が潜在保育士であり、社会福祉施設などで従事していない者となるのです。

要するに、「保育士登録をしている者の約1/3しか、保育関連の仕事に従事していない」ということになります。

潜在保育士には、”2つのタイプ”が存在する

実は、潜在保育士と一言でいっても、以下のように2種類のタイプに分けられます。

①保育士の資格取得後、保育施設などに“一度も”勤務した経験がない人
②保育士の資格取得後、“一度は”保育施設への勤務経験があるものの、現在は保育の現場から離れている人

端的にいうのであれば、実務経験が「ある」「ない」かの違いです。

せっかく国家資格である保育士の資格を取得したのに、「なぜ一度も勤務したことがない(しない)のか?」

なぜ、「保育の現場から離れたのか?」

これには、それぞれ理由が存在します。

一度も保育の仕事に”携わらない”理由


まずは、試験に合格したものの、一度も保育の仕事に携わらない人についての事情(理由)について、お話をしていきます。

尚、最初に誤解のないようにお伝えしておきますが、“保育関連の仕事に従事しない=それが悪い”という訳ではありません。

確かに「国家資格を取得したのに、もったいない……」と感じる人はいるかもしれませんが、人にはそれぞれの事情があり、どんな道を選択するかは人それぞれ千差万別なのです。

“正しい”・”間違っている”といった話ではないので、その点だけはご理解ください。

合格者の〇〇%が不安を感じている

先ほどと同じ厚生労働省の資料になるのですが、実は保育士試験の合格者のうち”約6割”が、保育士として働くことに不安を感じていると回答をしているのです。


出典:厚生労働省-保育士の現状と主な取組(令和2年8月24日)

その理由の中でもっとも多いのは、「労働条件・労働環境への不安」で、“31.8%”です。

次点は、「保育・子育て・実習などの経験不足からの不安」が、“24.3%”となります。

ちなみに、保育・就業経験の有無によっても不安を感じる割合に違いがあります。

◆「保育」経験あり:55.8%
◆「保育」経験なし:73.9%
◆「就業」経験なし:84.5%

就業経験なし=新卒などの場合は、特に様々な不安を抱えているようで、このことから「保育業界に一歩踏み出すことを躊躇している」となっているのかと思います。

“自信”が持てない

前項でもお伝えした通り、保育士になる(資格を取得する)ためには養成所に通う必要があります。

この養成所に通っている際の実習などで「保育をすることに自信を持つことができなかった」という理由で、保育以外の一般職に就く人が“約4割”いるようです。


出典:厚生労働省-保育士の現状と主な取組(令和2年8月24日)

その他にも、「給与・福利厚生の充実」「労働条件」「(保育の現場が)イメージと違っていた」など、様々な理由で保育業界への道を断念していることが分かります。

保育の現場から”離れる”理由


次に、「一度は保育士として保育に関する仕事に就いたものの、現在は保育職から離れる理由」について、ご紹介していきたいと思います。

退職理由でもっとも多いのは……〇〇だった!?

保育士は、女性勤務の割合が非常に高く、保育施設に勤務する”95.8%”の人が女性であると厚生労働省の資料で発表されています。

「女性が多いということは、退職理由でもっとも多いのは”出産”や”育児”……かな?」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが、実は違います。

もっとも多いのは……「職場の人間関係」です。


出典:厚生労働省-保育士の現状と主な取組(令和2年8月24日)

退職理由のトップ層の割合は以下の通りです。

◆1位:職場の人間関係(33.5%)
◆2位:給料が安い(29.2%)
◆3位:仕事量が多い(27.7%)
◆4位:労働時間が長い(24.9%)
◆5位:妊娠・出産(22.3%)

ご覧の通り、「職場の労働環境への不満」が上位4つを占めているのです。

ちなみに、2020年(令和2年)に公表されている「保育士の平均賃金」は、“30.3万円”となっています(男女合計)。

2018年(平成30年)の時は、“29.8万円”だったので、それに比べると若干収入は増加はしているようです。

……しかし、これは“公立の保育所も含まれた平均賃金”です。

あくまで“平均”なので、私立の保育所や園の経営上によっては、平均を下回っている園もあるはずです。

加えて、上記は税金などは引かれていない状態なので、仮に平均賃金に近い給与だったとしても、手取りはもっと下がってしまいます。

それに、2020年から蔓延している「新型コロナウイルス」の影響もあって、仕事量(気を遣うこと)は非常に多くなったのに、経営難から「収入が減った」という人もいらっしゃるかもしれません。

このように、“給料(待遇)と仕事量が割に合わない”として、納得のいく給与がもらえずに、離職している保育士が多いのです。

後は、1位の「職場の人間関係」ですが……、これは“一緒に働くスタッフ”もですし、“保護者(子どもの親御さんや関係者)”など、様々な人間関係が含まれます。

保育士は、色んな人たちとコミュニケーションをとっていく必要があるため、人間関係の良し悪し(合う・合わない)が自身のメンタル面に大きく影響してきます。

もちろん、結婚・出産・育児を機に退職される保育士さんも一定数いますが、それ以上に“職場環境の悪さ”の方が退職理由としては大きいという結果となっているのです。

潜在保育士が、職場復帰をしない”3つ”の理由


前項で、「退職理由」に次いで記載をしてきた通りではありますが……。

退職をした後、復職しない理由は大きく”3つ”あります。

理由①:過大な業務負担

保育士は、子どもを預かる時間帯だけ仕事をしている訳ではありません。

保育活動のための指導案を作成したり、制作物の準備をしたり……。

加えて、新型コロナウイルスが蔓延している現在では、コロナ感染を防ぐために徹底した感染対策に動いています。

詳細は以下にて。

そして止めとなるのが、“保育士不足”という点でしょう。

これらが絡み合って、保育士一人ひとりの業務負担は相当に高くなっており、身体的・精神的なストレスから離職してしまうケースが少なくありません。

これを体験してしまうと、「もう保育の業界には戻りたくない……」と考えてしまう人が多くなってしまい、余計に人手不足が問題視されていくこととなるのです。

理由②:子育てとの両立が難しい

上記のように、保育士の業務だけでも多忙なのに、ここに子育ても加わってくると「両立できる自信がない」として復職を避けるケースが挙げられます。

これは、小さな子どもの育児だけでなく、医療ケアが必要な家族の看護・介護を担っている方も同様です。

退職前と同様の働き方で保育士として勤務することは、困難(ほぼ不可能に近い)と言って差し支えありません。

ただし、同様の働き方が難しいだけであり、“周囲の理解を得られれば”、仕事と子育てを両立させることもできない訳ではありません。

実際、保育士として仕事をしながら子育てを行っている主婦(主夫)の方だっています。

それに、以前に別の記事でもご紹介したことがありますが、保育所によっては「自分が勤務する保育所に、自分の子どもを預けることができる」施設もあります。

もちろんメリット・デメリットがそれぞれあるので、誰でも気軽に利用できるものではありませんが、少しずつ“子育て中の方の復職支援”が行われていることも事実ではあるのです。

理由③:希望条件合った保育士求人が見つからない

「保育士不足って言われているなら、保育士の求人はたくさん募集されているんじゃないの?」

こう感じる方もいるかもしれません。

確かに、保育士の求人は多いです。検索をかければ、雇用形態も様々に色んな求人を閲覧することができると思います。

しかし……。

“保育士の求人数が多い=希望する条件にあった保育士求人に巡り合える”という訳ではないのです。

前項でもお伝えしたように、保育士の給与・待遇・福利厚生は“仕事量に見合ったものではない”というのが現状です。

「希望する条件に合った職場が見つからないなら、無理に保育業界に再就職する必要はない……」と保育業界への再就職を諦め、一般職へ就業する人も多いのです。

こういった様々な理由があり、「潜在保育士」は今も増加し続けているのです。

潜在保育士の、”復帰に向けた様々な取組”について

やはり政府や保育業界も、この「保育士不足」を問題視しており、現在は復職に向けた様々な支援が行われています。

例えば、「育児と子育てを安心して両立できるように……」と、「子育て安心プラン」
という制度が施工されています。

これは、“待機児童を解消するため”という側面もあり、実際にその成果は出ており待機児童の数も減ってきています。

その他にも、保育の人材確保に向けた様々な対策・支援・取組が行われています。


出典:厚生労働省-保育士の現状と主な取組(令和2年8月24日)

また、これまでの保育業界は、ハローワークや求人・転職サイトなどを活用して仕事を探す人が多く、あまり“派遣会社”を通して仕事を得ることは少なかったのですが……。

近年では、保育士を派遣する企業が少しずつ増加しており、“潜在保育士と保育所の仲介を派遣会社が行い、紹介するケース”もあるようです。

これが受け入れられる理由は、“派遣会社を通して、地域の保育所の状況や待遇などを知ることができるから”です。

上記でも説明した通り、復職に戸惑う人の中には「条件に見合った求人が見つからないから」というのがあります。

この点を派遣会社がうまくマッチングしてくれるようになるのです。

これは、ある種転職サイトでも同様のことがいえるかと思います。

専門のキャリアアドバイザーがサポートしてくれるので、比較的自分が求める条件にあった仕事を探しやすいと言えるのではないでしょうか。

後は……「働きやすい職場環境を、保育所側が作ること」かと思います。

いくら支援制度が充実し、派遣会社やアドバイザーが仲介に入って復職者が増えたとしても、“職場の労働環境が変わらなければ”すぐに人は辞めていくかもしれません。

◆人材の定着化
◆待遇面の改善
◆電子媒体の導入拡大

など、職場の労働環境を改善していくことも、潜在保育士を減らすための大切な要素ではないかと考えられます。

まとめ

「保育士」は国家資格であり、それを取得するには相応の“努力・時間・お金”を必要とします。

「やっとの思いで取得した国家資格なのに、結局保育に関する仕事に従事していない……」というのは、やはりもったいないと言わざるを得ません。

しかし、それは「潜在保育士」の方々が一番よく理解していることだと思います。

要するに、“復職したくてもできない(したくない)”のです。

何度も言うように、現在は“保育士不足”が顕著です。

ただ単に「保育士が足りません!」「保育士を必要としています!」と訴えるだけでは、潜在保育士たちの心を動かすことはできません。

労働環境や待遇の改善など、保育士の方々が「働きたい」と感じる環境整備を行っていく必要もあるのではないかと思います。

もちろん、その支援制度や労働環境の改善はどんどん形になっており、少しずつではありますが働きやすい環境にもなっています。

せっかく取得した国家資格が無駄にならないよう、これからも制度の充実化がなされ、潜在保育士の数が減っていくことを願っております。

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