「お給料日」は、誰しもが待ち焦がれる日であり、一ヶ月を働き抜いた自身に与えられる対価です。
現在は「給与振込」で支払われることが多いと思いますが、一昔前は「給料袋=手渡し」でお給料をもらっていた人も多いかと思います。
さて、このたった2行の間でも、「給与」と「給料」という2つの使い方がされましたが、この2つを同じ意味合いとして使用している方は多いのではないでしょうか。
厳密にいうと、「給与」と「給料」は異なるものであり、明確な違いがあります。
そして、もう一つ。
「就労継続支援事業所」で働く障害者の方は、給与や給料ではなく、働く対価は「賃金」や「工賃」として受け取っているのではないでしょうか。
これらの違いは、一体なんなのか。
この記事では、それぞれの意味や違いについて、詳しくご紹介していきたいと思います。
「給与」「給料」ってなに?
それぞれの意味の違いについて
毎月の「給料日」に、銀行振り込みなどで1か月分の給料が支払われますが、厳密にいうと、これは「給料」ではなく「給与」です。
まず、「給料」というのは、“企業から支払われる金額から、残業代や各種手当などを引いたもの”です。
いうなれば、正規の勤務時間に対する報酬……つまり「基本給」のことを指しています。
それに対して「給与」は、“雇用主から労働者に与えられるすべてのもの”を指しています。
所得税法28条では、「給与」については以下のように定められています。
「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう」
前回、会社から支給される「手当」についての記事を公開しました。
手当には、“法律上必ず支払いの義務が発生するもの”と、“会社の任意で支給されるもの”があり、手当には実にさまざまな種類が存在します。
そして、会社によっては定期給与とは別に支給される「賞与」「ボーナス」「寸志」などの、臨時に支給されるお金もあります。
こういったものすべてを含めたものが、「給与」と呼ばれるのです。
まとめると、以下のようになります。
◆「給料」:基本給
この2つの違いは、単純に「受け取るお金の範囲が違う」こととなります。
基本的に「給料」は、“昇給”などがない限り金額が変動することはありません。
また、“基本給”でもあり“固定給”でもある給料は、「会社側の一方的な都合では減額できない」ことにもなっています。
これは、「労働条件の不利益変更禁止の原則」といって、もし給料を減額する必要が生じたら、会社側はまず従業員の同意を得なければならないのです。
※会社によってはこの原則を守らず、総支給額はそのままに基本給を減額しているといったケースもあるので注意が必要です※
対して「給与」は、残業代などの各種手当が含まれることから、金額が毎月変動する可能性があります。
特に、医療・介護・保育・福祉の業界は、「時間外手当(残業手当)」「休日出勤手当」「深夜手当」などが発生することも多いです。
そのため、「給与」を基本にお金のやりくりを考えてしまうと、「思ったより金額が少なくても困った……」なんてこともあり得るのです。
「現物支給」も給与に含まれる
ここまでに記載した通り、「給与=雇用主から労働者に与えられる”すべてのもの”」です。
原則として、給与は“現金”で支払われます。
ただ、あくまで原則であり、必ずしも“給与=お金で受け取るもの”だけではありません。
労働協定などによっては、「現物支給」も給与に含まれるのです。
“お金”ではなく“物”などで支給するもののことを「現物給与」といい、例えば以下のようなものが挙げられます。
◆永年勤続者への記念品
◆食事代の補助
◆家賃補助や社宅
◆冠婚葬祭の見舞金や香典、ご祝儀
◆通勤以外の旅費
◆通勤旅費
尚、現物給与は「物をお金に換算した金額」に対して所得税が掛かることになります。
ただし、「創業記念品」や「永年勤続者への記念品」などは、課税対象にはなりません。
しかし、社内の一部の部署だけで配られる記念品などは、課税対象になります。
例えば、優秀な成績を残した部署だけに記念品が配られた場合、この記念品の購入金額分は「給与」に換算され、所得税がかかってしまうというわけです。
会社から何かしらの物品が支給された場合は、「その物が課税対象であるかどうか?」が必ず給与明細に記載されることとなります。
少しややこしい点ではあるのですが、貰った記念品などが課税対象なのかどうかは、必ず給与明細を見て確認をしておくといいでしょう。
「賃金」「報酬」「工賃」とは、なにが違うのか?
上項でご紹介した「給与」や「給料」と酷似した言葉として、「賃金」「報酬」などがあります。
これらは、それぞれ以下のような場で使用されています。
◆「報酬」:健康保険法や厚生年金法など、社会保険に関するルールの中で使われる
また、就労継続支援B型事業所などの就労支援を通じて生産活動を行った人には、「工賃」というものが支払われます。
それぞれの意味・違いはなんなのか。
この項目にて、もう少し深堀りしてみましょう。
「賃金」とは?
労働基準法での「賃金」の定義は、以下のように定められています。
◆労働の対償として支払うすべてのもの
つまり、給料・各種手当・賞与などは、すべて「賃金」であり、給与とほぼ同義として捉えることができます。
また、現物給与も賃金に該当します。
ただし、労働基準法において“賃金に該当しないもの”として、以下があります。
●役員報酬(雇用関係ではない)
●退職金(任意の恩恵的な支払い)
「報酬」とは?
こちらも、これまでにご紹介したものと同じく、「雇用者から労働者へ支払う労働の対価」という意味合いがあります。
報酬の指す範囲は非常に広く、「雇用関係にない相手にも支払う金銭」にも使われるのが大きな特徴です。
所得税法上では、雇用契約の有無によって「給与所得」と「報酬」が区別されています。
一番分かりやすい例を出すと、「業務委託のフリーランスへの支払いは、報酬になる」という点でしょうか。
業務委託のフリーランスは、直接雇用契約を結んでいるわけではありません。
そのため、支払いは「給与」ではなく、「報酬」という使い方が正しいのです。
また、社会保険では社会保険料の金額を決定するため、「報酬」という定義があります。
固定給や各種手当、残業代は「報酬」ですが、年3回以下の賞与は「報酬」ではなく「賞与」として区別しているのです。
「工賃」とは?
一般的な労働契約を結んで働くことが難しい人が利用する就労支援施設として、「就労継続支援」というものがあります。
この就労継続支援事業所には「A型」「B型」というものが存在し、「A型=賃金」「B型=工賃」がそれぞれ支払われることとなります。
なぜ、言い方が異なるのか。
それは、「雇用関係の有無」が存在するからです。
◆「B型」:雇用契約を結ばない
「賃金」に関しては、上記でお伝えした通りです。
そして就労継続支援B型事業所では、(行う作業は事業所によって異なるが)利用者の特性やペースに合わせた事務や製造などのさまざまな軽作業が用意され、その活動で生産したものに“利益”が発生することがあります。
しかし、これらの活動は“一般的な労働契約に基づかない”ため、生産物に対しての対価・成果報酬は「賃金」ではなく、「工賃」として捉えられているのです。
ちなみに、「工賃」は雇用契約を結ばないで得る収入となるため、「給与所得」にはなりません。
ただし、区分としては「雑所得」という所得に含まれます。
そのため、源泉徴収は行われないので、確定申告の対象となります。
とはいえ、法律上では「年間の工賃額が65万円以下の場合は必要ない」とされています。
工賃で得られる金額の平均金額は「月額16,000円前後」となっており、ほとんどの場合で申告が不要のことが多いようです。
※あくまで平均金額であり、事業所や作業内容によっては2万円などを超える工賃が発生することもある※
「手取り」とはなにか?
「給与」および「給料」は、会社から支払われる名目上の金銭もしくは現物をことをいいます。
ただ、実際に受け取れる金額は、明細に記入されている額よりも少なくなります。
それはなぜか。
給与には、「税金」や「保険料」などが掛かるからです。
「手取り〇〇円」という言葉を聞いたことがある人ももちろん多いと思いますが、この「手取り」というのは、“給与から必要な経費が差し引かれた金額”のことをいうのです。
◆「住民税」
◆「年金」
◆「保険料」(雇用保険や介護保険など)
など、さまざまな費用が差し引かれることとなります。
会社によっては、「退職金の積み立て」や「労働組合費」など、他にも差し引かれる金額があるはずです。
こういった経費が差し引かれた金額のことを、「手取り」というのです。
一般的に手取りは「額面の80%程度」といわれており、残念ながら給与の全額を受け取ることはできません。
(あくまで目安であり「累進課税」で給与が上がるほど税率も上昇する=給与の高い人ほど、給与比で受け取れる手取り金額は少なくなる傾向にある)
なお、給与明細上は「差引支給額」として表記されており、実際の受取金額である「手取り」と一致するようになっています。
この給与明細ですが、基本的に「勤怠」「支給」「控除」の3つに分かれており、“どのくらい給与から差し引かれているのか?”は、控除の項目を見れば分かるようになっています。
「給与収入」と「給与所得」って、なにが違うの?
実は、給与には「給与収入」と「給与所得」の2種類が存在します。
それぞれの違いは、以下の通りです。
◆「給与所得」:給与収入から”経費”を差し引いた給与を意味する
ちなみに「経費」というのは、“仕事のために用いた費用のこと”を指しています。
中には「給与所得」と「手取り」を混同する人もいるのですが、両者の概念は似て非なるものです。
なぜなら、「給与所得=総支給額から経費のみ引かれる」ものであり、「手取り=経費+税金や保険料などが控除される」からです。
名称が似ていても、“言葉”が違えば“意味”も異なります。
それぞれの違いをしっかりと把握し、いざというときに混同しないよう注意しておきましょう。
まとめ
基本的に、“雇用される側=給与を受け取る側”からすれば、この違いに関してさほど深い理解を持つ必要はないかもしれません。
しかし、“雇用する側=給与を支給する側”としては、これらの違いはしっかりと把握しておく必要があります。
仮に、雇用する側とされる側で金銭面の行き違いがあれば、予期せぬトラブルに発展することもあり得るからです。
また、給与は明細に記入されている額面よりも必ず少なくなります。
手取りは月によって異なりますし、給与所得控除や税金・保険料なども給与収入に応じて変動します。
もし仮に給与に関して何か疑問を感じることがあるならば、給与明細を確認して、自分で計算をしてみるのもいいかもしれません。
会社から不当に扱われないためにも、給与所得控除などは自分で計算できるようになっておくといいでしょう。